研究者紹介

【ライフサイエンス】 (2013/04/25公開)

◇野田 航介 准教授 大学院医学研究科眼科学分野

糖尿病網膜症の病態メカニズム解明~新たな治療法開発を目指して~

(研究室の皆様と。中央上が野田准教授)

臨床医の現場経験の後、基礎研究の面白さを知る


 私はもともと眼科医ですので、純粋な研究者ではありません。慶應義塾大学医学部を卒業後に同医学部の眼科学教室に入局しました。最初の6年間は臨床医として勤務しておりました。正直に申し上げて、将来自分が基礎研究をするなどとは、当時、露ほども考えておりませんでした。
 しかし、医師7年目の時点であるご縁があり、同医学部の病理学教室で共同研究員として勉強させて頂くことになりました。自分が眼科臨床で不思議に感じていたことをテーマに研究することを許され、経験ゼロの状態からいそいそ研究を始めた次第です。最初に自分のやりたい研究をさせて頂けたのが良かったのだと思いますが、その後は基礎研究の面白さにはまってしまい、Massachusetts Eye and Ear Infirmary/Harvard Medical Schoolに3年間研究留学をさせて頂き、現在はまた有り難いご縁を頂いて北海道大学大学院医学研究科眼科学分野で研究室を運営させて頂いております。
 私が基礎研究をおこなうようになったのは、そのような経緯からでした。「臨床的アプローチのみでは解決できない疑問に直面した時に基礎研究の扉を叩いた。」とドラマのようにカッコよく書きたいところですが、要するにあまり深く考えずに飛び込んだ結果、多くの素晴らしい先生方に基礎研究の面白さと深遠さを教えて頂けて、ついに研究が止められなくなってしまった、というのが本当のところです。

糖尿病網膜症の病態形成における分子ネットワークの解明


 私の専門領域は眼内血管新生というもので、特に糖尿病網膜症というものに着目して研究をおこなっています。現在、糖尿病は全世界で増加の一途をたどっており、その患者数は約3億7千万人とされています。また、糖尿病患者全体で約35%が糖尿病網膜症とよばれる眼疾患を有し、約10%が網膜症によって視力を著しく障害されているとのデータがあります。本疾患は、現在も我が国における主たる中途失明原因の一つであり、その病態解明と治療開発は眼科領域の重要な課題です。
 糖尿病網膜症に対する治療としては、現時点では網膜光凝固とよばれるレーザー治療がもっとも有用です。本症は放置しておくと網膜剥離や眼内出血などにより失明に至る疾患ですが、網膜光凝固を適切な時期におこなうことによって高い確率でそれを阻止できます。最近ではその網膜光凝固に加えて、眼内手術の機器および技術の進歩、抗血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor, VEGF)製剤とよばれる生物学的製剤の臨床導入などがおこなわれ、徐々にその治療成績は向上してきました。そして、糖尿病網膜症の治療目標は現在、従来の失明阻止とともに日常生活に有用な視力維持を目指す段階へと移行してきています。
 しかし、ここで重要なことがあります。これまでの糖尿病網膜症に対する治療は、血管新生や血管透過性亢進などの「血管病態」を制御すること、つまり網膜剥離や眼内出血といった糖尿病網膜症の終末病態阻止を目的に構築されてきたものです。しかしながら、考えてみれば至極当然のことなのですが、網膜は血管組織と神経組織で形成されていますので、その双方が糖尿病によって傷害されます。つまり、よりよい視力の維持を目指すためには、「血管病態」のみならず「神経病態」も制御することが必要なわけです。今後は、その「神経病態」に対する治療法開発が糖尿病網膜症研究の重要なテーマになると考えております。そして、そのためには糖尿病網膜症の病態に関与するサイトカイン、蛋白分解酵素、接着分子などの多種多様な分子がどのようにそのネットワークを形成し、どのように血管組織と神経組織を傷害しているかを知ることが最重要と考えています。旅行(=治療法開発)を計画するためには、まず地図を入手する(=病態の全容を知る)ことが大切、といったところでしょうか。
 以上のような背景から、近年は「糖尿病網膜症の病態形成における分子ネットワークの解明」というテーマで研究をおこなっています。本研究内容は先日、第18回ROHTO AWARD(http://www.rohto.co.jp/comp/news/?n=r130401_1)で表彰して頂きました。これまでご指導いただいた先生方、そしてサポートして下さった皆様方に感謝申し上げるとともに、今後もさらに検討を重ねていきたいと考えています。

異分野の人が協働する産学連携には「接着剤」が必要


 米国に留学している際に、Massachusetts Institute of Technology (MIT)やBrandeis Universityなどの研究者と共同研究する機会がありました。事の詳細は省略しますが、関連のない分野の人間が協働することによって、全く新しいアイデアや大きな推進力が生まれるという経験を幾度もしました。産学連携も同様のことと思います。互いの有する目的や役割、専門技術の異なる産学連携が作り出すコングロマリット的な複合体は、既存の体制では出てこないアイデアの創出や大きなブレークスルーの実現を可能とします。今後もそのような産学連携の機会を大切にしていきたいと考えています。
 ただ、コングロマリット(礫岩)は元来異質な石や砂の集合体であり、それらを結びつけるためには基質とよばれる「接着剤」が必要です。目的や専門性の異なる「産」と「学」が結びつくためには、魅力的かつ実現可能な構想を大学側から発信することがその「接着剤」として必要と考えます。そして、その「接着剤」が全体に行き渡るように、それらをまとめあげて下さる組織の力も必要です。私ども眼科学分野は、現在も多数の企業や他の診療施設との共同研究を行なわせて頂いておりますが、北海道大学産学連携本部の協力の下にその共同研究組織は「接着されて」成立・稼働しております。益々のお力添えに期待しております。

その他

北大眼科 研究室紹介
http://eye.med.hokudai.ac.jp/0401.html
北大眼科 活動実績
http://eye.med.hokudai.ac.jp/0201.html
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