◆電子回折イメージング-3次元原子分解能イメージングに向けて-

【ライフサイエンス】 (2013/03/28公開)
大学院工学研究院 応用物理学部門 
生物物理工学研究室
郷原 一寿 教授

結晶化を必要としない、原子分解能イメージング


 これまでイメージングに関する多くの手法が考え出されています。中でも、原子が識別できる高い空間分解能でイメージングすることは、分野を超えて大きな影響を与えています。1953 年のワトソン・クリックによる原子スケールでのDNA構造解明は、その典型的な例であり、結晶構造解析と呼ばれる手法が重要な役割を果たしています。この手法は、原子が周期的な規則配列をした、結晶と呼ばれる構造の場合にのみ適用できる手法です。もちろん、DNAは生体内では結晶として存在しているものではありません。したがって、誰も原子分解能でDNAを単体で見たことはないのです!
 しかし、約10 年前に、回折イメージングと呼ばれる新たな手法の出現により、結晶でな
くても原子分解能でのイメージングを可能とすることに道が開かれ、研究者の間で、世界的な研究が始まりました(関連情報(1)、(2))。郷原教授は、この手法の原理の面白さと、バイオマテリアルを含む広範な適用範囲に強い興味を持ち、電子を用いた回折イメージングを、研究テーマの一つとして加えました(関連情報(3))。
 回折イメージングとは、図1に示すように、実験によって計測された回折パターン(左)を元にして、計算機による数値計算によって実像(右)を得るイメージング手法であり、物理的なレンズの機能をデジタル計算によって実現する“デジタルレンズ”と言えます。


図2.単層CNTの回折イメージング


単層カーボンナノチューブの原子分解能イメージング


 図2(上)は、加速電圧30kV の電子回折パターンを元に得られた実像の例です(関連情報(4))。全体は細長いロッド状の形をしており、その中に、コントラストの異なる微細な構造が見られます。白枠の領域を拡大したものが下(左)の図です。詳細
な解析の結果、下(右)に示したようにシングルカーボンナノチューブの上と下の炭素6員環ネットワークを2つ重ねたものであり、炭素原子一つ一つを単独で識別できる0.12nm の分解能で、原子の重なりを反映していることを定量的に明らかにすることができました。この研究結果は、電子回折イメージングが、軽元素物質に対して、元素の識別(Chemical Analysis)を可能とするイメージング手法であることを示しています。

期待される今後の展開


 ナノチューブ、グラフェンなどのカーボン素材に加え、リチウム、ボロン、窒素、酸素などの軽元素のイメージングが期待されています。ナノカーボン材料はLi イオン電池や燃料電池の電極材として産業応用が盛んに研究されており、シリコンに代わる半導体材料としても注目されています。さらにタッチパネルの電極としても、その応用に関心が集まっています。これらの軽元素材料は、原子分解能で高分解能イメージグを行う際に、ビーム照射によるダメージを受けやすいことが大きな問題となっています。また、DNA、タンパク質などのバイオマテリアルは、軽元素を主な構成要素としていますが、これらを結晶化することなく、イメージングする基本技術が強く求められています。
 電子回折イメージングは、生命・情報・環境・エネルギーなど、広範な分野の材料に対して、低ダメージで3 次元原子分解能を実現できるイメージング技術として、今後重要性が大きく増すものと考えられます。

その他(関連情報)

(1). 郷原一寿、上村理:「顕微鏡」, 44, 69-73 (2009)
http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/43930
(2). 郷原一寿、西野吉則、中島伸治、塩谷浩之:「計測と制御」, 50, 313-337(2011)
(3). 郷原一寿:「えんじにあRing」, 7 月号, 04 (2012)
http://www.eng.hokudai.ac.jp/commonfile/pdf/e391.pdf
(4). O. Kamimura, Y. Maehara, T. Dobashi, K. Kobayashi, R. Kitaura, H. Shinohara, H.
Shioya, and K. Gohara: Appl. Phys. Lett. 98, 174103 (2011)
Update 2016-12-14
北海道大学 TLO通信 創業デスク 北海道大学研究シーズ集 vol.4
食科学プラットフォーム 北海道大学URAステーション 北海道大学 研究者総覧 onちゃん北大事務局