研究者紹介

【ライフサイエンス】 (2014/01/20公開)

◇笠井 久会 准教授 大学院水産科学研究院 海洋応用生命科学部門 海洋生物工学分野

魚病の研究から、食の安全を守る

実験室での笠井准教授

魚の健康と、食の安全を守る研究を


 今回ご紹介する笠井先生は、大学での研究活動だけではなく、北海道内における魚病の予防や調査を担うお仕事もされています。養殖場で病気が発生するとすぐに現場に駆けつけて、病気を診断したり、原因を調べ対処したりするのです。
 そんな水産業の現場でも活躍する笠井先生は、北海道標津町出身。高校生のころから理科の中でも特に生物が大好きな生徒でした。
 日本でも有数の鮭の水揚げを誇る港町で、海の恵みが身近であったことから水産生物に興味を持つようになり、北海道大学水産学部に進学しました。大学4年生からは各研究室に配属されて研究を行うのですが、この研究室を選んだ理由は「学生実験が楽しかったから」とのこと。魚病の研究室だったので、病原菌同定のための菌の培養を実際に体験できたことがその理由でした。魚病を扱うということは、つまり魚の健康を守るための研究でもあるので、生物が好きな笠井先生の選択は正しかったのだと思います。
 博士課程を終了後に博士研究員を経て、北海道大学水産科学研究院の助手に採用され、平成23年より現職。水産科学研究院では唯一の女性研究者として活躍しています。

実験室からフィールドワークまで


 笠井先生は魚病の診断や調査だけではなく、魚病を防ぐための研究も行っています。例えばワクチンの開発や、ウイルス性ガンの発病に関する機構の解明、飼育環境のコントロール、また既往病(過去にかかって既に治癒している病気)の把握など、基礎から応用までの幅広い研究分野をターゲットとしています。
 魚病については未だに解明されていない点が多くあります。例えば感染の経路について、親から子に垂直感染しているのか、卵に原因菌等が付着するために感染するのか、その特定も非常に難しいのが現状です。そもそも、その魚が治っているのか、病気のキャリアなのかを生かしたまま判断する事も困難なのだそうです。死亡に至る病気ですら外観からは判別しづらい例があり、もがき苦しんだり徐々に弱っていったりするのではなく、(恐らく)具合が悪くても普通に泳いでおり、バランスが保てずに浮いてきたときにはもう手遅れという状態だそうです。
 現在は感染を防ぐために卵の消毒などを行っていますが、感染経路が判明すれば、未感染の親を選別したり、また新たな予防方法を開発するなど、より的確な方法で感染を防ぐことが可能になると考えられます。

魚病の研究から、食の安全を守る


 毎年秋になると、世界の海を旅し、成長して戻ってきたサケが市場に並びます。これらのサケも、実は毎年各県や道の孵化場で遡上したサケを確保し、受精卵から稚魚を育て、放流しているのです。その親となる雌サケの健康調査を、笠井先生や国や道の研究所がそれぞれ分担して行っています。笠井先生は道南エリアを担当しており、毎年約600匹の体腔液のサンプルを採取し、調べているそうです。こうした地道な調査が行われているからこそ、私たちはおいしいサケを毎年食べることができるのですね。
 遡上してくるサケが得られる時期は限られており、その時期に各孵化場はその年の稚魚を確保するために必死です。しかし、親の健康調査もその時期にしかできないため、受精の作業の合間にサンプルを採取させてもらうことになるので、現場の理解を得ることが何よりも大切です。

雌サケより体腔液を採取する様子      サケに薬剤を接種する様子
「何も起きなければいい」
「これまでも大丈夫だったから、これからもこの方法で大丈夫」


 安全管理は直接利益に繋がるものではないため、どうしても後回しになってしまう場合があります。ですが、一度何かが起きてしまった場合の損失は計り知れません。感染した親から得た感染した稚魚を大量に放流すれば、さらに感染を広げることになります。また魚の養殖場では、自然界では通常あり得ないような環境と密度で飼育されているため、魚は過度のストレスを受けていると考えられます。よって自然界では感染するリスクのないような病気でも、いったん感染すると大量死を招くこともあります。そのため、魚の健康調査や、感染経路の特定、感染リスクの低減、治療方法などの確立はとても大切です。
 日本は世界でも稀に見るさまざまな魚種の養殖を行っており、その技術は世界にも輸出されています。そして養殖された水産物は逆に輸入され、日本の食卓も豊かにしているのです。私たちが安全で美味しい魚を食べられるのは、笠井先生のような研究者の地道な調査と研究によって支えられているのですね。

研究室ホームページ

http://seimei.fish.hokudai.ac.jp/
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