研究者紹介

【ライフサイエンス】 (2011/09/25公開)

◇井尻 成保 准教授 水産科学研究院 海洋応用生命科学部門 増殖生物学分野

うなぎの成熟誘導と人工種苗生産技術の改良


世界の海をフィールドに研究活動を行う


 年に1 回、マリアナ海域で産卵をする「うなぎ」を追い求めて、水産庁のプロジェクトチームでサンプリングに向かいます。
 日本うなぎは、黒潮に乗ってどこからともなくやってきて、そしてどこへともなく去っていき、かつてその生活史はまったく不明でした。東大や鹿児島大の研究チームは、過去50年間かけて黒潮に逆らってうなぎの稚魚を追い求め、近年マリアナ海域が日本うなぎの産卵場所であることを突き止めました。その後、水産庁のプロジェクト研究によって、2 年前、初めて自然界で生まれ
たうなぎの卵と、産卵期のメスを捕獲することに成功!自然界で成熟する過程(生理状態の変化)を明らかにすることで、うなぎの*人工種苗生産技術が益々進むことが期待されます。
 2010年、うなぎの完全養殖が実現したとの報道を記憶されている方も多いと思います。うなぎは、飼育環境下では産卵どころか成熟もできません。それを可能にした技術開発には、北海道大学水産科学研究院のグループが大きく貢献しています。
 今回は世界の海をフィールドとして研究活動を行っている水産科学研究院井尻准教授をご紹介します。


フィールド科学に憧れて


 大阪出身の井尻准教授。小学生のころから理科が得意科目でした。高校生のころ雑誌『ニュートン』を読んで生物の多様性に興味を持ち、漠然と「フィールドで採取した生き物をラボに持ち帰り、細胞や遺伝子レベルまで掘り下げて研究する」という研究スタイルに憧れを持ったそうです。
 大学は始めから北大と決めていました。大好きなスキーを本格的にやりたかったこと、そして大阪から出てみたかったというのが理由だそうです。その北大で何をするのかと考えたとき、目標の「フィールド研究」で農学部か水産学部か迷ったそうですが、より広いフィールドで研究できると考え、水産学部を希望しました。
 今はまさに世界の海をフィールドとして研究活動を展開するという、まさに高校生のころに思い描いた理想の研究スタイルを実現されました。


魚類生殖生理学のエキスパートとして


 うなぎをテーマとした研究では歴史のある井尻准教授の研究室は、1960 年代からこの研究がずっと引き継がれています。生物を
相手にするが故の研究の積み重ね、ノウハウの蓄積が重要であるとともに、日々進歩する最先端の分析技術、手法を取り入れ、また新たな発見や実績を積み重ねています。
 うなぎは放っておいても成熟することができず、卵を産ませて稚魚を作ることができません。そのため黒潮に乗ってくる稚魚(しらすうなぎ)を河口で捕え、それを養殖池で大きく育てて出荷をしています。しかし近年、このしらすうなぎが激減しており、そのため、完全養殖の技術開発が強く望まれています。うなぎの性成熟を促進して産卵に至るまで誘導するためには、複雑なホルモン調整を人工的に行う(不妊治療)必要があります。し
かし、ホルモン投与の生体内作用は全く解っておらず、経験的に行われていました。まずは、その作用を詳細に調べる必要がありました。井尻准教授はこの研究に大学院時代からかかわり、特にうなぎの雌性ホルモン産生メカニズムについて、一つ一つ丁寧に解き明かしてきたのです。その研究成果はうなぎの成熟誘導と*人
工種苗生産技術の改良におおいに役立っています。

 このうなぎの研究は、実は北大だけで行っているのではありません。水産庁、水産総合研究センターや東大などの研究チームと連携し、それぞれの専門分野の研究成果を持ち寄って、ウナギ*人工種苗生産の産業化の実現を目指しています。北大は人工的に成熟させたうなぎと天然で成熟したうなぎの生殖生理状況を比較することによって、人工成熟誘導法の大幅な改良を目指しています。そのためには、天然成熟うなぎや天然うなぎの卵が必要となります。しかし、うなぎの産卵は年に数回しかありません。しかも新月直前の夜と決まっているため、ピンポイントで時間と場所を探り当てなければ出産間際のうなぎや卵、生まれたばかりの稚魚を採取できません。生き物相手のことですので、広い海原でポイントを定め、何箇所もサンプル採取を試み、なんとか卵を抱えたメスを捕まえることができたときは、宝物を探し当てたほどの喜びだったそうです。

大学のできる役割とは・・・?


 今、大学の役割として「研究」、「教育」に加え「社会貢献」も強く求められています。大学の研究は基礎的な研究が中心ですが、それでも常に「この成果はどのように社会に役立てるか?」ということを自問自答しながら研究されているそうです。「産業的な成果につながらなければ、水産学部としての存在意義が問われる」と言われる井尻准教授。それだけ厳しい視点で自身の研究を捉えているのです。その一方で、着実にうなぎの研究は成果を出しています。また、研究室ではチョウザメの増殖技術開発に関しても研究が行なわれています。かつて、北海道でもチョウザメが生息していたそうです。その幻のミカドチョウザメ(日本原産絶滅種)の復活にも取り組んでいます。
 しかし、大学で養殖事業までを行なうことは出来ません。大学はあくまで基礎となる技術開発、その生理的バックグラウンドとなるメカニズムの解明を行ない、道筋をつけることまでです。その先は、民間や行政と協力して産業化の道を模索していく必要があります。

 みなさんが、うなぎを食べる時には、そこにはたくさんの研究者と技術者が「うなぎを殖やす」ことに執念を燃やして長年研究に打ち込んでいることを是非、思い出して頂ければと思います。

*人工種苗生産技術:
 養殖や放流を行なうための稚魚を人工的に生産する技術。親を飼育し、成熟、産卵させ、人工的に孵化させることで、大量の稚魚を得ることが可能。生存率の低い自然界と比較して、安定的に生産することが出来る。

研究室URL

http://www.hucc.hokudai.ac.jp/~b20231/top.html
北海道大学 北海道大学 研究者総覧 onちゃん北大事務局 北海道大学研究シーズ集Webサイト
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