研究者紹介

【環境】 (2012/07/25公開)

◇齋藤 誠一 教授 大学院水産科学研究院 海洋生物資源科学部門

基礎研究の重要性を認識しつつ、ニーズを活かす一 教授


「海」への興味から「海洋学」研究者へ


福井県坂井市三国町。東尋坊でも有名な、美しい日本海に臨む町で育ち、子供のころから海で泳ぐことが大好きだった齊藤教授。大学進学時には「水産学部」と決めていて、見事第1志望の北海
道大学水産学部に合格しました。
 大学では海洋における魚の回遊行動に興味をもち、漁業学科を専攻。海の生物資源について研究を行いました。魚の回遊行動を調べるには、海洋全体の環境を知る必要があり、当時としては大変貴重だった衛星画像やデータを駆使しながら研究を行いました。しかし、水産学部にはこのような研究を行っている教員は見当たらなかったため、修士の頃からIBM と共同研究を行い、大型計算機を使って解析を行ったそうです。博士課程では海水温とサンマの回遊行動について研究を行い、学位を取得。その後、日本気象協会に就職し、気象衛星ひまわりからのリモートセンシング画像の解析にかかるシステム開発に携わりました。
 1993 年に助教授として北海道大学水産学部に着任し、世界で初めて「衛星資源計測学」という分野を創設しました。現在も衛星からの情報を魚の回遊行動の予測に応用したパイオニアとして、基礎から応用、事業化まで、幅広く研究活動を行っています。

海産資源の枯渇問題解決の糸口に


近年、地球規模の海洋環境の変化や、漁船による乱獲により、海産資源の枯渇が問題となっています。多くの海産資源は、天然資源に頼っており、養殖などにより生産している魚種は一部分にすぎません。海洋からの恩恵を持続的に受けるには、世界規模での
漁獲量の制限や、資源量の管理が必要になります。しかし陸上とは異なって、海の中は直接見えないことから、漁獲量から算出する方法しかないのが実情です。また世界中の海は繋がっているため、1カ国だけの取り組みでは解決できない問題です。
 そこで、魚がいつ、どこで、どれくらい存在しているのかを予測するために、海洋の*リモートセンシング技術を活用することが可能です。齊藤教授は衛星から得られる海面温度、クロロフィルa 濃度、海面高度などの情報を解析し、実際の漁獲データと重ね「トレダス」システムを前にする齊藤教授合わせることにより、さまざまな魚種の集積し易いエリアを予測する漁場予測システム「**トレダス」を開発しました。
 このシステムは、漁業者にとっては漁場の予測が立ちやすく、燃料の抑制や作業の効率化に繋がります。一方管理者(国など)にとっては、前年度比などの経験値から制限するのではなく、資源量や資源分布を把握したうえで、調整することが可能になります。このように、いつ、どこで、どのくらい魚を漁獲したら資源管理が可能かを国が的確に把握し、漁業者と協力することによって、海産資源の枯渇を防ぐことが可能になると思われます。

漁場予測サービスの事業化


そこで「トレダス」による漁場予測サービスを漁業者に提供するため、大学発ベンチャーとして2006年6 月に有限責任事業組合スペースフィッシュを立ち上げました。現在は自ら技術顧問を勤める株式会社グリーン&ライフ・イノベーションに営業譲渡し、サービスを継続しています。
 遠洋漁業者と契約し、漁船にGPS を搭載。実際にカツオ漁に出た船舶からはリアルタイムに位置情報が会社のサーバーに送られてきます。その漁船の動きを解析することで、予測エリアとの整合性を検証し、さらに予測の精度を上げる努力を行っています。一方漁船にはPCと専用のipad 端末を搭載し、タッチパネル式で容易に「トレダス」から海面温度データや、漁場予測マップを見ることができます。防水の専用カバーが付いているので、船内
どこでも、ゴム手袋をしたまま操作が可能です。
 今後は漁場予測マップを提供するだけではなく、漁船ごとに過去の漁獲データから予測エリアや最短経路を提供するなど、より細やかなサービスの提供ができることを目指しているそうです。また魚種についてもカツオ、ビンナガマグロ、イカ以外にも、ホタテの養殖に適した海域の選択などにも応用が可能です。

基礎研究の重要性を認識しつつ、ニーズを活かす


 大学において『産学連携』と聞くと、基礎研究はなおざりにして応用研究に偏ったイメージがあります。しかし「実際に使ってもらうことによって得られるデータやニーズは、基礎研究にもフィードバックできるし、より実態に合った研究開発に繋がる。」と話す齊藤教授。契約した船舶から届く実測データや、ユーザーからのニーズは、大学の中だけでは得られない貴重な情報です。大学の研究成果がいつまでも大学の中に留まることなく、世に出ることによってさらに洗練され、広がりを持っていくという、まさに『産学連携』の理想とも言えると思います。
 齊藤教授の取り組む「水産業のIT化」によって、安定した漁獲量を得られ、燃料の消費を抑制できるなど、漁業経営の安定化が期待できます。また、水産資源の枯渇を防ぐための資源管理にも活用できるなど、さらなる波及効果が期待されます。

参考URL


・研究室URL
http://odyssey.fish.hokudai.ac.jp/
・株式会社グリーン&ライフ・イノベーション
http://glinnovation.jp

用語


*リモートセンシング技術:広くは対象を遠隔から測定する手段ですが、ここでは人工衛星から地球表面付近を観測する技術です。
**トレダス:TOREDAS(Traceable and Operational Resource and Environment Data Acquisition System)のカタカナ読みで、「トレーサビリティ機能をもつ海洋の資源と環境に関するオペレーショナルなデータ収集システム」を意味しています。


北海道大学 TLO通信 創業デスク 北海道大学研究シーズ集 vol.4
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