◆新しい等温遺伝子増幅法による病原菌の迅速検出と国際貢献

【ライフサイエンス】 (2012/06/25公開)
人獣共通感染症リサーチセンター
鈴木 定彦 教授

遺伝子等検出技術の普及の課題


 細菌感染症の診断及び適切な治療には、検体からの迅速・正確な病原菌の検出が不可欠です。病原菌の検出には古くから培養法が用いられていますが、菌体培養に数日から数週間を要するため迅速性に欠けるという欠点があります。例えば結核菌を検出するのに培養法では4週間以上かかってしまいますが、これでは確定診断及び治療開始時期が遅れ、最悪の場合患者さんの命にかかわってしまいます。
 そこで、病原菌の迅速検出のために最近導入が進んでいるのが、遺伝子等検出技術です。この技術では、病原菌のゲノムに含まれる固有の遺伝子又は特徴的なDNA 配列を、短時間で検出可能な量まで増幅することで病原菌を検出します。
 遺伝子等のDNA の増幅を行う最もポピュラーな方法は、PCR(Polymerase Chain Reaction)法と呼ばれるものですが、PCR を行う際には反応溶液の温度を正確に上昇、下降させる特殊な装置(サーマルサイクラー)が必須となります。一昔前と比べてサーマルサイクラーの価格は下がっていますが、それでも比較的高価な装置に変わりはありません。結果として、細菌感染症が流行しており、病原菌の迅速検出が最も必要とされている発展途上国において、遺伝子等検出技術の普及の足かせになっています。

発展途上国等で活用が期待される病原菌の迅速検出


 上記のような背景から、鈴木教授の研究グループで特殊な装置を必要としない遺伝子等検出技術の開発を行い、今回、新たな遺伝子等検出技術の開発に成功しました。
 今回開発した技術では、病原菌のゲノムDNA に特徴的な「タンデムリピート」に注目し、その部分のDNA が一定温度下において試験管内で大量に増幅される新たな仕組みを創り出しました。タンデムリピート部分のDNA 増幅後に、増幅反応の副産物の作用により蛍光を発する色素を反応系に加えれば病原菌の有無を反応液の蛍光で判定することができます。また、DNA 増幅時の副産物とマグネシウムが反応して固形物が生じるため、濁度計を使用してDNA 増幅の有無を確認することもできます。
 今回の方法で使用する、温度を一定にする装置(インキュベーター)はサーマルサイクラーよりも安価で、また従来の類似技術(例えば栄研化学株式会社のLAMP 法)と比較しても、少ない試薬(DNA プライマー)数でDNA の等温増幅が可能という特徴もあります。

※写真A:試験管内で増幅されたタンデムリピート部分のDNA は蛍光色素と反応し橙色→黄色に変化するため、目視で判定可能。一番右は結核菌ゲノムDNA を含まないサンプル(橙色)。右から2番目は結核菌ゲノムDNA を50fg(フェムトグラム:1x10-15g)含む検体を用いた場合で、黄色に変化していることがわかる。50fg は結核菌10個に相当する。
※写真B:暗箱内で同じサンプルに紫外線を照射したもの。増幅されたタンデムリピート部分のDNA が蛍光色素と反応すると紫外線を吸収し強い蛍光を発する。こうすることで目視確認がさらに容易になる。

細菌感染症に立ち向かう研究者への福音


 今回開発された方法を用いることにより、特殊な装置を使用せずに、わずか40分弱でたった10個の結核菌に相当するゲノムDNA の検出に成功しました。
 この方法は他の病原菌(例えばサルモネラ菌(食中毒の原因体)、リーシュマニア原虫(熱帯地方で流行する感染症の原因体)など)の検出にも使用できるため、幅広い種類の感染症の診断に使用できると考えられます。さらに特殊な試薬、装置は不要ですので、設備、資金が貧弱な発展途上国での普及も期待できます。

その他


・研究室ホームページ(人獣共通感染症リサーチセンター 国際疫学部門)
 http://www.czc.hokudai.ac.jp/epidemiol/
・特許出願
 PCT/JP2012/056381「核酸増幅方法およびその利用」
Update 2016-12-14
北海道大学 TLO通信 創業デスク 北海道大学研究シーズ集 vol.4
食科学プラットフォーム 北海道大学URAステーション 北海道大学 研究者総覧 onちゃん北大事務局