研究者紹介

【ライフサイエンス】 (2011/06/25公開)

◇秋田 英万(あきた ひでたか) 准教授 大学院薬学研究院

ミクロな細胞内宇宙の中を旅する〜21 世紀版アポロ計画の実現を目指して〜


北の大地でドラッグデリバリー研究と出会う


学部4年から博士卒業までの間、東京大学薬学部にて杉山雄一先生の下、トランスポーターの研究に従事してきました。当時は、主に遺伝子クローニングとその機能評価が中心でした。当時は実験がなかなか軌道にのらず、「どうしたら良い研究ができるか」とか、「インパクトのある研究になるか」など考える余裕もなく、とにかく「どうすれば学位論文をまとめられるか」しか頭が回らなかった覚えがあります。そんな学生生活でしたので、自分がアカデミックに残って研究をする立場になるなど、夢にも思っていませんでした。

就職活動の時期になり、企業へのエントリーシートを用意しようとしていた時に、北海道大学薬学部、原島秀吉先生の研究室で助手としてのポストを紹介していただきました。原島先生の研究室はドラッグデリバリーシステムの研究を発展させ、遺伝子治療用ベクターの開発に取り組んでいました。学生時代とは全く違う研究分野に足を踏み込めるということもありましたが、北海道に住んでみたいという不純な動機が、このお話に興味を持った一番のモチベーションだったと思います。

全く扱った事の無い研究分野に入るのはかなりの勇気がいる事ではありましたが、原島教授の温和そうに見える人柄や、遺伝子治療用ベクター開発への非常に強固な意志に徐々に惹かれ、東京より北海道にわたる決心をしました。
一年目は予想以上に研究分野の勉強に苦労し、学生を捕まえては分からないところを質問していたのを覚えています。また、当時は原島研究室も設立してから3年目で、技術的にもシーズ的にも開発途上の段階でした。

自ら新しい領域に踏み入れただけでなく、微力ながら研究室の立ち上げに尽力させていただき、研究室全体がどんどん成長していく過程を一番近いところで見られたことは、海外留学に勝るにも劣らない貴重な経験だったと思います。

ミクロな細胞内宇宙の中を旅する~21 世紀版アポロ計画の実現を目指して~


薬の機能を適切かつ効果的に発揮させ、また、副作用を軽減させるためには、薬理作用部位まで特異的に送達させるためのドラッグデリバリーシステム;DDS の構築が不可欠です。抗癌剤などは脂溶性に富んだ低分子薬物であり、腫瘍組織に到達し、細胞外で放出されれば、自発的に細胞内に取り込まれて薬効を示すことができます。

一方、1950年代に幕を開けた分子生物学の劇的な変遷に伴い、バイオ医薬は従来からの低分子化合物だけでなく、抗体やサイトカイン製剤、遺伝子、核酸などの多岐にわたる高分子へと広がりを見せています。高分子においては、サイズなどの物性の問題から細胞への取り込みが著しく制限されます。さらに、送達させる高分子によって、細胞内の送達させるべきオルガネラ(細胞小器官)を考慮する必要があります。 例えば、siRNA は、細胞質に存在するアクセプター蛋白であるRNA-induced silencing (RISC) complex に認識させる必要があります。

一方、プラスミドDNA を送達する遺伝子治療においては、転写を受ける部位である核まで送達させる必要があります。しかしながら、細胞の中は、オルガネラ・蛋白・RNAなどが複雑に入れ組んだミクロな宇宙と言っても過言ではありません。

このような目に見えないミクロな宇宙の中で、自由に物質やナノ粒子の動きを制御することは、20世紀のアポロ計画に続く21世紀の最大の技術革新になると考えています。
私は、遺伝子を多重の脂質膜によりコーティングし、各膜にエンドソームや核膜突破などを担う様々な素子を搭載可能することで、段階的に細胞内バリアを突破可能なナノ粒子の創製を目指しています。

また、一方で、このようなナノ粒子の細胞内動態をコントロールするには、その動きを評価するための技術も必要になります。下村脩先生がオワンクラゲから発見したgreen fluorescenceprotein (GFP) や、Willard Boyle 先生、George Smith 先生が開発されましたCCDカメラは、生きた細胞の中を物質の動きを捉えるためのイメージングに欠かせない技術になっており、これらの功績はそれぞれ2008 年ノーベル化学賞、2009 年ノーベル物理学賞を受賞されています。

遺伝子治療用ナノ粒子を作るだけでなく、細胞内におけるこれらナノ粒子の動きをイメージングにより定量的に捉え、その情報を次世代ベクター開発にフィードバックするというコンセプトは、研究開発の重要な柱になっています。

長年の進化の過程で、ウイルスは細胞の中を移動し、効率的に感染細胞の核までその遺伝子を送達するメカニズムを得てきました。これらウイルスの細胞内動態は細胞内動態のコントロールをする上で極めて有用な御手本となります。ウイルスとの細胞内動態比較から見えてくる人工ベクターの問題点を克服すべく、日夜開発を進めています。

大学だからできる遺伝子・核酸治療用薬剤を目指して


2003 年にヒトゲノム計画が完了すると共に、バイオインフォマティクスの発展や次世代シークエンサーの開発も進むにつれて、個人のゲノム情報の解析や疾患原因遺伝子の解明が急速に進むと予想されます。
これにより、遺伝子治療や、特定の疾患原因遺伝子をノックダウン可能なsiRNA を用いた核酸治療が注目されています。遺伝子治療は、原理的にはどんな遺伝病にも治せる夢の治療法であるともてはやされた時代もありました。

しかし、ウイルスベクターを用いた際の臨床試験における死亡例が報告され、また、人工ベクターにおいても、その効率が不十分であることからも、以前よりはトーンダウンしてしまっているように思います。

将来的に利益追求の見通しのたたない以上、製薬企業側として開発経費に遺伝子治療ベクター用の研究費を計上することは困難です。実際、海外のsiRNA 創薬は、海外のメガファーマシーがベクター技術を有する大学発ベンチャー企業、あるいは技術を多額の予算で買収することで進んでいるのが現状です。

海外の企業に対して最先端な医療用薬剤の国際競争力を維持するためには、企業主導型ではなく、大学主導型の研究開発を行うことが極めて重要であり、国の科学研究費による開発支援が必須と考えます。
上記の「利益追求の可能性の不明瞭さ」という問題を解決し、企業における遺伝子治療創薬研究を活性化するためには、少ない遺伝子や核酸で高い効果が得られるキャリアを開発し、いち早く日本発の知的財産権を保持することが必須であると思います。
幸い、昨年度より内閣府の最先端・次世代研究開発プログラムに採択していただき、新たなコンセプトで細胞内動態制御を行うプロジェクトを開始しました。遺伝子・核酸治療へむけた大きなブレイクスルーが起こせるように全力で取り組んでいきたいと思います。

研究室のホームページ


北海道大学大学院薬学研究院 薬剤分子設計学研究室
http://www.pharm.hokudai.ac.jp/yakusetu/index.html
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