研究者紹介

【ライフサイエンス】 (2013/09/25公開)

◇相沢 智康 准教授 大学院先端生命科学研究院 先端融合科学研究部門 生命分子科学分野

NMR構造解析に関する最先端の研究を大自然の中で

生命現象への興味から幅広い研究を展開


 多くの理系の研究者の方々がそうなのではないかと予想しますが、私も物心がついたころから科学大好き少年でした。少年時代は科学技術に関する事にはなんにでも興味があったのですが、そのころに特に華やかな分野であった、宇宙開発、コンピューター、そしてバイオテクノロジーに特に自然と興味を持つようになりました。子供心ながらに、「大きくなった頃にはスペースコロニーが出来て、宇宙はみんなが普通に行く場所になっているはず。コンピューターもみんなが普通に使っているはず。だからバイオに一番夢がある!」という変な打算(?)に基づいて、少しずつ興味が様々な生命現象へと向かい、そのまま現在に至っています。(ご承知の通り、この予想は一部については非常に良く当たりましたが、一部は大外れでした。)
 北大において生命科学を学ぶ進学先としては、数ある選択肢の中で理学部・旧高分子学科を選びました。動機は、恩師である新田勝利名誉教授との偶然の出会いと、当時、新築されつつあったきれいな新校舎(今はすっかり古びてしまいましたが)に対する憧れ、というかなり不純なものではありましたが、理学部で生物学のみならず、化学、物理学の基礎を幅広く学んだ経験は、自分の研究者としての基礎と現在の研究のスタンスを決める、極めて重要なものとなりました。現在、私の所属する大学院先端生命科学研究院も、その研究の対象は生命科学分野全般に広がっており制限がありません。そのため、私自身の興味や共同研究も広がり、医学や薬学分野はもちろん、農学や工学など幅広い分野の方々と仕事を進めさせていただいています。「生命」というキーワードでつながれば、様々な方と自由に共同研究が出来る現在の研究環境は、様々な分野に対して好奇心が旺盛な私にとって大変恵まれたものである、と感じています。

NMR構造解析に関する最先端の研究を大自然の中で in カナダ


 2013年の春から、在外研究をさせていただく機会をいただき、現在、カナダのアルバータ州にあるカルガリー大学のProf. Vogelの研究室でお世話になっております。ロッキー山脈の東側に位置するアルバータ州は、北海道と姉妹提携を結んでおり、様々な交流が盛んです。アルバータの州都はエドモントンですが、カルガリーは交通の要所であることや、オイルサンドの産出で多くの石油関連の企業が進出していること等から、市の中心部には高層ビルが立ち並び、人口115万人を超える非常に栄えたカナダ第4の都市となっています。市の中心部から少し離れたところに位置し、1988年のオリンピックの会場にもなったカルガリー大学のキャンパスは、木々も多くリスやウサギが駆け回る、とてものどかな環境にあります。高台からは、3,000mを超えるロッキーの山々を遠くに眺めることができますし、実際、車で約1時間半走れば、日本人の観光客にも非常に人気の高いバンフ国立公園まで簡単に行くことができ、夏はハイキング、冬はスキーを思う存分楽しめるという、非常に恵まれた街です。
 私がVogel研を留学先に選んだのは、私が主要な研究テーマの1つとしている抗菌ペプチドのNMR解析の分野において、Prof. Vogelは最も著名な研究者の1人であることが大きな理由です。また4台のNMR装置を保有しているVogel研では、ペプチドや蛋白質の構造解析と並行して、最近注目を集めている代謝産物の網羅解析であるメタボロミクスも大きな研究の柱としており、今後この分野の研究も展開したいと考えていた私にとっては、非常によい留学先を選択させていただいたと感じています。
 Vogel研の蛋白質・ペプチド解析に関する研究テーマは、抗菌ペプチドの解析以外にもCa結合蛋白質や、微生物関連の金属結合蛋白質・膜蛋白質の解析など、非常に多岐にわたっていますが、いずれも私が研究してきた研究分野と接点があるものが多く、ボスと私の興味や研究方針が一致しているため、こちらでの研究も非常に進めやすく刺激を受けることが多いという印象です。通常の技術では合成が困難な抗菌ペプチドの遺伝子組換え生産とその系を利用したNMR解析という、私自身の最も得意とする分野で良い共同研究のテーマを設定する事ができましたので、久しぶりに自分自身で手を動かす機会を得て実験を進めています。私自身も長年の課題としてきた、遺伝子組換えの宿主に対して毒性を発揮する有用ペプチドを効率的に生産する技術について、Vogel研でもいくつかの新しいアイディアを用いて取り組んでおり、その改良とNMR解析への応用を進めることが、私の現在のメインテーマです。実験室では、研究分野の近いPDや大学院生達とも情報交換や交流をする機会が多く、非常に充実した時間を過ごしています。
 こちらの研究生活で感じることは、何と言っても国際色が豊かな事です。カナダは人口の2割を超える人が外国生まれで、その割合はG8加盟国中では最高の比率であり、更に上昇傾向にあるそうです。実際、研究室のメンバーも、ボスがオランダ人(と言ってもごく最近、カナダ国籍をとったそうですが)であるのを筆頭に、コロンビア、ポーランド、スウェーデン、ロシア、イラン、インド、パキスタン、バングラディシュ、中国、そして日本と世界中から人が集まっており、カナダ人の方が少ないという状況です。私は、北大の生命科学院において、「国費外国人留学生の優先配置を行う特別プログラム」のお手伝い等をさせていただいておりますが、カナダと比較すると、やはり日本の国際化はまだまだであると、日々痛切に感じております。こちらでは自分自身が外国人として生活しているわけですが、外国人のための様々な支援のプログラムが様々なレベルで非常に充実しており、驚かされます。また、カナダの大学院生に対する奨学金やTA、RAの制度は米国以上に充実しているようで、日本とは異なり大学院生は基本的に経済的に自立して生活をしています。日本でも、国内はもちろんですが、海外からも優秀な学生の進学を望むのならば、この問題の解決が重要な課題であると改めて実感しました。また、こちらの留学生と話すと、移民が盛んな北米とは異なり、留学後のキャリアパスを描きにくいことが日本を留学先の選択肢から外す大きな理由の一つとなっているようであり、これも日本の国際化を考える上で、大きな課題であると感じています。

基礎研究からも産学連携、社会貢献は可能


 カナダでも日本と同様に、競争的資金を獲得して研究を進めることは、研究者にとってもちろん極めて重要な課題です。つい先日も米国のNIHにあたるCIHR (Canadian Institute of Health Research)の予算申請の締め切りがあったため、より良いデータを求めるボスから、珍しくPD達に檄が飛び、研究室内が慌ただしくなりました。米国と同様に、カナダでの競争的資金はピアレビュー制で厳しく審査されるため、より説得力のある有用なデータが重要であるようです。
 私自身も10年以上に渡り、農林水産省系の競争的資金の研究員や研究代表者として仕事を進めてきた経験があり、自らの基礎研究分野での研究成果をどのようにして産業等の出口へ結び付けるかを常に意識してきました。昨年度まで農業・食品産業技術総合研究機構の支援を受けて、私が研究代表者として進めさせていただいていた「抗菌ペプチドを利用した食中毒原因微生物の高感度検出技術の開発」では、日本ハム株式会社中央研究所との共同研究により、多種類の食中毒原因微生物を短時間で簡便に同時検出・識別可能な、新規マルチプレックスラテラルフロー法の開発に成功しました。抗菌ペプチド分子の生産技術や機能・構造解析という基礎研究の成果を、産学連携研究により応用に結び付ける事が出来た一例ですが、基礎研究分野の研究者も企業を始めとする幅広い分野の方々と交流を持ちアイディアを交換することで、社会貢献につながる研究成果を生み出すことが出来るのだ、と自信を持っています。また、企業の方と接点をもち、社会のニーズを把握する努力を行う事は、基礎研究を進める上でも、とても良い刺激になると感じています。
 残念ながら今でも、まだ宇宙は「普通に行けるところ」にはなっていませんが、国際化が進み、海外は「普通に行けるところ」になりました。私がカナダに来たのは20年ほど前の大学生時代に1月ほどホームステイをして以来ですが、当時と比較するとインターネットの発達などによって、いろいろな面で海外での生活が便利になったことを強く実感しています。とはいえ、海外での実際の経験は、研究生活においても日常生活においても、学ぶ事も多いと同時に、日本の良い点と悪い点を客観的に見直す、非常に良い機会を与えてくれます。日本では、何気なく恩恵を受けていた、日本流のサービスや商品の良い点に、改めて素直に感動をし、清潔で安全で住みやすい日本の良さを深く実感すると同時に、この様な良い視点を持った日本人が国際社会でさらに活躍するにはどうすべきか?と日々考えさせられています。私の今回のカナダでの研究生活も折り返しを迎えましたが、帰国後は産学連携を通して日本の産業に活力を与えるお手伝いを少しでも出来れば、と願っています。

研究室ホームページ

http://altair.sci.hokudai.ac.jp/g5/
北海道大学 TLO通信 創業デスク 北海道大学研究シーズ集 vol.4
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