研究者紹介

【情報通信】 (2015/11/24公開)

◇棟方 渚 助教 大学院情報科学研究科 情報理工学専攻

明日したいと思うこと、明日もしていたいと思うこと


明日したいと思うこと、明日もしていたいと思うこと


私のように、確固たる意志もなく研究者になった人は珍しいかもしれません。

様々な節目で訪れた選択が、今の状況を自然に作り上げてきたように思います。研究の興味も常に変化しており、学部、修士課程、博士課程とそれぞれ所属していた研究室が異なります。また、どの課程においても、就職活動をして、いくつかの民間企業から内定をもらっておりました。
進学も就職もどれも選択肢の一つでしたが、選択の時になりますと、将来のことを考えてみても全くシミュレーションができずに悩みました。また、私はどのようなことでも、自らの体験を持って、良し悪しを判断したい性格でして、調べたり聞いたりして得た情報のみでは、答えを出すことができませんでした。

そのような悩みの中で、博士号を取得し、ついに研究者になるかどうかの選択の時が来てしまいました。
そのとき、ふと自分の直感に従って、「明日したいと思うこと」を考えてみましたら、一番に浮かんできたものが、その時遂行していた研究のことでした。明日したいと思うことを続けることにする、それが私の決断となりました。

博士課程に進学する際、この決断を周囲の人に伝えると、家族や親戚、友人、指導教官までもが驚いておりました。特に心配されたのは、楽観的に進学を選択したこと、男性ばかりの分野であること、婚期が遅れること、博士取得後の就職のこと、研究者として生きることの厳しさ等々でしたが、当の本人である私としては、どれもこれまで考えても仕方のないことだったので、笑ってしまったほどでした。とはいえ、婚期が遅れていることは当たってしまいました(笑)

そして、研究者になった今は、「明日もしていたいと思うこと」を生業にしている、数少ない幸せ者の一人なのではと思っています。
この環境や機会を大切にして、私に出来ること、私にしか出来ないことを模索しながら、研究を進めています。このような経験から、学内では、就職や大学院進学に不安を持つ学生や、研究者になりたいと考える学生たちの相談に乗り、私の経験を伝えることにも力を入れています。
私自身が、現在も挑戦者の一人であることを伝え、研究者に限らず、「明日もしていたいと思うこと」を生業とする仲間が増えるといいなと思い、取り組んでいます。

永遠のテーマである「人間理解」を研究のモチベーションに・・・


私の研究のモチベーションは、「人間理解」にあります。研究や学術の領域に関わらず、人間として生き、生を繋いでいく者として「人間理解」は、永遠のテーマともいえます。時代を超えて、絶えず議論されてきたテーマではありますが、紀元前にまで遡りますと、人間の心と身体に関して、哲学者の興味として議論されてきました。

ヒポクラテスは「心の座は脳にある」と説き、プラトンは「理性や知性は脳、情熱や食欲は脊椎」、アリストテレスは「心の座は心臓にある」と説きました。その後、近世心理学の父と呼ばれるデカルトは人間の身体に属する機能と、精神に属する機能を初めて区別し、「人間の死は霊魂が去ったために起こるのではなく、身体のある部分が破壊されるために起こる」と説きました。

現代でも「人間理解」に関する議論は続いておりますが、人間の心や身体について様々なセンサや計測機器を用いて調査されています。
私の研究においても、人間理解を目的に、人間の心拍や脈波、皮膚温や発汗など、様々な計測器を用いたシステムの開発や評価実験を行っております。

てんかん治療用バイオフィードバックゲームシステム


現在、特に力を入れて取り組んでいる研究は、北海道大学病院と共同で研究している、てんかん治療用バイオフィードバックゲームシステムの開発です。

この研究は、薬では発作をおさえることの出来ない難治性のてんかん患者用のトレーニングゲームを作成し、その効果を検証しています。具体的には、手掌の発汗をコントロールするバイオフィードバックシステムを体験してもらうことで、交感神経系に働きかけ、中枢系で起こるてんかん発作の減少を目指すといったチャレンジングなものです。

これまで体験して下さった患者さんの数はまだ4名ですが、平均で36.9%の発作数の減少がみとめられました。まだまだ症例報告にも満たない数で統計的な議論はできませんが、自身の研究を信じ、しっかりと進めて参りたいと思います。

研究成果を実体験の場へ・・・


バイオフィードバックを使用したトレーニングゲームの研究では、患者さんとの信頼関係を構築することも重要な要素となります。
なぜなら、不安や疑問を抱きながらのトレーニングは、患者さんにとっても大きな負担となりますし、トレーニングの効果にも良い影響をもたらさないからです。

患者さんとの会話は、病気に関するお話が中心ではありますが、日常の出来事や家族のこと、テレビのニュースなどについてもお話することがあります。研究とは関係のない会話の中にも、教わることや気付かされることもあり、研究の進展に大きく貢献することもあります。

このように、研究室という閉じられた空間で開発を行ってきたバイオフィードバックシステムは、医師や実験協力者である患者さん達に触れてもらうことで、(実験の範囲内ではありますが)実際に体験できるシステムとして改良することができました。

これは、ソフトウエアやハードウエアの技術的な向上を目指すだけではなく、使用する現場で、使用する方々の生の声を聞き、実際に使用できるものを開発するといった、現場での経験の重要性を感じることのできた大きな出来事でした。
また、おこがましい思いではありますが、自身の開発したシステムが、患者さんの健康に寄与する可能性があると考えるだけでとても嬉しく思いますし、私自身のライフワークの一つなのだと感じています。

しかし、研究成果は客観的な物理データとして科学的に示さなければなりませんので、そのような喜びや努力の多くは論文にはなりません。
統計的に「効果有り」と示すことが出来るまで、研究者として目指すべきものを見失わずに、一方で患者さんの健康を願う人間的な心や客観的物理データでは示すことのできない部分の努力など、どちらも疎かにならないようバランスをとって進めていければと考えています。

研究室紹介


現在、私の所属するヒューマンコンピュータインタラクション研究室は小野哲雄教授と私の2名で、27名の学生の指導を行っております。
ヒューマノイドロボットと人間のインタラクション研究を中心に、音楽情報処理、生体情報、画像処理、機械学習など、幅広いテーマで研究に取り組んでおります。研究や勉強会など、学生が主体となって進めており、活気のある研究室です。
皆様、是非見学にいらして下さい。
http://chaosweb.complex.eng.hokudai.ac.jp/
北海道大学 TLO通信 創業デスク 北海道大学研究シーズ集 vol.4
食科学プラットフォーム 北海道大学URAステーション 北海道大学 研究者総覧 onちゃん北大事務局