◆太陽光をレーザー光に変換する結晶材料の開発(持続可能エネルギー源を目指して)

【ナノテクノロジー・材料】 (2012/09/01公開)
大学院工学研究院 物質化学部門
樋口 幹雄 准教授


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無限に降りそそぐ太陽光エネルギーをレーザー光に変換する


 地球はたった1時間の間に、全人類が1年間で消費するよりも多くのエネルギーを太陽から受け取っています.ほぼ無限ともいえるこの太陽光エネルギーを自由に他のエネルギーに変換で
きれば、化石燃料や原子力に頼らない持続可能な社会の構築が可能となります.このような背景を受け、太陽光をエネルギー源とした「太陽光励起レーザー」が注目されています。これは、エネルギー密度の低い太陽光を極めてエネルギー密度の高いレーザー光に変換し、種々の化学プロセスに応用することにより、保存型のエネルギー源を創製しようとするものです。太陽光の放射スペクトルは紫外から赤外領域にわたっていますが、そのエネルギーの大部分は波長約500nmをピークとする可視領域にあります。したがって、太陽光を効率よく利用するためには可視領域の光を幅広く吸収できる材料が必要です。現在のところ、代表的な固体レーザー材料であるNd:YAGに増感剤としてCr3+を共ドープしたCr、Nd:YAG単結晶あるいはセラミックスを用いた研究が先行しており、実際に太陽光励起によるレーザー発振が報告されています。しかしながら、Cr、Nd:YAGは500nmにおける吸収がほとんどないとともに、その他の波長領域においても吸収断面積があまり大きくないことから、太陽光を高効率でレーザー光に変換するには至っていません。したがって、太陽光放射を広い波長範囲にわたり高効率で吸収できる新材料の開発が望まれていました。

幅広い吸収帯域を持ち、吸収断面積の大きい単結晶の創製に成功!


 今回私が開発した結晶は、Cr3+を可視光領域における増感剤として用いるという点では従来の材料と同様ですが、母結晶をCaYAlO4 としたところに新規性があります。Nd:CaYAlO4 単結晶はレーザー応用を目指した研究報告が既になされていますが、Cr3+を共ドープしたという報告はありませんでした。Cr3+とNd3+を適当量添加して、浮遊帯溶融法と呼ばれる手法を用いて育成したところ、図1に示すように、赤色透明のCr、Nd:CaYAlO4 単結晶が得られました。その吸収ピーク波長は約420nm ですが、紫外領域から600nm にわたる非常に幅広い吸収帯域をもち、Cr を0.1at%添加した結晶で500nm における吸収係数は約30cm-1 と十分に大きい値となりました(図2)。また、ドープ量が同じ場合、光を吸収する能力の目安となる吸収断面積もCr、Nd:YAG の吸収ピーク波長である430nm で比較しても70 倍ほど大きい値を示しました。このような吸収特性は既存のレーザー材料にはない、Cr、Nd:CaYAlO4 単結晶に特有のものです。Cr3+による吸収帯の一部である420nm で励起をおこなったところ、図3に示すように、Cr3+による若干の発光はあるもののNd3+によるより強い発光が確認できることから、Cr3+によって吸収されたエネルギーの大部分はNd3+に効率的に移動していることが実証されました。また、この結晶は構造中に酸素四面体の位置をもたないことから、Cr、Nd:YAG で問題となっていた、Nd3+の発光帯における自己吸収の問題からも解放されます。以上より、Cr、Nd:CaYAlO4 単結晶を用いることにより、高効率太陽光励起レーザーが実現されるものと期待されます。


図1 浮遊帯溶融法により作製された Cr、Nd:CaYAlO4単結晶

高効率太陽光励起レーザーの実現により保存型エネルギー確保が可能に


 太陽光をエネルギー源としたレーザーの用途のひとつとして、水中に豊富に存在するマグネシウム源から金属マグネシウムを精錬するという提案があります。金属マグネシウムは非常に大きい化学的エネルギーを内包していることから、新しいタイプの固形燃料として注目されています。あるいは、光触媒を入れた水から水素ガスを取り出す人工光合成への利用も考えられています。水素ガスは、燃料電池の原料として大変重要です。このように、レーザーに変換することにより、太陽光から保存型エネルギーを得ることが可能となります。

その他


特願2012-148655「レーザー媒質、レーザー発振装置およびレーザー発振方法」(未公開)


Update 2016-12-14
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