研究者紹介

【ライフサイエンス】 (2012/08/27公開)

◇大場 雄介 准教授 医学研究科 腫瘍病理学分野

複雑系の細胞内ネットワークシステムを解明する


大場 雄介 准教授


バイオセンサー開発と蛍光イメージングが研究のベース


北海道大学医学部医学科を卒業後、大学院医学研究科に進学しました。最初は診断病理学に関する研究を行なっていましたが、博士課程の途中で恩師である長嶋和郎教授の勧めにより、国立国際医療センター研究所の松田道行先生(現京都大学教授)の研究室にお世話になり、本格的な基礎研究をスタートしました。医療センターではRas という分子の生化学的解析に従事しました。その後、松田先生が大阪大学の教授になられた際に、助手のポストを用意して頂き一緒に大阪大学に転じました。大阪大学微生物病研
究所時代の3 年間には、FRET(※)バイオセンサーの開発と蛍光イメージングの研究を展開し、現在の研究スタイルのベースが出来上がった時期になります。ご縁があり、東京大学大学院医学系研究科の谷口維紹先生の研究室で2 年間参加させていただきましたが、免疫シグナル伝達発動メカニズムについて様々なイメージング手法を用いて取り組みました。2006 年に北海道大学に異動してからは、イメージングを用いて細胞や生命の動作原理を理解することを目標に研究をしています。
※FRET:Förster (fluorescence) resonance energy transfer(フェルスター(蛍光)共
鳴エネルギー移動)。2つの分子間で生じるエネルギーの移動現象。筆者はもっぱら蛍光タンパク質間での蛍光エネルギー移動を利用している.

複雑系の細胞内ネットワークシステムを解明する


細胞内シグナル伝達の可視化による細胞機能の解明に取り組んでいます。生命活動を営むためには周囲環境変化への適応が求められますが、体内環境における個々の細胞においても同様です。この環境変化への応答を司るのがシグナル伝達機構であり、応答したシグナル伝達の結果により、細胞の運命や振る舞いが規定されています。

個々のシグナル伝達の「ユニット」には、「カスケード」と呼ばれるシグナル増幅回路を形成したり、出力レベルを調整するネガティブ・フィードバック機構だったり、あるいは必要なシグナルのみを抽出する干渉フィルターの役割を担うものなど様々な機能があり、電気回路のようなものとも考えることができます。それらがコンピュータ回路の様に、他の経路と協調・影響するなどクロストークすることで、非常に複雑ながら秩序だった細胞内ネットワークシステムを形成しています。

この複雑なネットワーク回路を調べることで、全体のシステムを理解したいというのが私の研究テーマですが、その目的を達するための手段として蛍光バイオイメージングを用いています。イメージングを用いた研究は、上記の様な細胞内の回路に対し、部品を外したり分解したりすることなく、システム全体が正常に動いている状態すなわち、ちょうど回路をテスターで調べるような感覚で、ネットワークを調べることが可能です。

具体的に細胞内シグナル伝達は、分子間の相互作用、リン酸化を始めとする翻訳後修飾、蛋白質の構造変化や酵素活性の変化が秩序正しく細胞内で営まれています。更にはその結果生じる遺伝子発現制御や細胞形態の変化などの表現形の発現を含め、この秩序正しさが時間的・空間的に厳密に制御されている点が重要であります。

すなわち、環境変化に対し、細胞内の何時、どこで、どの程度結合し活性化するのかということが非常に重要なため、細胞が生きたままの生理的環境下で実験することが肝要です。緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein, GFP)を用いることで分子の動きを生きた細胞で捉えることが可能になりますし、GFP を2 つ使いFRET の原理を応用することで、蛋白質間相互作用や分子の構造変化、活性化状態をリアルタイムにモニター可能です。これらの手法を用いて、細胞内の分子反応素過程の可視化から細胞の機能を解き明かす、更には細胞や生命の動作原理システムの全貌を明らかにしたいと考えています。

産学連携は新たな考えに触れるブレストのチャンス


私の研究の主体はあくまで基礎研究でありますが、実験に必要なツール、すなわちシグナル伝達を可視化するツールを開発あるいは使用していますので、それらの技術(バイオセンサーや検出法)そのものや、それを用いて得た知見がもし世の中の役に立つ可能性がある場合は、積極的に実用化に向け展開したいと考えています。とはいえ、技術移転等に関しては全くの素人ですから、産学連携本部に「産と学とのアダプター」の役割を果たして頂いています。本学において、6 件の特許出願(うち3 件はPTC 出願)をし、そのうちの1件については、かなり実用化に近い段階までプロジェクトを進めることができ、複数の企業との共同研究を進めるにいたっています。

企業の方々と一緒に仕事をすることは、難しさがある反面、別の考え方に接するブレインストーミングの良いチャンスでもあります。これら一連の研究が、有機的に結びつき相乗効果的な発展が出来るようになれば理想的だと感じています。

医学研究科ながら他部局、他学の出身者が多い研究室


現在私の研究室は面積的にも人数的にも小さなものですが、有り難いことに独立したスペースで研究をさせていただいています。またメンバーが比較的若いのも特徴です。ここに居るのは新たな生命の真実を探求する「同士」であり、仲間であると思います。

当研究室の人員構成の特徴は、医学研究科にありながら医学部出身より他の学部(工学・理学等)出身のメンバーの方が多く、他大学出身のメンバーも少なくないことです。生物学の研究は拘束時間も長く辛いことも多いのが実情ですが、仲間と主に新たな発見を夢見て充実した研究生活を送らせてもらっています。

参考情報


研究室HP
http://cp.med.hokudai.ac.jp/

関連プレスリリース
「インフルエンザウイルスが宿主細胞への侵入に利用する細胞側因子の発見」
http://www.hokudai.ac.jp/bureau/topics/press_release/110121_pr_med_infle.pdf
「蛍光タンパク質を用いた白血病の分子標的治療薬感受性試験の開発」
http://www.hokudai.ac.jp/news/2010/07/lab-3.html

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Update 2017-09-14
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