研究者紹介

【ナノテクノロジー・材料】 (2015/02/19公開)

◇上田 幹人 教授 大学院工学研究院 材料科学部門

溶融塩の実験に魅せられて研究者の道へ


溶融塩の実験に魅せられて研究者の道へ


 私が大学院に進学した時の研究室(今の私の研究室)で溶融塩を使った金属製造の研究や電解めっきの研究が行われていました。溶融塩とは文字通り溶融した塩の事を言います。例えば塩化ナトリウム(食塩)は、加熱すると803℃で融点になります。その温度を超えると塩化ナトリウムは透明な液体になります。その液体は、ナトリウムイオン(Na⁺)と塩化物イオン(Cl⁻)だけで構成され、水のような溶媒を含んでいません。ですから濃い食塩水よりもはるかに電気を流しやすい液体になります。この中に電極を入れて通電するとカソードでは金属のナトリウムが電析し、アノードでは塩素ガスが発生します。塩の種類を選べば、他の金属も採取できる事になります。ナトリウムのような水溶液から採取できない金属は、多くの場合、溶融塩を用いた電解によって製造されます。
 私が大学院の修士学生の時に溶融塩電解で最初に析出させた金属はアルミニウムでした。アルミニウムは酸化アルミニウム(Al₂O₃)を原料として、1000℃のフッ化物溶融塩中で電解されるホール・エル-法で既に確立されていた技術だったのですが、より低温でアルミニウムを製造するために塩化アルミニウム(AlCl₃)を原料として、塩化物溶融塩中で電解実験を行いました。アルミニウムの融点は660℃なので、750℃の塩化物溶融塩中で電析させると、アルミニウムは直径数mmの球状の液体となって電析し、溶融塩の方が大きな密度だったため、電析アルミニウムは溶融塩の液面に浮上してキラキラ光っていました。少ない量のアルミニウムでしたが感動しました。私はそれ以来、この実験に魅せられて溶融塩の研究を続けています。溶融塩は比較的温度の高い液体ばかりですが、同じようにイオンのみから構成されて、室温で液体状態を保つイオン液体も最近注目されてきています。このイオン液体は、無機塩と有機物を混合させたり、異なる2種類以上の有機物を混合することで構成する事が出来ます。私はこのイオン液体や溶融塩を用いて材料の表面処理や金属のリサイクルに関する研究を行っています。


アルミニウム電解めっきの研究


 アルミニウムの表面には、薄く緻密な酸化物の皮膜が形成されるため、アルミニウムは優れた耐食性を示します。またアルミニウムは資源としても地球上に多く存在するので、非常に魅力的な金属です。イオン液体を使うことで、アルミニウムめっきが室温付近の温度で形成できるようになります。例えば、錆びやすい鉄の表面にアルミニウムめっきを施すと、鉄の強度を持ちながら表面だけアルミニウムと同じ耐食性に優れた表面になります。しかし、アルミニウムを電解によって平滑にめっきする事は、簡単な事ではありません。それは、還元析出するアルミニウムが色々な方向に成長しようとするからです。そこで、成長する先端に吸着するような有機化合物を電解液中に添加すると、成長方向がある程度制御できるようになり、よりフラットな表面が形成される事がわかってきました。写真は、鏡のようなアルミニウムめっきを目指して試作したものです。まだ満足のいく表面ではありませんが、添加する化合物や電解の条件を詳細に調べることで、鏡のような表面を電解めっきで作りたいと思っています。


ナトリウムの電解精製


 現在、電力会社や工場などで使われている日本で独自に開発されたナトリウム-硫黄二次電池があります。もちろん電池の中には金属のナトリウムが入っています。この電池の寿命は15年程度と長いのですが、使用済み電池の中には、多くの金属ナトリウムが含まれているため、安全に処理する必要があります。そしてこの電池の原料になっているナトリウムは、全て輸入に依存しています。私は国内でのナトリウム資源の確保と安全な電池の処理を目的として、使用済み電池の中から回収したナトリウムをイオン液体の電解液の中で電解精製するプロセスを開発しています。写真は電極上に析出する粒状で液体のナトリウムを示しています。この精製されたナトリウムは電池の原料として十分使える純度であることがわかり、電池のみならず他の分野への需要が見込まれつつあります。今後はより多くのナトリウムが連続的に電解精製できる装置を開発したいと思っています。

これから目指すこと


 前述にイオン液体中でアルミニウムイオンを還元して金属アルミニウムにする研究を書きましたが、逆のこともできます。つまり酸化反応を起こす電極に金属アルミニウムを用いて、還元反応が起こる電極と組み合わせるとアルミニウムの電池が構成できます。アルミニウムは酸化されてイオンになるとAl³⁺なので、3つの電子を放出します。つまり、1価のイオンになる金属に比べると3倍の電流を流すことができることになります。したがってアルミニウムを電池材料に用いると高性能な電池ができる可能性があります。もちろんこの電池の中の電解液は、イオン液体を使います。しかし、高性能なアルミニウム電池を構成するのには、解決しなければならない課題がいくつも残っています。私は純度の高いアルミニウムを使って電池を開発するのではなく、これから世の中に多く排出されるスクラップアルミニウムを用いてエネルギーを回収したいと思っています。このような電池が完成すると、スクラップアルミニウムを処理しながら、電池のエネルギーが得られ、環境問題とエネルギー問題の解決に貢献できると考えています。この電池の開発には多くの時間が必要で、様々な実験を繰り返しながら高性能のアルミニウム電池の完成にチャレンジしたいと思っています。

研究室紹介


 研究室では、この他に燃料電池に関する研究や電解めっきの成長過程を原子レベルで観察
する方法も開発しています。
ご興味のある方は、以下のアドレスを参照ください。
http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/CorrLabo/

上田教授の最新のシーズ技術はこちらよりご覧いただけます(2016年研究シーズ集 vol.3掲載)

Update 2016-09-08
北海道大学 TLO通信 創業デスク 北海道大学研究シーズ集 vol.4
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