研究者紹介

【その他】 (2016/03/22公開)

◇石黒 侑介 特任准教授 観光学高等研究センター

実社会と世界に開かれた観光研究の実現に向けて


研究者となった経緯・背景


どちらかと言えば学問とは無縁の学生時代を過ごしていましたので、まさか自分でも大学の研究者になるとは思っていませんでした。
20歳を過ぎた頃からスペインやギリシャのサッカーチームの練習に参加するようになり、その合間を縫って旅をするようになったことが、観光学の研究者としての原点です。
21歳の時に所属したメキシコのチームを最後にサッカー選手を引退し、その後、ガイドの見習いをしながらペルーやチリで暮らしました。インカ帝国の首都があったクスコ(ペルー)やモアイ像で知られるイースター島(チリ)にも住んでいたことがあります。

旅人から観光研究者へと歩を進めたきっかけは、大学院時代の研究です。現在の研究フィールドにもなっているメキシコ、ユカタン半島にある世界遺産「チチェン・イツァ遺跡」と周辺コミュニティの開発状況に関する研究を行った際に、同遺跡を訪れる年間160万人以上の観光客が地域の発展に殆ど寄与していないことを認識しました。
観光は地域にどのような影響を与えるのか、そして正の影響を最大化し、負のそれを最小化するには、どのような制度や仕組みが求められるのか。これが私の研究の根本にある問いです。

研究について


観光庁が主要政策として打ち出したことで注目を集めている「デスティネーション・マネジメント・オーガニゼーション」(DMO)を中心とした観光政策が研究テーマです。
日本を訪れる外国人観光客の急増からもその一端がうかがえますが、世界の観光市場は年々確実に拡大し、2020年には年間の延べ人数が100億人を超えると言われています。

インターネットの発達により世界各国、各地域の情報は質量の両面でかつてない水準で入手できるようになり、航空網の拡大はそういった場所が世界中の旅行者の現実的なデスティネーション(旅先)になることを容易にしました。
また世界経済の発展で発展途上国を含む多くの国では海外旅行需要が爆発しつつあります。もはや世界中の殆どの地域がデスティネーションとなり、同時に旅行者を送り出す発地になりつつあるのです。

しかしながら、そういったグローバル・レベルでの観光の爆発の前では、地域の経済、文化、社会はあまりにも脆弱です。
観光が、地域住民の生活の質を向上させ、自然環境を守り、文化を育むと同時に、旅行者が地域に魅了され続ける、言い換えれば、観光を通じて訪れる側と受け入れる側が持続可能な関係性を構築するには、地域の特性や時代背景を踏まえた効果的な制度や仕組みが求められているのです。

こうした背景から、欧米やオセアニアではDMOが地域の観光振興において主体的な役割を担うようになってきていますが、日本を含めたそれ以外の国々では未だ試行錯誤が続いています。私の研究は、行政や民間事業者、地域住民といった多様な主体の連携を促進し、同時にデスティネーションとしての競争力を維持・向上するためのDMOのあり方を主に政策学の視点からとらえようというものです。

地域の観光を真に持続可能なものにするためには、どのような組織が求められているのか。そしてその組織を創り出すためにはどのような政策が必要なのか。国内外の事例をもとに実践的な研究に取り組んでいます。

産学連携・社会貢献に対する思い


観光分野の研究を行う上で、産学連携や実践的な研究を通じた社会貢献は必要不可欠なものです。
実学としての観光は、常に何らかの形で社会に貢献することが、他の学問以上に求められていると思っています。もちろん実践的な研究を支える理論研究も重要ですが、私としてはやはり実証性こそが最も重要であると考えています。

現在も札幌市や美瑛町などの自治体、プロ・スポーツチーム、観光関連メディアや金融機関などの民間事業者をはじめ、観光協会や公益法人等との共同研究など、10件以上の産学連携、地域協働案件に携わっています。今後はこういった取組をグローバルなレベルで推進していきたいと考えています。

これから


2014年にシンクタンクから転職し、大学教員となりました。ですから、まだまだ大学の研究者になりきれていないかもしれません。
しかし、私が目指すのは、観光という一見現代社会の一側面、それも非常にはかないものと捉えられがちな事象を、しっかりと学問として位置づけることであり、実務社会とアカデミアの結節点になれるような観光研究です。
その意味では民間の意識を持ち合わせていることがむしろ重要なのではないかとも考えています。

また、日本の観光研究は長らく欧米の後塵を拝しているというのが世界的な認識でしたが、日本の観光研究の成果が世界に発信されるにつれ、実は分野によっては日本の研究が世界でも最も進んだものの一つであるという声も聞こえてくるようになりました。

実社会と世界に開かれた観光研究。その実現に向け、これからも研究、教育、そして産学連携・地域協働に注力していきたいと思っています。



観光学高等研究センター ホームページ


北海道大学 観光学高等研究センター
http://www.cats.hokudai.ac.jp/

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