研究者紹介

【ライフサイエンス】 (2010/05/25公開)

◇西村 孝司 教授 遺伝子病制御研究所

免疫バランス制御研究から食育支援まで~北海道活性化に資する産学官連携の取り組 み


 西村教授が、現在取り組んでいる研究テーマは、「免疫バランス制御評価による機能性素材の開発」。体内の免疫バランスの乱れは、癌や免疫性疾患を引き起こすのだが、果たして免疫バランスを乱す要因は何なのか?西村教授は、食生活の乱れや自然環境の変化がその要因の一つと考えている。
 免疫バランスで重要なのは、免疫性疾患の要因と考えられている2 種のヘルパー細胞Th1 とTh2 のバランスである。ガン細胞や感染細胞を攻撃するキラーT 細胞を活性化するTh1 と、ガンや感染免疫抑制効果やアレルギー反応を促進するTh2 は、健康な状態であれば相互にバランスを保ち、病気を防ぐ。
 ところが、カロリーの過多摂取や環境汚染、ストレスの影響でTh2 が過剰になって、免疫バランスが崩れることにより、アレルギー症状や感染症の増加を招いている。西村教授は、免疫バランスの改善に向けて様々な研究を行っている。その研究の基盤の一つが、平成20 年度からスタートした新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)採択の研究プロジェクトである。
 NEDO のプロジェクトでは、主にヘルパーT 細胞を中心とした革新的免疫治療法の開発に取り組んでいる。現在注目されているのは、ヘルパーT 細胞・Th1 を用いた癌の免疫療法である。
 前述したように、Th1 はキラーT 細胞を活性化する。Th1 の補助でキラーT 細胞はパワーを増し、穴あけ物質(パーフォリン)を癌細胞や感染細胞に打ち込み殺す。Th1 を人為的に患者に投与すれば、癌細胞の増殖を抑え、治療の効果を高めることができる。西村教授は、アミノ酸が結合したペプチドを用い、Th1 を培養する技術を開発。患者のリンパ球から採取したTh1 を使うことから、安全性も高い。
 西村教授は、市中病院や大学発ベンチャーとの産学連携を通じ、臨床研究・治験のサイクルを効率的にすることで、多くのがん患者をより早く救うことを目指している。今年度からNEDO プロジェクトには道外の複数大学も加わり、全国的なトランスレーショナルリサーチ体制が取られることになり、より加速度的に臨床研究が進展することが期待されている。
 もう一つの研究基盤は文部科学省知的クラスター創成事業「Bio-S」。西村教授は、食材中に含まれる免疫制御因子を探索するとともに、それら候補因子の免疫バランスに及ぼす効果を検証する新しい評価システムの確立を産学官連携型の研究により目指している。
 食材については、特に北海道産の農水畜産物に含まれる機能性物質に着目、機能性評価システムを確立した上で、現在では免疫バランス制御素材の製品化に向けた応用開発が進められている。
 西村教授が注目している農産物の一つが、道産黒大豆「黒千石」。黒千石には、免疫機能を向上させる「インターフェロンγ」を産生し、Th1 の活性化機能があることが、西村教授の研究で分かった。
 また、西村教授は、企業と共同で開発した農産物加工技術により、北海道産春菊から免疫機能を高める効果をもつペーストを加工することに成功した。これは、野菜を無酸素状態で高温加熱処理し、野菜の細胞壁を壊さないようにミキシングする特殊加工により、ビタミンC やポリフェノール、グルタミン酸、糖分が濃縮され、旨みが増すペースト素材ができる。特に、春菊は免疫バランス調整作用が優れていることから、今後、加工食品原料としての活用が期待されている。
 基礎研究、評価系の確立、臨床研究、産学連携と様々なフェーズで免疫バランス制御研究に取り組んでいる西村教授。常に考えているのは、「患者に対する最先端治療の提供」と「北海道地域の活性化」、そして「国民の健康増進」である。


 前述したように、食の乱れが免疫バランスの崩れにつながっていることから、西村教授は、「食育」に力を入れている。西村教授は、単に栄養に優れた食事を取るだけではなく、子供たち自らが野菜を収穫、調理をすることで食材の素晴らしさに感謝し、学ぶことこそが食育と考えている。
 「私が理事長を務めているNPO 法人イムノサポートセンターでは、食育に関する親子ツアーやイベントを開催してきました。野菜の収穫や調理を通じて、子供たちは食べものや健康の素晴らしさに気付いたようです。野菜が嫌いな子供も、自ら作った料理をしっかり完食していました」。
 「ツアーやイベントを通じて感じたのは、食育は子供だけではなく、保護者にも必要であることです。『親育』が重要なのかもしれませんね」。
 西村教授は、病気にならない体作り、そのための体内環境改善を目指した「北海道発ヘルスツーリズム」を提唱し、「スギ花粉疎開ツアー」や「メタボビートキャンプ」など医化学的な根拠に基づいたユニークなツアーを企画、推進してきた。これらのツアーの根底にある考え方が「ライフスタイルイノベーション」である。
 「花粉症は免疫バランスがTh2 に偏向して発祥するものですし、肥満になると免疫バランス制御が難しくなり、感染症に罹りやすくなります。参加者は、これらのツアーを通じて、ライフスタイルを改善し、健康を維持してもらいたいです。病気にならない人々を増やすことは、日本の医療費4 兆円を削減することにつながるのですから」。



 西村教授が行っている産学連携は、研究はもちろんのこと、食品開発、地域活性化、観光開発と多岐にわたる。
 例えば黒千石は、大手流通企業の元役員との出会いがきっかけで、十数種の商品開発が行われ、全国展開で販売が開始されている。「流通のプロと出会えたからこそ、全国展開が可能になり、全国ブランドの作り方を学んだ」と西村教授は語る。
 野菜ペーストは、9 月から道内生産が始まり、食品メーカーなどに販売されているほか、道内外の大手ホテルレストランでも使用されている。農業関係者は、生食には適さない形状の「はねもの」野菜の有効活用として注目している。
 また、西村教授は、道内複数の自治体との連携によるヘルスツーリズムを提唱し、新たな健康観光ネットワークの確立を進めている。
 精力的に産学連携を進める西村教授。多様なネットワークを形成する原動力は一体どこにあるのだろうか?
 「もちろん、ネットワークは私一人ではできません。不思議なことに、私の「思い」が強いことによって、自然と同じ「思い」を持つ方々とつながってくるのです。「思い」を持った人間が集まったネットワークは強固ですよ。そして、ゼロからスタートすることを躊躇せず、絶えず動き、決して諦めないこと。これらにつきますね」。
 西村教授が考える望ましい産学連携とは何だろうか。
 「私にとっての産学連携の目的は、患者さんに良い治療法を少しでも早く提供することです。論文を出すことも大事ですが、常に患者さんのことを考え、良い結果をイメージし行動することで、連携ネットワークが生まれてきました。今後は、大学としても積極的に地元企業との交流を進めることで、さらなる連携を深めたいと思います。」
 「地域活性化は、住んでいる人の元気さと連関する」と語る西村教授。先端的研究とともに地域での地道な取組を続ける西村教授は、本学の特徴を体現していると言えよう。
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