◆水産資源の持続的利用をめざして

【ライフサイエンス】 (2012/08/27公開)
水産科学研究院 海洋応用生命科学部門 生物資源利用学分野
岸村 栄毅 (きしむら ひでき) 准教授


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水産資源を有効活用する


 四方を海に囲まれる我が国では、歴史的に水産物に対する依存度は高く、食品としてのみならず、医薬品、工芸品など様々な形で利用してきました。しかし、今日の日本周辺水域の水産資源は過剰漁獲や環境変化などから減少傾向にあり、その一方で製造・加工時の残渣、混獲・投棄魚、養殖場の駆除生物など、有効利用されていないものも沢山あります。このような現状の中、未利用水産生物や水産廃棄物中の有用生化学成分に着目して環境に負荷をかけないゼロエミッション型利用をめざすことは、水産資源の持続的利用を可能にする方策の一つと考えられます。岸村准教授は、未利用水産資源および水産廃棄物由来のタンパク質(特許1)、酵素(特許2, 3, 4)、酵素阻害剤(特許5, 6)、脂質(特許7)等の資源開発とその産業利用に関する研究を一貫して行っています。その中で、今回は、水産科学研究院が所在している函館にちなんだスルメイカの研究成果についてご紹介いたします。

血糖値上昇を抑制するスルメイカの内臓


 函館市の魚は「スルメイカ」です。毎年8 月の函館港祭りの名物「いか踊り」の歌詞にもあるように、スルメイカはイカ刺し、塩辛、イカソウメンなどに加工・利用され、函館にとって重要な水産物です。しかし、その内臓(いわゆるイカゴロやその他内臓)の大部分は廃棄されており有効利用が望まれています。
 そこでスルメイカの内臓から耐熱性、耐酸性のトリプシン阻害ペプチド(トリプシン・インヒビター:TI)を単離・精製し、その生化学特性を調べました。その結果、イカTI は、膵炎の治療薬として用いられているウシ膵臓由来のアプロチニンと同様の特性を持つことがわかりました。近年、BSE や宗教上の理由等によりウシやブタの内臓由来成分が敬遠される傾向にあることから、イカTI は有用な素材ではないかと考えられます(特許5)。
 近年、食生活の変化や運動不足など生活習慣の歪みにより糖尿病患者は増加の一途をたどっており、全世界の患者数は3 億人を超えると推計されています。一方、黒豆の抽出液が血糖値を低下させ、その作用物質が豆類に多く含まれるTI であることが先に報告されています。そこで、イカTI が血糖値に及ぼす影響について調べました。その結果、イカTI は、2 型糖尿病モデルラット(GK ラット)を用いた糖負荷試験において血糖値の上昇を有為に抑制しました(図1)。そして、その作用がイカTI のインスリン分泌促進によることが明らかになりました(特許6)。従来のタンパク質性の豆類TI と比較して、耐熱性・耐酸性の低分子量ペプチドであるイカTI は温度や消化プロテアーゼに対する安定性に優れ、その抽出・分離・保存工程が容易で作用効果も高いと考えられます。
 また、水産練り製品(カマボコやフィッシュソーセージなど)の製造現場では、ゲル強度の低下(戻り)が問題となります。その主要な原因は魚肉中のセリンプロテアーゼによる分解であり、阻害剤として従来卵白等が用いられてきました。しかし、卵白アレルギーに対する配慮から新たな素材が求められています。本研究のイカTI はスケトウダラ筋原繊維の自己消化を抑制し、また、低分子量の耐熱性ペプチドであることから、安全な戻り抑制剤(ゲル強度の安定維持機能)としての利用が期待されます(特許5)。
 今後は、これらの研究成果に興味を持っていただける企業と共に、機能性食品、ペットサプリ、各種工業原料などの開発を進め、水産資源の持続的利用に貢献できることが期待されます。


図1

その他


参考URL:http://www2.fish.hokudai.ac.jp/modules/labo/content0080.html
1. 特開2009-235064.「ヒトデコラーゲンペプチドを有効成分とする血糖値上昇抑制剤
およびヒトデコラーゲンペプチドの製造方法」.
2. 特開2002-101882.「イトマキヒトデ由来ホスホリパーゼA2 の遺伝子のクローン化と
大腸菌による量産化」.
3. 特開2006-254876.「L-トリプトファンの製造法」.
4. 特開2006-271332.「ヒトデ由来新規トリプシンおよびその利用」.
5. 特開2006-304666.「トリプシン阻害活性を有する新規ポリペプチド」.
6. 特開2008-266208.「糖尿病の予防及び/又は治療用組成物」.
7. 特開2008-125365.「高純度プラスマローゲンの調製法」.


Update 2016-12-14
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