研究者紹介

【ライフサイエンス】 (2013/07/18公開)

◇辻 悦司 助教 大学院工学研究院 物質化学部門 機能材料化学分野 界面電子化学研究室

結晶性TiO2メソポーラス薄膜の低温合成とその応用

太陽エネルギーへの興味がきっかけとなり、光触媒研究の道へ


 高校時代から化学が好きで、漠然と太陽電池などに興味があったため、太陽エネルギー関連の研究室がいくつかある大阪大学基礎工学部化学応用科学科に入学しました。学部2年の時に半年間、1つの研究室に週1回訪れ、簡単な実験をするPBL(Problem Based Learning)という授業があり、この時に中戸義禮教授の研究室に訪れて初めて光触媒を知りました。これがきっかけで光触媒に興味を持つようになり、この時に訪れた研究室で学士、修士、博士の6年間を過ごすことになりました。その後は研究に加えて学生の指導も行いたいと思うようになり、ご縁もあって現在の北海道大学工学部に来ることとなりました。

新規アノード酸化法による「結晶性TiO2メソポーラス薄膜」の直接合成


 学生時代には、代表的な光触媒であるTiO2上での光水分解における酸素発生反応メカニズムに着目して研究を進めていました。光水分解反応はクリーンな水素製造法として注目されていますが、酸素発生反応の効率の悪さが大きなネックになっています。物質固有の電子状態(いわゆるバンド構造)に注目した研究は数多くありましたが、反応が起こる光触媒の表面構造、特に原子レベルでの表面構造の違いがどのように影響しているかを議論した例は少なく、そこに注目して研究を進め、応用というよりかは基礎的な部分での研究を行ってきました。
 2011年に北海道大学大学院工学研究院に移ってからは、アノード酸化法による結晶性TiO2メソポーラス薄膜の合成を中心に研究を進めています。我々の研究室では、以前より、リン酸含有高温グリセリン溶液中でTi板に20 V程度電圧を印加することで、TiO2メソポーラス(TMP)薄膜が形成可能である報告しています。こうして得られるTMP薄膜は従来のアノード酸化法で得られる膜とは異なり、1. アノード酸化後の高温焼成なしに結晶性を示す、2. 従来の3倍以上もの高表面積を有する、といった特徴を有しています。さらに、最近、電解液の液性を変えることで、結晶性を変えることなく、これらメソポーラス構造の形態制御が可能であることを見出しました。またTi板上だけでなく、透明導電性基板上へ成膜したスパッタTi薄膜に対しても同様のTMP薄膜が得られ、その特性にはアノード酸化時間が大きく関与することを明らかにしました。これを用いた色素増感太陽電池では、高温焼成を省くことで透明導電性基板の熱劣化を防ぐことができ、今後、プラスチック基板などの熱に弱い基板を用いたフレキシブル型太陽電池への応用も期待されます。
(a) 液性を変えることで、結晶性を変えずに規則性の高いポーラス構造を得ることが可能である。(b) スパッタTi薄膜に対してアノード酸化をすると、Ti膜がTiO2膜へと酸化されていき、透明になっていくことがわかる(~60 sec)。一方、光酸素発生における光電流値を観測すると、過剰なアノード酸化により透明導電性基板が劣化し、光電流値が大幅に低下する(80 sec)。アノード酸化時間を最適化(60 sec)することで透明性を備え、従来のものよりも優れた特性を示すTMP薄膜の合成が可能である。
 現在は、高温焼成なしに如何にして結晶性を向上させるかに着目して研究を進めています。これまでの研究で結晶性を示すようにはなったものの、アモルファスも一部残っており、十分に結晶化しているとはまだ言えません。光触媒や色素増感太陽電池、エレクトロクロミック素子など様々な分野での応用が期待されるTiO2ですが、その光触媒活性、光学特性、電気特性には結晶性が極めて大きな影響を与え、高表面積かつ高結晶性を兼ね備えたTMP薄膜の作製が重要になります。また、将来的には、これらメソポーラス構造の特徴を活かした新たな光電極触媒の開発も進めていきたいと考えています。

産学連携の推進に向けて、実用・応用を意識した研究をめざす


 地球温暖化や大気汚染などが叫ばれている現在、今後、より一層の科学技術の発展が求められており、そのためにも産学連携は必要不可欠だと思います。企業では、なかなか基礎の部分での研究を進めることが難しく、そういったところを大学側がうまく補っていければと考えています。私自身は、学生時代から基礎研究ばかりしており、これまでなかなか応用、実用といったことを考える機会がありませんでした。こちらに来てからは、なるべく応用、実用を見据えて実験を考えているつもりですが、まだまだそういった考え方は未熟であると思っています。そのため、どういったものが実際に必要とされているかなど、企業側からの意見も頂き、積極的に取り込んでいきたいと考えています。

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