研究者紹介

【環境】 (2010/07/25公開)

◇関 秀司 教授 大学院水産科学研究院 海洋応用生命科学部門安全管理保障科学分野

安全な水産生物資源を育てる環境づくり~きれいな水環境をつくる科学~
■タンパク質を原料とした生物分解性凝集剤(バイオフロキュラント)
■鮮度を保ったまま食材中の重金属を除去する方法

 関教授の所属する安全管理保障科学分野には、生産環境保全修復学(関教授)とフードチェーン保全学(一色教授)の2 つの研究室があり、これらの研究室が連携して水産生物資源を生産する段階から消費者に届くまでの一貫した総合的安全管理システムの確立を目指して研究を行っています。安全な水産食料資源を持続的に生産することが関教授の研究のメインテーマです。安全な水産食料資源を生産するためには、生産水域の環境と与える飼料の両方が安全でなければなりません。
 一方、南米における原料魚の漁獲量減少や中国における需要の急増により、養殖飼料の主原料であるフィッシュミールの国内価格が2006 年に約2 倍に急騰し、水産養殖業者の経営を圧迫しています。現在の世界の水産物生産量の約40%を養殖生産が担っていますが、その需要は今後も増大し続け、2030 年には養殖生産の占める割合が50%に達するとFAO(国際連合食糧農業機関)が予測しています。その結果、養魚飼料の原料であるフィッシュミールの価格も上昇を続けることが予想され、養魚飼料の自給率を向上させることが我が国の水産食料資源の持続的生産を保障するための緊急かつ重要な課題となっています。
 関教授は、このような社会的ニーズに応えるために、工学的な分離操作を利用した水産環境の保全管理と水産廃棄物を原料とした安全な飼料生産を目的とした新素材・技術の開発に関する研究を行っています。

 水産生物資源を生産する水域の環境保全に関する近年の研究では、泥濁水の浄化や水中の油滴の除去について、安価なタンパク質を材料として環境に優しい生物分解性の新素材(生物分解性凝集剤、バイオフロキュラント)を開発し特許(特許第3440054号)を取得しています。他にも、水中の有害金属の除去について、微生物、海藻や腐植物質等の生物素材を材料とした吸着剤を用いて、水中に溶存する六価クロム、ヒ素、カドミウム、鉛等の吸着分離に関する研究を行っています。

 最近の話題として、道内企業(環境創研株式会社)と共同で研究を行ってきた重金属汚染された農水産物から重金属を除去し食材や飼・肥料等に利用するため技術について、その企業と共同特許出願した技術(北海道大学と環境創研(株)の特許「鮮度を保ったまま食材中の重金属を除去する方法」(特許第4000346 号))が、工業所有権情報・研修館(INPIT)の開催する「特許ビジネス市」(特許のビジネスマッチング会)で成約となり、実用化され
る見通しです。
 この特許の背景には、以下のような事情があります。
 イタイイタイ病や水俣病を引き起こした農水産物の重金属汚染は、過去の出来ごとではなく、今もなおカドミウム、鉛、砒素、水銀等の人体に有害な重金属による農水産物の汚染が存在し、汚染された農水産物のほとんどが焼却処分されています。例えば,ホタテ貝の内臓やイカ肝臓等の水産加工廃棄物には脂質(DHA, EPA)やタンパク質等が豊富に含まれており,飼料原料として有望ですが,乾燥重量基準で数十~100 ppm のカドミウムが蓄積されているため,加工業者が20,000~35,000 円/t の費用を負担して焼却処分しています。
 そこで、汚染された農水産物から重金属を除去し、食材や飼・肥料等に供するための技術開発が行われてきましたが、従来技術には強酸性処理によるタンパク質や脂質等の有用成分の変性、酸の中和に用いる添加物の残留等、実用化において重大な問題がありました。
 関教授と北海道沙流郡日高町で環境対策事業を行う環境創研株式会社が開発した技術は、その解決の糸口となるもので,平成21 年度の農林水産省総合食料局関係事業・食品産業グリーンプロジェクト技術実証モデル事業にも採択され,青森県津軽郡平内町のホタテ貝加工場での実証試験に成功しています。(http://elsie.fish.hokudai.ac.jp/~seki/hotate/)
 本技術は従来法に比べ複雑な装置や操作を必要とせず、弱酸性溶液中に重金属汚染された農水産物とキレート樹脂等の重金属吸着剤を入れて撹拌するだけで、農水産物と水相から同時にカドミウムを除去することが可能な画期的な技術です。原理的には、重金属イオンに対する農水産物と吸着剤の競争的吸着平衡を利用しています。吸着は可逆的な結合反応であり、溶液の重金属イオン濃度が高くなれば固体への吸着量が増加し、溶液の重金属イオン濃度が低くなれば固体への吸着量が減少します。しかし、吸着平衡理論の「弱酸性溶液中においても重金属は農水産物から部分的に溶出(脱着)する」という原理から、この重金属イオンを吸着剤によって溶液から除去することにより、溶液の重金属濃度が常に低く保たれ、農水産物からの重金属イオンの脱着が促進される効果が得られます。結果、農水産物と溶液から重金属の同時除去が可能になるという仕組みです。

 関教授の研究室では、「海は地球に残された最後のフロンティア」という立場に立って、水産生物資源を最大限に利用するための科学技術を発展させることは,人類の未来にとってとても重要であると考えています。研究室が行っている研究は,資源・食料・環境等,解決を迫られている多くの分野において重要な役割を果たしていますが、さらに高度な分離・反応技術が開発されれば、これまでの物質には見られない新しい機能をもった素材を
人間が手に入れることができるかもしれません。このような夢を抱いて、研究室のみなさんは日夜研究を行っています。これからも、私たち人間だけでなく、魚にとっても棲みやすいキレイな水環境を創るための研究を続けられるでしょう。

研究者紹介
http://www2.fish.hokudai.ac.jp/modules/labo/content0084.html
研究分野紹介
http://elsie.fish.hokudai.ac.jp/process/

研究シーズ

食用乾燥コンブのヨウ素低減
Update 2018-11-09
北海道大学 北海道大学 研究者総覧 onちゃん北大事務局 北海道大学研究シーズ集Webサイト
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