研究者紹介

【環境】 (2011/12/25公開)

◇佐藤 努 教授 大学院工学研究院(工学部環境社会工学科資源循環システムコース)

自然から学ぶ環境浄化材料の開発

現在の研究を始めたきっかけはなんですか?


 私は大学院で焼き物の原料でおなじみの粘土や粘土鉱物の研究をしていました。そして大学を修了してすぐに、茨城県東海村にある日本原子力研究所に研究員として就職しました。さて皆さんは、粘土と原子力の間にどのような関係があるか、分かりますか?実は、原子力発電所や病院、研究所など、放射性物質を扱う所からは放射性廃棄物が発生します。放射性廃棄物は非常に危険なものなので、土や地層中に処分されることが予定されており、水を通さないように、放射性物質を漏らさないようにバリア材として粘土(写真1)が使用されるのです。日本原子力研究所では、粘土のバリア性能を評価するために、世界中のウラン鉱山や粘土鉱山に出かけ、処分場と似ている環境で、粘土のバリア性能を調べていました。このような研究はナチュラルアナログ(自然の類似現象)研究と呼ばれています。ナチュラルアナログ研究を重ねるにつれて、お金や労力をかけずに、自然が地下水を浄化したり、有害物質を漏らさないようにしていることが数多く見つかりました。様々な有害物質と直面する社会で持続可能な発展を目指すには、粘土のように「自然から学ぶ環境浄化材料の開発」が必要だと痛感しました。それ以来、日本のみならず、オーストラリア、オマーン、カンボジア、バングラディシュ、フィリピンなとに学生と出かけ、ナチュラルアナログ研究のレッスンを重ねています。

環境浄化材料を開発するための研究手順を教えてください


 まず、どのような有害元素や化学環境(pHや酸化還元環境など)が水・土壌浄化や廃棄物処分の分野で問題となっているか調べます。次に、その有害元素が濃集しているフィールドや化学環境が似ているフィールドを探します。ウランの場合はウラン鉱山周辺、ヒ素の場合はヒ素鉱山周辺、酸性の温泉、アルカリの温泉といった具合です。フィールドを探したら、水や岩石を調査する道具と地図を持って現地に出かけます。写真2はオマーンのアルカリ泉(なんとpH12の温泉!)での調査の様子です。砂漠地帯なので、オフロード車で行かなければなりません。現地では周辺に流れる水や土壌のpHなどを測定するとともに、サンプルを採取して研究室に持ち帰ります。有害元素が濃集している場所から流れる水を下流に向かって分析して、有害元素の濃度が現象していれば「自然浄化が達成されている」と判断し、その元素がどこにどのように除かれたかを調べます。浄化のメカニズムが明らかになったら、実験室で同じ浄化ができるかどうか確かめます。図1は、我々の調査によって、鉱山から河川に漏れたヒ素を自然浄化していることが確認された「シュベルトマナイト」という鉱物です。私たちは、その後、シュベルトマナイトを環境浄化材料として商品化しました。シュベルトマナイトは、河川水からヒ素を選択的に吸着し、ヒ素をトンネル構造中(図1)に格納すると、シュベルトマナイト自身も安定化されるといったユニークな鉱物であることが分かりました。ヒ素が構造中に入ると安定化するので、安全に廃棄できることも分かりました。しかも、シュベルトマナイトは排水から合成できることもわかりました。ヒ素吸着材として高性能で非常に安く生産できるので、地下水のヒ素汚染のために毎年数多くの方が亡くなっているバングラディシュの井戸水浄化に応用したところ(図2)、井戸水のヒ素濃度をWHOの基準以下に下げることに成功しました。
 放射性廃棄物の処分場では大量のコンクリートを使用するので、処分場周辺が高アルカリ化することが予想されています。したがって、放射性廃棄物の安全評価では、高アルカリ環境での有害元素の挙動を評価することが重要になります。オマーンの高アルカリ泉調査は、高アルカリ環境でも有害元素を閉じ込める技術を自然から学ぶために始めたプロジェクトです。このプロジェクトからもたくさんの環境浄化材料を商品化しました。これらの商品化の前に特許を申請・取得しますが、調査・研究に携わった学生さんも発明者に加わってもらっています。

次に何を目指しますか


 実は、オマーンのアルカリ泉では、水素やメタンガスの噴出も認められました。オマーンにある岩石と水や二酸化炭素が反応して水素やメタンガスが生成されています。この生成に関わっている鉱物とその機能について明らかにすることが次の目標です。なんたって、安くできますからね。このように、自然はたくさんのことを我々に教えてくれます。学生さんと自然の中で夢を語り合いながら楽しくレッスンしたいですね。

参考

HPアドレス
http://geology5-er.eng.hokudai.ac.jp/RG/LoEG/
「知のフロンティア 北海道大学の研究者は、いま」より
http://www.hokudai.ac.jp/bureau/nyu/frontier/index.html
北海道大学 北海道大学 研究者総覧 onちゃん北大事務局 北海道大学研究シーズ集Webサイト
EARTHonEDGE北海道 DEMOLA HOKKAIDO 創業デスク 北海道大学 産学連携メールマガジン