◆抗がん剤の作用を妨害する邪魔者を突き止め創薬に生かす

【ライフサイエンス】 (2013/02/21公開)
遺伝子病制御研究所 感染癌研究センター
地主 将久 准教授

抗がん剤治療に現れる邪魔者の存在


 がんの治療方法として、抗がん剤の投与は外科手術や放射線照射に並ぶ非常に効果的な方法ですが、投与を続けていると抗がん剤が次第に効かなくなる問題があります(耐性獲得)。このような場合、がん治療が困難となり、ひいては命に関わることになります。耐性を獲得してしまう理由については、これまでの研究から、いくつかの原因が明らかになっています。その一つとして、抗がん剤の作用を妨害する“邪魔者”の存在が知られています。
 今回は、この“邪魔者”の一つを突き止め、その知見を元に新たな創薬基盤の確立に挑戦する、地主准教授の研究成果を紹介します。

たんぱく質(TIM3)の機能を抑制し、免疫力を維持する


 地主准教授は、抗がん剤と自然免疫(先天的に備わっている免疫)の関わりについての研究の中で、「TIM3」というタンパク質に注目しました。TIM3 は細胞のがん化やウイルス感染などが起こると免疫細胞の一種であるT リンパ球で作られ、T リンパ球の自殺(細胞死)を促し、結果的に生物個体のがんやウイルスへの抵抗性(免疫)を弱めてしまうことが知られていました。一方で、他の免疫細胞である樹状細胞でも、それががん組織の中にあるとTIM3 を多く作り出していることが明らかとなり、この「樹状細胞が作るTIM3」が、がんに対する免疫や一部の抗がん剤の効果を弱めている可能性が考えられました。
 そこで実際に、生体内でTIM3 の機能を抑制する実験をマウスを用いて行ったところ、がんに対する自然免疫の活性を直接的又は間接的に上げる抗がん剤(シスプラチンやDNAワクチンなど)の効果が低投与量でも顕著に上昇することを見いだしました。このことは、TIM3 が一部の抗がん剤の作用を妨害する“邪魔者”であったことを示しています。
 また、TIM3 が抗がん剤の邪魔をするには、TIM3 がHMGB1 という別のタンパク質と結合することが必須であることも明らかになりました。従って、TIM3 とHMGB1 が結合しなくなるような化合物や抗体を作ることができれば、それは新たな抗がん剤(併用剤)となる可能性があります。

抗がん剤の効果を上昇させ、効能を持続させる医薬品開発に活かす


 本件は上述の通り、人間が本来持つ自然免疫を利用した抗がん剤の効果を上昇させ、一方で癌細胞が抗がん剤に対する耐性獲得を防ぐ医薬品を開発するにあたって重要な創薬基盤となる研究成果です。地主准教授はTIM3 とHMGB1 の結合評価など、各種評価系を準備しています。一方で、TIM3 とHMGB1 の結合を阻害する化合物や抗体の開発には企業の力が必要となるため、ご協力いただける企業を探しています。
 本研究成果に興味をお持ちの方は、ぜひご連絡ください。

その他

研究室ホームページ(遺伝子病制御研究所 附属感染癌研究センター)
http://www.igm.hokudai.ac.jp/vec/
Update 2016-12-14
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