◆酸化亜鉛ナノ粒子フィルムからの疑似単一モードランダムレーザー発振

【ナノテクノロジー・材料】 (2013/02/25公開)
電子科学研究所 光システム物理研究分野
藤原 英樹 准教授

注目されつつも、各種課題が残される「ランダムレーザー」


 従来のレーザー素子は、レーザー発振を確実に行わせるための明確な共振器構造が必要となります。一方、本研究で注目している「ランダムレーザー」はこれらの従来のレーザー素子とは異なり、明確な共振器構造では無く、波長オーダーの不規則な屈折率分布を持つランダム構造を利用したユニークなレーザー素子としてここ10年間注目を集めています。このランダム構造では、光の多重散乱とその干渉効果により光局在現象が誘起されるため、ナノ粒子の凝集体や基盤表面のラフネス等を利用する事で簡便かつ安価に作製が可能であるという利点を持ちます。このため、レーザー素子等の表面発光デバイスへの応用の可能性の他にも、光触媒反応や光電変換、センサー等の大面積化や高機能化を必要とする光デバイスにむけた簡便・安価な光反応場として近年注目を集めています。しかしながら、ランダム構造の特徴である不規則さのために構造の最適化が難しく、光反応場として応用する上で必要な空間的・周波数的な局在モードの制御が困難であるといった問題があります。このため、通常のランダム構造では、偶発的に発生した光局在スポットに局所的な周辺環境条件に応じた共鳴波長の光が閉じ込められるため、従来のランダムレーザーで
は、多波長で発振する、バックグランドの蛍光強度が大きい、発振しきい値が大きい、発振波長・位置の制御が難しい等の問題点が存在します。

新奇ランダムレーザーの開発により、発振モード制御が可能に


 これに対して、藤原英樹准教授のこれまでの研究では、サイズ・形状が均一な散乱体の共鳴を利用し、構造中に散乱体を配置しない欠陥領域を設けるだけの簡便な発振モード制御方法(図1)を実験的・数値解析的に提案しています。特に、本研究では、ランダムレーザーの高性能化を目指した材料設計により、サイズが揃った酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子と光の閉じ込めを引き起こす「欠陥」粒子を組み合わせることで、従来のランダムレーザーとは異なるユニークな特性を持つランダムレーザー素子を実現することに成功しました。
 本手法の検証のため、散乱体および利得媒質として、既にランダムレーザー発振の報告のあるZnO ナノ粒子を用いました。市販の多分散ZnO ナノ粒子(中心粒径100nm、図1(b)挿入図)から、液相レーザー溶融法を用いてサイズ・形状が均一なZnO ナノ粒子(中心粒径212 nm)を作製しました(図1(a)挿入図)。その後、均一化したZnO ナノ粒子分散水溶液中に、欠陥として蛍光ポリマー粒子(直径900 nm)を分散し、ガラス基板上に滴下・乾燥
させたものを試料としています。図1 は、導入した欠陥粒子において測定した発光スペクトルを示しており、それぞれ(a)均一化処理後、(b)処理前のZnO ナノ粒子膜での結果を示しています。各挿入図は、ZnO ナノ粒子のSEM 像と、欠陥粒子(矢印)を含む範囲のレーザー発振強度分布を示しています。市販粒子を用いた試料では、マルチモードの発振ピーク等のこれまでに報告されているランダムレーザーの特徴と良く一致する結果が得られています。一方、均一化したZnO ナノ粒子を用いた試料では、単一モードの発振ピーク、低しきい値化、欠陥粒子位置での発振等の結果を確認出来る事から、従来とは異なるユニークな特徴をもつランダムレーザーの開発に成功し、本手法を用いる事によって、ランダム
な構造中でも共鳴波長や位置の制御が可能である事を示しました。
 本研究で開発したランダムレーザー作製法では、球状のZnO ナノ粒子が分散した液相に欠陥粒子を添加し、この分散液を塗布するだけで、ランダムレーザーを作製することができます。したがって、小型で安価かつ作製が極めて容易なレーザー素子の作製が可能となり、低価格で単色性が要求される小型光源、家庭用ヘルスモニター用分光装置、照明用素材、発光素子を要する電子デバイスなど、幅広い技術への利用が可能となります。また、レーザー素子等の表面発光デバイスへの応用の可能性の他にも、光触媒反応や光電変換、センサー等の大面積化や高機能化を必要とする光デバイスにむけた簡便・安価な光反応場としての応用が期待されます。
 本研究成果は、九州大学先導物質化学研究所・辻剛志 助教、香川大学工学部・石川善恵准教授、産業技術総合研究所・越崎直人 主任研究員との共同研究により得られたものです。


図1 光学的な「欠陥」粒子を導入したZnO ナノ粒子膜の欠陥におけるレーザー発振特性((a) 均一化処理後、(b)均一化処理前のZnO ナノ粒子).励起光強度が各しきい値の0.5、1.0、2.0 倍のスペクトルを下から順に示している.挿入図は、均一化処理前後のZnO ナノ粒子のSEM 像と欠陥粒子(矢印)周辺のレーザー発振強度分布

その他(参考情報)

URL: http://optsys.es.hokudai.ac.jp/~optsys/
特願2012-183134 「ランダムレーザー素子及びその製造方法」
H. Fujiwara, et al., Opt. Express 17, 3970 (2009)., Opt. Express 17, 10522 (2009).
H. Fujiwara, et al., Appl. Phys. Lett. 102, 061110 (2013).

Update 2016-12-14
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