◆課題解決に向けた微細加工・微細構造解析による研究開発支援

【ナノテクノロジー・材料】 (2012/11/01公開)
電子科学研究所 ナノテクノロジー連携推進室
松尾 保孝 准教授

利用者と加工装置や分析装置を利用した様々なベストソリューションを探す


 電子科学研究所ナノテクノロジー連携推進室ではクリーンルームに設置した微細加工装置群(パターン形成から成膜、エッチングまで)を活用することによるナノメートルオーダーで制御された構造作製支援および、走査型透過電子顕微鏡(STEM)や集束イオンビーム加工装置(FIB)による材料の内部微細構造の解析やX 線光電子分光装置(XPS)などによる表面化学状態の分析といった様々な材料や製品の機能解析支援を行っています。
 基本的には装置を利用されたいユーザーの皆様に対し技術職員や研究者が講習をさせていただき、ユーザーの皆さま自ら加工や分析を行う形を取っています。しかしながら新たな課題解決に向けた取り組みの場面では、細かいサポートと適切な装置利用が必要となることから、課題に対するベストソリューションがどのようなものかをユーザーと当推進室のスタッフが共に探っていく取り組みも行っています。

微細加工・構造解析支援の実例


 これまで行ってきた当推進室スタッフとユーザーとのコラボレーションの成果について、構造作製支援と機能解析支援の例をそれぞれ一例ずつご紹介します。
・シリコン基板への微細構造作製で微小パーツの運動を制御
 本研究では、札幌市立大学の三谷先生が研究されている非対称構造による微小物体の運動制御というテーマに必要となる構造体を微細加工技術によりシリコン基板に作製しました。
 現在、スマートフォンやタブレットなどの小型電子機器に必要とされる電子部品は非常に小さなマイクロパーツになっています。これらの品質検査はマイクロパーツフィーダーと呼ばれる搬送機上でマシンビジョン(カメラ撮影による外観検査)により行われています。このマイクロパーツフィーダーがパーツを搬送するメカニズムは高周波により搬送部分を振動させることによって実現されています。この中でも直進パーツフィーダーは1 方向にマイクロパーツを搬送させる必要があるのですが、平坦な搬送基板上では周波数変調を加えない限りは特定方向に進行しません。そのため駆動部分などには特殊な制御機構が必要となってきます。一方、搬送基板上に非対称構造を作り込むことができれば駆動周波数を一定にした対称運動を用いてもマイクロパーツを特定方向に進行させることが可能となります。
 三谷先生はこれまで機械加工やレーザー加工と行った様々な加工技術でのこぎり歯状の微細構造作製を行われてきました。しかしながら加工精度(面荒さや周期など)は理論を満たすには不十分でした。そこで、三谷先生からの依頼を受けてシリコン基板上への非対称構造作製を行いました。プロセスとしてはフォトリソグラフィーと呼ばれる光を用いたパターン形成技術と異方性エッチングと呼ばれるウエットエッチング技術が基本となります。
具体的には以下のプロセスを行いました。 (1)特定の結晶方位を持つシリコン基板表面上にSiO2 熱酸化膜を形成します。 (2)フォトリソグラフによってミクロンオーダーのライン&スペースのストライプパターンの形成を行います。 (3)反応性イオンエッチング装置により保護膜として作用するSiO2 の除去を行います。これによりストライプパターンのSi-SiO2 のパ
ターンが形成されます。 (4)基板をKOH 溶液に浸漬してエッチングを行います。Si 部分がエッチングされますが、結晶面に応じてエッチング速度が異なります。これにより右図のような非対称構造が形成されます(図1)。このように左右で傾斜角が異なる構造が20mmx30mm 全面で均一に形成された基板を作製することができました。
 この基板を用いることでパーツ輸送は一定方向に搬送されました。再現性も高く、シミュレーションとのデータ比較も容易な状況です。これは微細加工技術が得意とする高精度加工を最大限に活用した結果だと考えられます。
 この支援では三谷先生のニーズとナノテク連携室が持つ技術をマッチングさせることで一つの課題が解決されると共に、新しい研究課題への取り組みにもつながっています。
・セラミックシート材料の機能評価による製品歩留まり改善への取り組み
 分析についての支援として、P社からの依頼を受けて行った積層セラミックコンデンサの誘電体シートの評価について紹介します。誘電体シートを製造する際に購入原料のロットごとに誘電体シート物性が異なり、シート上に欠陥が発生することや特性変化のために品質のばらつきが大きくなることで歩留まりが悪化するという問題に直面していました。どのような方法・視点での分析、検査が必要かを検討するために本連携室の前進であるナノテク支援室においてディスカッションを行いました。その結果、可塑剤として用いているフタル酸などが経時変化により分解することでシート物性を大きく変えることが予想されました。そこで可塑剤について赤外分光法(FT-IR 装置)を用いた分析により分解評価を行いました。評価用サンプルは経時変化を再現するために、温度や湿度の異なる環境下に放置することで作製しました。

図2に得られたIR スペクトルを示します。SampleC は最も高温・高湿度下に放置されたサンプルです。このサンプルでは芳香族エステルに特有な(C-O-C)1280cm-1 のピークが小さくな
っており、加水分解反応が生じたことがわかりました。
 このようにFT-IR を用いることで加水分解反応を評価できることが示唆されました。この後、原材料分析としてオープンファシリティー装置の高分子マルチディテクションシステムや粒径分
布装置等を用いた多角的な分析により、実際の製造環境が及ぼす影響についての検討を進める方向へ研究継続となりました。

その他の支援内容と設備など


 ナノテクノロジー連携研究室では、微細加工技術を用いてガラス基板へのナノ~マイクロスケールの加工、微小金属構造体の形成、各種金属や化合物の高精度成膜といった幅広い支援を行っています。微小電極作製やメッキの下地処理といったごく一般的な加工技術から、材料のナノ加工による新規用途開発といった幅広い分野の支援が可能です。
 分析においては透過電子顕微鏡(STEM)や走査電子顕微鏡、XPS、X 線回折装置により材料の劣化や構造変化、組成分析を的確に行うことが可能です。また、高性能で多彩なレーザー顕微鏡群を備えたニコンイメージングセンターとも協力して、バイオ関連への研究についても積極的な支援を行っています。

 ナノテク連携推進室は、新しく文部科学省の事業としてナノテクノロジープラットフォーム(https://nanonet.go.jp/)の事業を行っています。
 この事業は全国の微細加工、微細構造解析、分子/物質合成の研究開発領域に関わる装置群をユーザーに開放し、研究開発を促進するプログラムです。
 北海道大学は微細加工、微細構造解析領域についての研究支援を行っており、先に紹介した装置群以外にも数多くの先端設備を利用することが可能です。
(http://www.cris.hokudai.ac.jp/cris/nanoplat)
 また、本事業は全国のネットワークに接続しており、北海道内では千歳科学技術大学はじめ、全国の先端設備を有効活用できる体制を整えています。
 ナノテクノロジーと言われると遠い世界・異分野とお考えの方も多いかと思いますが、突き詰めていくとナノの領域にたどり着くことが多くあります。意外なところに課題を解決するきっかけが眠っていますので、ナノという言葉にとらわれずご相談下さい。
Update 2016-12-14
北海道大学 TLO通信 創業デスク 北海道大学研究シーズ集 vol.4
食科学プラットフォーム 北海道大学URAステーション 北海道大学 研究者総覧 onちゃん北大事務局