シーズ技術紹介

【ライフサイエンス】 (2013/04/24公開)

◆「農業を変えるビタミンC誘導体 ~万能薬としてのポテンシャル~」

農学研究院 応用生命科学部門 育種工学分野 細胞工学研究室
増田 税 教授

ウイルスに対抗する「ビタミンC誘導体」の効能の発見


 年間1000億円以上と推定される作物のウイルス病の被害に有効な抗ウイルス剤は存在していません。というのも、ウイルスを抑制しようとすると、作物の細胞にもダメージを与えてしまうからです。しかし、多くのウイルスはRNAサイレンシングサプレッサー(RSS)をもっており、これがウイルスの増殖を促進することが近年わかってきました。 しかしながら、RSSはウイルスの生命維持のためには必須ではありません。そこで我々は、数年前に農水省に採択された課題で、このRSSをターゲットにしてバイオラショナル**な抗ウイルス剤創出に関する研究を行いました。その結果、非常に有望な抗ウイルス剤候補を見いだすことが出来ました。それは誰もが知っているビタミンCの誘導体だったのです。ビタミンC誘導体は多くの植物ウイルスに効果を示し、病徴を軽減することが出来ました。また、実験ではエイズやインフルエンザウイルスのRSSに対しても阻害活性を示し、動物ウイルスに対しても有効であると考えています。

新しい機序による「農薬」の開発に向けて


 共同開発を行っている農薬メーカーでは、自社の製剤技術を駆使して、植物に投与する農薬としてのビタミンC誘導体剤の開発を進めています。農薬として使用するためには、植物にとりこまれやすく、安定して効果を発揮する必要があります。ビタミンC誘導体が安全であることは周知の通りです。さらに強調したいのは、ビタミンCには抗ウイルス効果のみではなく、植物の生長促進効果も示唆するデータもでており、植物成長調節剤として開発できる可能性もあります。このように一般的な食品でもあり、抗ウイルス剤と成長促進剤としての効果のあるものは、これまで全く知られていなかったため、これは農薬の概念を大きく揺るがすことになります。また、環境ストレス(低温、高温、乾燥など)に対する植物の耐性を高める効果も期待されており、例えばビタミンC誘導体剤を散布しておけば、ウイルス病の発生が抑制され、植物の収量や品質の向上が期待できます。仮に、ウイルス病が発生した場合においても、予防的効果によってウイルス病の軽減による一定の収量を確保できるなどの効果が期待できます。さらには、バクテリアや糸状菌にも効果があるという文献も存在しており、細菌や菌の病気にも有効である可能性が高いと考えられます。

ハクサイにビタミンC処理したときのカブモザイクウイルス
に対する効果(蛍光斑点がウイルスの感染を示す)


具体的な製品イメージ例


1.抗植物ウイルス剤
複数の植物ウイルス病の病徴を軽減し、発生を遅延させる効果がある。しかし、ビタミンC誘導体はウイルスを殺す薬ではなく、ウイルスを温和しくさせるものであり、複数回の投与が効果的である。ビタミンC誘導体の安全性や残効性については全く問題ない。
2.植物生長促進剤
農薬と言うよりも収量や品質を向上させる植物の生長調節剤として利用することができる。
3.抗環境ストレス剤
ビタミンC誘導体を処理した植物に、低温・高温耐性や耐乾性などを付与できる。例えば、冷夏となり、稲の冷害などが心配される時に、噴霧しておくと効果が認められるものと考える。
4.殺菌剤
ビタミンC誘導体に殺菌性があるという報告があることから、ポストハーベスト用の処理剤として野菜に散布しておけば、マーケットにおいても野菜を衛生面でフレッシュな状態に維持できる。ビタミンC誘導体自体による栄養付与という面でもメリットがある。
5.抗動物ウイルス剤
我々はまだ実際のウイルスに対して試していないが、動物ウイルスのRSSに対する阻害作用があることからビタミンC誘導体を利用したインフルエンザ防止などが期待できる。

その他

メディアへの掲載
・北海道新聞平成25年5月科学欄に掲載予定。

特許の番号、特許名
1.佐野慎亮・深川尊子・山田裕一・増田税・志村華子「抗ウイルス剤」 特願2007-77970 2007.3.23 PCT/JP2008/000655
2.増田税・志村華子・佐野愼亮・深川尊子「抗植物ウイルス剤」特願2009-211649 2009.9.14 PCT/JP2010/065500
3.藤原 綾香・犬飼 剛・増田 税・佐野 愼亮 金澤 潤 「抗ウイルス剤」特願2012−141496 2012年6月22日

※用語の説明
RNAサイレンシングサプレッサー*(RSS):
植物にはRNAサイレンシングと呼ばれるウイルス全般に対する抵抗性機構があります。一方ウイルスもRNAサイレンシングによる抵抗性に対抗する術をもっており、それに関与する一群の遺伝子を持っており、RSS(抑制遺伝子)と呼ばれています。
バイオラショナル**:
植物が自ら作り出した機能性成分によって、ウイルス等からの感染を防御する自己防衛のシステム。生物が作り出す化合物にこそ本当に薬になるものがある.
北海道大学 TLO通信 創業デスク 北海道大学研究シーズ集 vol.3
食科学プラットフォーム イノベーション・マネージャー育成ユニット 北海道大学URAステーション 北海道大学 研究者総覧