◆MRI画像診断を劣化させない金属インプラントの開発

【ライフサイエンス】 (2012/04/25公開)
大学院保健科学研究院 医用生体理工学分野
山本 徹 教授


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アーチファクトを画期的に低減するハイブリッド構造


MRI 検査において金属インプラントはMRI 装置の磁場を乱すため、MR 画像のインプラント周辺が歪むとともに欠損し、さらに、離れた正常組織中に病変部と見誤る高信号領域が発生するなど、いわゆる磁化率アーチファクト(実際の物体ではない二次的に
発生した画像)が発生し、診断を損なう恐れがある(図1)。また、高磁場強度のMRI ほど画質が向上するためMRI装置の高磁場化が進んでいるが、インプラントによる磁場歪みは磁場強度に比例して増大するので、欠損領域や高信号領域などの磁化率アーチファクトはますます顕在化している。そのため、MRI 診断を必要とする患者が、金属インプラントを装着しているために検査できないなどの不利益が深刻になりつつある。特に、インプラント装着手術後の経過観察では、やむなく放射線診断機器が用いられ、患者の被曝が懸念されている。インプラント材料として、生体適合性を持つ常磁性金属材料の低磁化率化が進んでいるが、インプラントの磁化率アーチファクトの原因は、材料の磁化率と生体(主に水)が持つ負の磁化率とのミスマッチにあり、チタン合金など金属材料の低磁化率化だけでは根本的な解決策とはならない段階に達している。一方、負の磁化率を持つ反磁性金属材料は、生体適合性および強度などに難がありインプラント材料としては用いることができない。そこで、我々は、磁化率が正の常磁性体中に磁化率が負の反磁性体を封入するハイブリッド(二重)構造により、生体適合性を確保しながらもそれぞれの材料の磁化率が互いに打ち消し合うとことでアーチファクトを画期的に低減できるという独創的アイデアを考案した(特開2010-227244)。


図1 歯科用口腔内金属(a) および脊椎固定用 pedicular screw(b)によるアーチファクト


山本徹(2010). 3.2 MRI アーチファクト 塙隆夫(編)
医用金属材料概論 社団法人日本金属学会 p.47.より許可転載

成形性に優れた粉体封入二重構造


 常磁性材料と反磁性材料を組み合わせる二重構造により、金属インプラントのMRIアーチファクトをほとんど消滅できることは、角柱などの単純形状を対象に行ったコンピュータシミュレーション(有限要素法を用いた三次元磁界解析)により確認した(図2)。さらに、MRI撮像実験でも実証し、任意形状のインプラントのMRI アーチファクトフリーの可能性を示した。このとき、内部に封入する反磁性体としてGraphite など任意形状にし易い粉体が候補となることを見出した。インプラントは、素材本来の剛性よりも低い剛性となるように金属組織や形状デザインなどが工夫されているが、粉体を内部に封入する二重構造により低剛性化が期待できることも大きな特長である。実現可能性のある製造法として、押し出し、引き抜き、鍛造などの各種塑性加工法を応用し、チタン合金やコバルト・クロム・モリブデン(CCM)合金などの常磁性材料内部にGraphiteなどの反磁性材料を封入する線状素材の製造が想定される。特に、Graphiteは安価であり、また、粉体を封入する二重構造とすることで成形性にも優れ、様々な断面寸法のワイヤー部品の大量生産が可能となり、脳動脈クリップなどのより細かな形状への応用の可能性が高い。


図2 従来インプラント(左)と二重構造インプラント(右)


上図はインプラントの1/8 構造を示し、下図はインプラント外の磁場歪みを表す。B0(矢印)はMRI 装置の磁場方向である。

拡大するインプラント市場でのニーズ


 高齢化の進展に伴いインプラント手術は国内で毎年100 万件を超え、金属インプラントは日本国内だけでも年間2000 億円を超える市場であり、毎年5~10%程度拡大しつつある。さらに、MRI 撮像技術の急速な進歩と伴に被曝の影響がないことから、MRI 検査
が増加しており、MRI アーチファクトのないインプラントの登場が待たれている。我々の研究成果は、インプラントのみならずMRI 下での手術・治療治具などMRI に影響を与えない材料・用具への応用も期待されている。

参考情報


・http://www.hs.hokudai.ac.jp/yamamoto/index.html
・磁気擾乱低減材、磁気擾乱低減材を使用したインプラント材又は建材、及びその製造方法,特開2010-227244
・Gao Y, Muramatsu K, Kushibe A, Yamazaki K, Chiba A, Yamamoto T, Reduction ofartifact of metallic implant in magnetic resonance imaging by combining paramagnetic and diamagnetic materials. J Appl Phys. 2010;107: 09B323 1-3.


Update 2016-12-14
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