研究者紹介

【ナノテクノロジー・材料】 (2014/11/19公開)

◇太田 裕道 教授 電子科学研究所

“機能性酸化物”の持つ、真の物性値を研究


研究大好き少年から、研究者の道へ


 小学生だった頃はとにかく昆虫が大好きで、家の中は見渡す限り飼育ケースが並んでいて、中にはいろんな昆虫がいました。トンボ、蝶、セミなどの幼虫を捕まえてきては、羽化する様子を記録したりすることが日課でした。
高校のときに「化学」がとても好きになって、化学を専門に勉強できる大学に入学しました。大学4年生になると「研究室」に配属されますが、その時はセラミックを専門に勉強できるところに入りました。子供のころに読んでいた漫画「よろしくメカドック」でセラミックを使うと夢のようなエンジンができると書いてあったのがきっかけです。
大学・大学院でセラミックを研究して面白くなったので、就職してからは自動車に関係するセラミックの研究をしようと思い、某自動車メーカーの就職試験を受けたのですが残念ながら不採用でした。困って大学研究室の技官さんに相談したところ三洋電機を勧められ、三洋電機の就職試験を受けて入社しました(1996年)。このときの仕事は、今では当たり前のように使われているリチウムイオン電池の研究開発で、その中でもセラミックに深く関わる仕事をしていましたが、どちらかというと開発に近い業務でした。
もっと研究がしたいと思い始めた時に、学生時代の私の研究発表を知っているHOYA R&Dセンターの研究者から一緒に研究をしようと誘われて、1998年1月にHOYAに転職しました。また、同年10月に東京工業大学の社会人博士課程(指導教員:細野秀雄 教授)に入学し、翌1999年には細野先生が始めた科学技術振興機構の研究プロジェクト(JST-ERATOプロジェクト)に出向することになりました。プロジェクトでは光電子デバイスに関する基礎研究を行いましたが、これがとても面白くて、プロジェクトメンバーで力を合わせて斬新なデバイスをいくつか作ることができました(そのうちのひとつがイグゾーと呼ばれる酸化物半導体薄膜トランジスタです)。
2003年には、縁があって名古屋大学の助教授(准教授)になり、2012年には北海道大学電子科学研究所で教授として研究ができることになりました。
小学生の頃から研究は好きだったので、研究対象が昆虫から固体材料に変わっただけのような気がします。また、父が家具職人(特注品専門)で小さい頃から家具製作プロセスをすぐ近くで見てきた影響なのか、自分しかできない仕事がしたい(目立ちたい)という気持ちを強く持って研究に取り組んでいます。

“機能性酸化物”の持つ、真の物性値を研究


 私たちの研究室では、従来「セラミックス」として扱われてきた機能性酸化物を素材として、原子レベルで平坦な表面を有する高品質薄膜を作製し、機能性酸化物の持つ真の物性を最大限引き出し、世の中で役に立つデバイスの開発を目指しています。
 物質表面や異種物質の接合界面近傍における厚さ数ナノ㍍の領域は、仕事関数や化学ポテンシャルの差を解消し、熱平衡状態になるため、固体内部とは全く異なる電子状態になり、様々な興味深い電子・イオン伝導特性が生じます。こうした表面・界面で起こる興味深い現象を、単結晶薄膜を用いて解き明かし、モデル化することによって新しい材料設計指針の提案を目指しています。
例えば、高温超伝導体として知られるYBa₂Cu₃O₇に代表されるように、多くの複合酸化物が複雑な層状の結晶構造になることが知られています。このような層状複合酸化物を原子・分子オーダー周期の超格子とみなすと、様々な興味深い物性を示すことが期待されます。単結晶薄膜は薄膜デバイスを作製するために必要不可欠ですが、層状複合酸化物の単結晶薄膜を合成することは容易ではありません。例えば、InGaO₃(ZnO)m(mは自然数)単結晶薄膜を一般的な気相薄膜成長法で作製しようとしても、構成成分の蒸気圧差が大きいため、単一結晶相を得ることすらできません。そんなときにもってこいの方法が「反応性固相エピタキシャル成長(R-SPE)法」です[1]。R-SPE法によって作製したInGaO₃(ZnO)m単結晶薄膜は可視光領域全域で透明であり、多結晶Si-TFTに匹敵する電界効果移動度を示します[2]。また、単結晶薄膜ではありませんが、アモルファスInGaZnO₄薄膜はスマートフォンや有機ELテレビの画面の薄膜トランジスタとして実用化されています[3]。単結晶薄膜を作ることによって真の物性を理解し、それを基に実用化可能な材料に仕上げたひとつの成功例と言えるでしょう。
もう一つ、機能性酸化物の魅力を引き出す鍵は低次元化です。低次元化の手法として、①極薄人工超格子を作製する方法と、②外部電界印加によって厚さ数ナノメートルの極薄領域にキャリア電子を蓄積する方法があります。低次元化することで、例えば巨大熱電能のようなエネルギー分野で役立つ物性を引き出すことが可能です[4,5]。最近、外部電界印加による研究が多く行われていますが、私たちの研究分野の最大の特徴は、水を電界印加に用いることです[6]。機能性酸化物にとって、水は強力な還元剤(H₃O+イオン)であるとともに、酸化剤(OH-イオン)でもあります。私たちは、ナノ多孔性ガラス(成分:アルミナセメント)のナノ孔に自然に導入される水をゲート絶縁体として用いることで様々な機能性酸化物に二次元電子(ホール)を誘起することができると考えています。安心・安全な水を使って、機能性酸化物の電気・磁気・光物性を自由自在に変えられるようなデバイスを作ってみたいです。

参考文献


[1] H. Ohta et al., Adv. Funct. Mater. 13, 139 (2003)
[2] K. Nomura et al., Science 300, 1269 (2003)
[3] K. Nomura et al., Nature 432, 488 (2004)
[4] H. Ohta et al., Nature Mater. 6, 129 (2007)
[5] H. Ohta et al., Adv. Mater. 24, 740 (2012)
[6] H. Ohta et al., Nature Commun. 1, 118 (2010)

研究室ホームページ


http://functfilm.es.hokudai.ac.jp/
北海道大学 TLO通信 創業デスク 北海道大学研究シーズ集 vol.4
食科学プラットフォーム 北海道大学URAステーション 北海道大学 研究者総覧 onちゃん北大事務局