研究者紹介

【ライフサイエンス】 (2012/10/25公開)

◇根本 知己 教授 電子科学研究所 光細胞生理研究分野

見えないものを可視化する


秋葉原のラジオ少年が生物物理の世界へ


今月は、電子科学研究所・根本知己教授の研究室を訪問しました。根本教授は、3 年前の2009 年9月1日に北大に着任されました。本学では、高性能な顕微鏡を研究室で設計・試作しながら、神経組織などの生物試料をイメージングして生物の謎を解明するという学際的な研究を精力的に行っています。どのような経緯でこのような異なる2つの分野を融合させた研究を行うこととなったのか、筆者は以前から興味があり、インタビューを行いました。

科学技術への入り口は、中学生時代。半田ごてを片手に自らラジオを作ってしまう「ラジオ少年」として過ごしたことだそうです。ラジオ製作に必要な工具や部品を購入するため、品揃えが豊かな秋葉原に中学生の頃から足繁く通っていたとのこと。この頃の夢は、設計技師など、電気関係の技術者になることだったそうです。

大学では理学部物理学科に進学された根本教授ですが、選んだ研究室は、生物物理の研究室でした。なぜ、ラジオ少年が生物に興味を持つようになったのか?それは、高校時代に人工知能に興味を持った少年に、生物の先生が脳の働きを電気回路のような考え方で数理的に理解しようとする「パーセプトロンモデル」という考えを紹介したことがきかっけだとか。現在の学際的な研究は、中学生、高校生の頃の原体験が潜んでいることを垣間見たようでした。

見えないものを可視化する


根本教授は、大学院へ入学後現在まで、生物の組織を光学顕微鏡で観察することを主軸に研究を進められています。光学顕微鏡は、生物試料をそのままの状態に近い形で簡易に測定できるという利点があるため、生物を対象とした観察には適しています。一方、普通の光学顕微鏡は、可視光の波長である300 nm (0.3 μm)よりも小さいモノは、回折限界と呼ばれる制約のため、どれだけ倍率の高いレンズを使用しても見えません。

しかし、現在、生物学の研究で求められているのは、数nm レベルでの蛋白質の動きや、神経伝達に重要な役割を果たす50 nm 程度のシナプスのようなとても小さな対象物を可視化することです。

そこで、根本教授は、光学顕微鏡で生物試料を観察する上での大きな壁となる回折限界を乗り越えるべく、光学顕微鏡に使用する光源にレーザーを早い時期から導入し、非線形光学現象という特異な現象を用いて研究を進めています。また、観察対象も、大学院時代に、植物内の原形質流動とよばれる生きた細胞内部の生体分子を輸送する動きの原動力となる蛋白質の動きを可視化することからはじまり、DNAと酵素の相互作用の可視化、神経細胞の情報伝達の可視化など多岐にわたっています。特に、前職の岡崎国立共同研究機構・生理学研究所で助教授に就任され、独立研究室を持たれてからは、様々な共同研究者から持ち込まれる免疫やガンなどを始めとする多様な生物対象を可視化する取り組みをされました。

本学に着任後、さらに小さなものを鮮明に見るべく光学顕微鏡の開発を進めるとともに、神経伝達機能や内・外分泌腺の分泌現象を中心とした生物学の研究を進められています。

連携が必要な異分野間の通訳となる


根本教授が、産学連携の動きに大きく関わり始めたのは、2001 年頃。この時は、JSTの産学連携プロジェクトにおいて顕微鏡メーカーとともに、顕微鏡開発のスーパーバイザーをされていました。当時、顕微鏡メーカーは、二光子顕微鏡というレーザーを光源に使った高性能な顕微鏡を売り出し始めたところでした。

しかし、顕微鏡メーカーから市販の二光子顕微鏡を購入するのは、光学系やレーザーについての基礎知識がほとんどない医学・バイオ系の研究者が中心で、「買ってみたはいいものの動かない。」ことが頻発していたそうです。一方で、メーカー側も、顕微鏡の性能評価に用いる標準的なサンプルでの観察ノウハウしか持っておらず、ユーザーからの具体的な生物試料の観察方法についての相談には、なかなか答えられない状況だったそうです。

こうした経験から、産学連携プロジェクトでは、根本教授は自らの豊富な光学に関する知識と、様々な生物サンプルの観察を行ってきた経験を活かし、医学・生物系の研究者や医師とレーザーメーカーという、密に連携が必要となる2 者の通訳になることが、産学連携におけるご自身の立ち位置であり、ひいては社会貢献につながるとお考えです。

参考情報


研究室 HP http://www.es.hokudai.ac.jp/labo/mcb/

根本教授の最新のシーズ技術はこちらよりご覧いただけます(2016年研究シーズ集 vol.3掲載)

Update 2017-09-14
北海道大学 TLO通信 創業デスク 北海道大学研究シーズ集 vol.4
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