研究者紹介

【ナノテクノロジー・材料】 (2013/05/23公開)

◇松田 理 准教授 大学院工学研究院 応用物理学部門

物質表面を伝わる音響波の様子を可視化へ

物理への探究心から研究者の道へ


 私は、ラジオ少年かつマイコン少年だったこともあり、大学受験の際は電子工学もしくは情報工学を考えていたのですが、周囲の勧めもあり色々考えた末、大阪大学理学部物理学科に入りました。4年生で理論をやるか実験をやるか、素粒子をやるか物性をやるかを決めなければならなくなったときには、あまり深く考えず半導体の実験系の研究室に進み、アモルファス半導体の光物性の研究に取り組みました。成果はあまり出ていなかったのですが、物理をもう少し勉強したいという漠然とした考えから博士課程に進み、その後様々な幸運が重なって大学での研究を続けおります。電子回路・コンピュータの知識や培った工作技術は時々少しだけ役に立つことがあります。研究者になってよかったことは、基礎的なことの理解や、問題の解決に納得のいくまで時間をかけられる点だと思っていたのですが、最近はそういうわけにもいかなくなってきました。

物質表面を伝わる音響波の様子を可視化へ


 1998年に北海道大学工学部の応用物理学科(量子機能工学研究室、Oliver B. Wright教授)に移ってからは、主に超短光パルスを用いた超高周波数(GHz~THz)領域の音響波伝播の研究を行っています。様々な構造物中の音響波の伝播様態を時間分解・空間分解で可視化して、明らかにするとともに、そこから得られる知見を様々な機能を持つ音響物質・デバイスの開発につなげます。最近はフォノニック結晶やフォノニックメタマテリアルと呼ばれるミクロン・ナノスケールの人工構造物に注目しています。これらは通常物質中に周期的に配列した孔を穿つなどで周期構造を導入することで、音響波の伝播を人為的に制御しようというものです。
 ここでは私どもの研究室で取り組んでいる表面音響波の時間分解2次元イメージング測定法について簡単に紹介いたします。これは物質表面を伝わる音響波の様子を、ピコ秒※の時間分解能、ミクロンスケールの空間分解能で動画として観測する測定法です。このような短い時間スケールで起こる現象を観測するためには光ポンププローブ法と呼ばれる実験手法が用いられます。これはポンプ光と呼ばれる短い光パルスを用いて物質中に観測したい現象(ここでは音波)を発生させ、ポンプ光から一定時間遅れて試料に到達するプローブ光と呼ばれる光パルスを用いて起こっている現象(音波の伝わる様子)をスナップショット的に観測します。ポンプ光とプローブ光の間の遅れを変化させながら多数の測定を行うことにより、ポンプ光によって発生された音波が時々刻々伝わる様を、時間軸に沿って追いかけることができます。測定の時間分解能は、ポンプ・プローブ光パルスの時間幅で決まりますが、近年では1ピコ秒程度の光パルスは容易に生成することができますので、これを用いることでピコ秒の時間分解能を持つ測定が可能となります。このような測定には比較的高強度の光が必要となりますので、プローブ光は試料上の一点に集光されており、一度の測定では集光箇所の情報しか得られません。そこでプローブ光の照射位置を2次元的に走査しながら測定を繰り返すことで試料表面の音波伝播の2次元画像を得ます。図1はこのような方法による音響波の伝播イメージ測定例でTeO2結晶表面の150 x 150 μm2の領域をイメージしています。12 nsの周期で繰り返されるポンプ光パルス列を中央付近に集光して音響波を生成し、その広がっていく様をポンプ光照射4.9 ns秒後に観測しています。TeO2結晶は異方性が強く、伝播方向によって音速が大きく異なるために、図のような複雑な波紋が見られます。図2はSi(100)基板に直径6 μm , 深さ12 μm の孔を6.5 μm 周期で穿って作製した2次元フォノニック結晶での測定例です。一列だけ孔の無い領域を設けると、その部分が導波路となります。図では導波路を伝播した音響波が、導波路端から回折で広がっていく様子が見えます。このような測定から、試料の音響特性がわかることはもちろんですが、例えば試料中に傷などがありますと音響波の伝播が影響を受けますので、これを利用して試料の非破壊内部検査を行うこともできます。

 研究においては、なるべく汎用性のある技術、解析方法を開発することを心がけております。ポンププローブ法による時間分解測定技術と測定光の空間走査技術とを組み合わせた上述の方法は、音響波以外にも、熱伝導やキャリア拡散など様々な現象への応用が可能な汎用性の高いものとなっています。

みなさんのアイディアやヒントを成果活用に活かす


 研究成果を通して何か人の役に立ちたいという思いは常にあります。そのためには広く世間の動向を知る必要があるのですが、日々の忙しさを口実についつい勉強がおろそかになっております。皆様方から「これはこういうことにも使えるのでは?」「こうすればもっと使えるのでは?」というようなヒントをいただけますと幸いです。

その他

研究室ホームページ
http://kino-ap.eng.hokudai.ac.jp

用語の説明

ピコ秒
1兆分の1秒(10-12秒)

松田准教授の最新のシーズ技術はこちらよりご覧いただけます(2016年研究シーズ集 vol.3掲載)

北海道大学 TLO通信 創業デスク 北海道大学研究シーズ集 vol.4
食科学プラットフォーム 北海道大学URAステーション 北海道大学 研究者総覧 onちゃん北大事務局