研究者紹介

【ナノテクノロジー・材料】 (2012/11/26公開)

◇海住 英生(かいじゅう ひでお) 助教 電子科学研究所

世界トップレベルの研究を目指して


数学大好き多才な少年が物理の道に目覚める


 海住助教は、小さいころから「数字」が好きで、大きな模造紙に1、2、3、・・、10000、・・と書き続け、「どこまで続くの?」とご両親を困らせたこともあったそうです。小学3年生頃には高校1年生の「数学」を勉強し、漠然と「研究者になりたい、博士になりたい」と決めていたとのこと。その後、東京の私立中高一貫校に進学、そこに現在の研究フィールドである物理の道に進むきっかけとなった教師との出会いがあったそうです。その教師は非常に個性的な先生で、授業には教科書を用いず、公式を暗記ではなくその証明から理解することに重点を置いて教えられたそうです。物理を本質から理解できたため、「物理」が大好きで、得意科目になったそうです。一方で、中高一貫してバスケッ
トボールにも熱中し、副部長を務められたそうです。まさに文武両道を絵にかいたような少年だったと推察されます。また、学生時代は夏休みなどを利用して「カラーコーディネーター」などの資格を取得するなど多才な一面もお聞きすることができました。
 さて、目標達成に向けて慶応大学に進学。慶応大学理工学部では、「物理情報工学科」に所属することに決めたそうです。「物理」は大好きでしたが、それを人の役に立てたい、社会に貢献させたいという気持ちも芽生え、「応用物理」の道を選ばれたそうです。
 ところで、今回、取材にあたって是非ともお聞きしたかったのが、「海住」という姓のルーツでした。一度耳にすると確実に記憶にとどめられる大変珍しい姓ですが、三重県の多気(たげ)地域に多くみられる姓だそうです。その源流は、「海住」ではなく「海主」と書き、瀬戸内の海を躍動していた水軍にあるとお聞きして、文武両道に合点がいきました。

人生を教えていただいた椎木(しいき)教授との出会い


 慶応大学で所属された「物理情報工学科」ですが、この学科は当時まだ新設したばかりの学科でフレッシュだったとこともあり、新しいコンセプトがありました。それは、「基礎物理」と「応用物理」を架け橋するような教育・研究を行うというものでした。これはとても魅力的で、確かに授業も基礎的なところから応用まで幅広くカバーされていて、まさに「架け橋」(架け橋のお考えは後述)を実現できるようなスキルを身につけられたそうです。
 その後、研究室ではスピントロニクスの研究をされました。スピントロニクス(※)とは、従来のエレクトロニクスに「スピン」という新たな自由度を加え、新しい機能デバイスを創製しようとする研究分野です。研究室の恩師、椎木教授は博士号の取得条件として、「人類の役に立つ研究、社会に貢献する研究を推進すること」を挙げていたそうです。それを目標として研究を行い、博士課程ではスピントロニクスデバイスを用いた新しい発振制御型磁気センシング法を提案し、実証しました。この技術は先生からの進言も有り、日本・米国において特許化されたそうです。このように、学生の頃から特許に関する知識を身につけていたことが大切な財産になって、北大の研究者としての現在も活かされているそうです。一方で、椎木先生は研究を行う上でチームワークを重んじ、人と人との関係を大事にされていました。その恩師の後ろ姿に人間関係や人づきあいの大切さを学ばれたそうです。
※スピントロニクス・・・電子が持つ電荷に加え、スピンという量子学的な特性も工学的に利用し、応用する分野のこと。代表的な例としては現在ハードディスクドライブのヘッドに使われている1988 年に発見された巨大磁気抵抗効果がある。 スピンとエレクトロニクス(電子工学)から生まれた造語で、2007 年にフェールとグリュンベルクという2人の研究者にノーベル物理学賞が授与されましたが、この両者はスピントロニクスの第一人者。現在、世界的に注目されている分野の1つ。

世界トップレベルの研究を目指して


 現在、海住助教は磁性薄膜のエッジとエッジの間に分子を挟んだ新しいタイプのナノスケール接合デバイスに関する研究をなさっています。量子デバイスとして究極のナノスケール接合を作製するため、薄膜のエッジとエッジを互いに対向させた新しい手法を提案されています。この手法では、薄膜の膜厚によって接合面積が決まるため、例えば、10nm 程度の薄膜を用いれば、10nm×10nm 程度の超微小接合が理論上可能で、この実証にも成功されました。
 この技術が確立すると、色々な夢が広がります。例えば、エッジとエッジの間に分子を挟めば、究極のナノ分子プロセッシングや巨大なスイッチング効果が期待できます。これはBeyond CMOS スイッチングデバイスの創製に繋がります。また、薄膜を磁性体
にすれば、ナノスケールでのスピン注入や巨大な磁気抵抗効果も期待できます。これは次世代磁気ヘッドデバイスや磁気センサーへ応用されるでしょう。このように、「スピン」と「分子」と「ナノ」の融合デバイスは、物理、工学両面で意義のある、魅力的で、しかも将来性のあるデバイスと期待されています。

基礎と応用物理の架け橋として、特許を介して社会に還元する


 海住助教は、研究の「入口」と「出口」を下図(ご本人作成)のような構図で考えていらっしゃいます。何か新しい物理現象が生まれると、研究としては「入口」のフェーズに入ります。その新しい物理現象を、「基礎物理」という学問の中で研究し、これにより、そのメカニズムを明らかにします。次に、それを何かに応用して行こうというフェーズにシフトします。それが「応用物理」で、産業応用性が高いものに関しては、特許取得後、産業化・実用化・製品化されます。このプロセスを経て、「出口」に到達します。
 このような構図の中で、たいていの場合、「基礎物理」と「応用物理」は別物として考えられていました。つまり、架け橋をするような学科、研究分野、学問体系はあまりなかったのですが、慶応大学では、特にこの辺りを勉強することができたそうです。また、図に示したように、「基礎物理」と「応用研究」を推進し、かつ、その架け橋となるような包括的な研究を行ったとしても、それがすぐに世の中に出て、産業化・実用化・製品化されるというわけではありません。やはり、それには特許取得が必要となってきます。発明者の権利を守るためです。それでは、なぜ特許出願・取得を行うのかを端的に言うと、我が国日本を豊かにしたい、というのがその理由だそうです。加えて、幸運にも優れた研究成果・発明を見出した場合、そのとき謙虚に受け止めなければいけないのは、その結果は、国の助成制度(文科省、日本学術振興会、科学技術振興機構等)による支援、大学や関係する研究者、同僚、学生、技術部の方々等、多くの方の協力もとで得ら
れた結果であり、たった1人で得た成果ではない、広義の意味では、「我が国の発明」といっても過言ではないとのお考えです。さらに、その発明が産業化されうる場合、やはり、産学連携が必要になってきます。民間企業と連携して、製品化に結び付ける。このとき、特許取得が必要となりますが、それは自国の権利を守るためです。海住助教ご自身も、ライセンスを移行できるような場合、やはり、「日本の企業」に移行し、これにより日本を豊かにしたいとのお考えです。


図: 研究の入口と出口

研究室HP:http://www.es.hokudai.ac.jp/labo/photocontrol/




海住准教授の最新のシーズ技術はこちらよりご覧いただけます(2016年研究シーズ集 vol.3掲載)

Update 2016-09-08
北海道大学 TLO通信 創業デスク 北海道大学研究シーズ集 vol.4
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