◆色素増感太陽電池用・熱処理不要大面積TiO2

【ナノテクノロジー・材料】 (2013/01/25公開)
大学院工学研究院
幅崎 浩樹 教授


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色素増感太陽電池用光電極作製上の課題


色素増感太陽電池は、色素を担持した多孔質酸化チタンと対極との間に電解液を満たした構造をもち、大掛かりな真空プロセスや高温雰囲気を製造過程に必要としないため、現行のシリコン太陽電池と比べて製造コストを大幅に低減できる高効率太陽電池として期待されています。色素増感太陽電池では、光電極として透明電導膜基板にナノサイズのチタニア粒子をペースト状にして塗布し、これを450℃程度で焼結したものを用います。この熱処理の必要性のため、耐熱性に乏しいスズドープ酸化インジウム(ITO)透明電導膜やフレキシブルなプラスチック基板に適用するには課題がありました。
 幅崎教授、辻助教の研究グループでは、金属のアノード酸化という簡便な手法を用いて、金属表面に機能性メソポーラス金属酸化物膜を電気化学的に形成する研究を行っていますが、最近、チタンのアノード酸化によって直接ポア径が10 nm 程度と極めて小さいメソポーラスアナターゼ膜を合成する手法を見出しました。今回、透明電導膜上にチタン膜のスパッタ堆積とそのアノード酸化を行うことで、熱処理せずに大表面積の透明光電極の作製手法を確立しました。

チタンのアノード酸化によるポーラスチタニアの作製


 チタンのアノード酸化による多孔質チタニア膜の作製は、1999 年に米国の研究グループが世界で初めて報告しました。これは、希薄なフッ化水素酸を用いてチタン板を定電圧アノード酸化するものです。得られる酸化膜はナノチューブ配列膜のユニークな形態をしていることから、その応用研究が国内外で精力的に行われており、このアノード酸化膜を用いた色素増感太陽電池の研究もその一つです。しかしながら、このフッ化物系電解液で得られる酸化膜はアモルファス構造であり、光電極として利用するには、やはり450℃程度で熱処理をする必要がありました。
 本アノード酸化技術は、電解液としてリン酸塩を含有したグリセリンを用い、これを160℃の比較的高い温度で利用するという新たな方法です。グリセリンは吸湿性ですが、この電解液中の水分量を0.04%程度まで低減することで、比較的高速に酸化膜を形成す
ることができます。また、得られる酸化膜は以下の特徴を有します。
① 大表面積
 本アノード酸化膜は自己組織化膜の一種であり、シリンダー状のポアが金属素地側から
電解液方向に伸びたポーラス構造を持っています。そのポア径は10 nm 程度と小さく、
大表面積のメソポーラス膜が得られます。これは光電極として色素の吸着量も多く、有
利になります。
②アナターゼ構造
 本アノード酸化膜の結晶構造はアノード酸化電圧に依存します。5 V 以下の電圧では、
アモルファス構造となりますが、20 V 以上の生成電圧の場合、アナターゼ構造となり、
結晶化のための熱処理が不要となります。

色素増感太陽電池への応用


 ITO ガラス上にチタンをスパッタ成膜し、これをフッ化物系電解液を用いてアノード酸化し、さらに450℃で熱処理を行なって作製したナノチューブTiO2 膜および本技術のメソポーラスTiO2 膜を光電極とした色素増感太陽電池を試作し、特性を評価しました(図1)。その結果、図から明らかなように、本技術で作製した色素増感太陽電池のほうが優れた特性を示しました。

図1. 高表面積TiO2 メソポーラス薄膜を用いた色素増感太陽電池

フレキシブル太陽電池への期待


 本技術は、現在盛んに研究が進められている色素増感太陽電池、特にフレキシブル色素増感太陽電池への応用が期待されます。プラスチック材料などのフレキシブル基板には、ITO 透明電導膜が利用されており、熱処理なしに高品質なTiO2 薄膜を作製
することが鍵となります。本技術はこれらのニーズに応えるもので、今後さらなる結晶性の向上を進めながら実用化を目指しています。また、本技術により、建材等に利用されているチタン金属表面に、有機物を分解する光触媒特性を付与すること、および表面の紫外光照射超親水化も可能となり、チタン金属表面の高機能化も期待されます。

その他

http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/elechem/
E. Tsuji、 N. Hirata、 Y. Aoki、 H. Habazaki、 Mater.Lett.、 91 (2013) 39-41.
Y. Taguchi、 E. Tsuji、 Y. Aoki、 H. Habazaki、 Appl.Surf. Sci.、 258 (2012)9810-9815.

Update 2016-12-14
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