研究者紹介

【ライフサイエンス】 (2016/04/21公開)

◇早坂 孝宏 特任講師 大学院保健科学研究院 健康イノベーションセンター

食品中機能性成分の情報を北海道の地から


研究者の道に進んだターニングポイントとは?


幼少期に抱いていた研究者像とは、頭脳明晰かつ強靭な精神力を持つ人物がなるべき職業であり、自分が研究者になるとは全く考えもしませんでした。

高校時代は数学を得意としていたため理系クラスに進み、父親の影響から自動車産業に興味を持っていたため工学の道を選びました。
しかし、真面目に講義に出席していたかというと、そうではありません。受験を終えて自由になって、アルバイトをしていた方が楽しかったのです。そして就きたい職業があったわけでもありません。

そんな中で4年生からの卒業研究の配属先の希望提出を前にして、同居していた祖母が亡くなり人の死というものに強いショックを覚えました。そして学科と提携していた国立の研究機関が老化をテーマとした研究を行っていたことに興味を持ち、そこで卒業研究を行うことにしました。

そこには同じ学科で修士課程2年生の先輩がいて、日頃から研究に限らず様々な話をしていました。その先輩は博士課程へ進んで研究者になることを決めており、研究に対する志が高いのはもちろんのこと、一人の社会人としての言動を常日頃から意識していることを日々の会話の中で教えてくださいました。

それまで将来を見据えずに自由に生きてきた自分にとって、将来を考えるターニングポイントになったと思います。

それからは日々の生活から先輩を見習いつつ卒業研究に取り組みました。そして修士課程へ進んだ頃には、博士課程を経て研究者になることを決意していました。
博士課程へ進むに当たっては、研究テーマが先輩と被ることもあり別の研究室へ移動しました。それまでの計測工学から純粋な生化学へ研究が変わり何も分からないところからのスタートにもかかわらず、新しい研究室では最上級生になってしまい、最初の2年半くらいは本当に苦労しました。

しかし研究者になってからも新しいことを始めるために一から勉強することもありますので、そのような状況を早めに経験できたことは良かったと思っています。
そして晴れて博士号を取得したわけですが、卒業の1ヶ月前まで就職は決まっていませんでした。教授に紹介して頂いた企業から内定を頂いておりましたが、研究職ではなかったこともあり自分としては残念な気持ちを持っていました。

そんな時に研究室の飲み会にたまたま参加していた試薬メーカーの方から研究員の募集があることを教えて頂き、次の日には内定を頂き、晴れて研究者として就職することができました。

組織中の分子を可視化する“イメージング手法”


最初に与えていただいたテーマは新規酵素を発見するという研究です。その酵素を精製するために試料中の分子の重合と脱重合を繰り返す操作がありました。

重合させる際には37℃に設定された部屋、脱重合には4℃と1時間ごとに部屋を行き来し、体温調節機能が崩壊するような苦しい実験をしていました。これは良い結果も出せなかったので苦い思い出の一つです。

そうこうしているうちに研究室で新しいテーマが立ち上がり、組織中の分子を可視化するための新しい技術と専用装置を開発することになりました。
一般的な可視化、いわゆるイメージング手法というのは、抗体などで特定の分子を標識し、それを光らせることによって組織中における分布を明らかにします。

私たちが取り組んだのはイメージング質量分析という手法です。質量分析計を用いて組織中に存在する分子を直接イオン化させ、各点におけるイオン量の違いに対して色の濃淡を付けることによって分布を表します。

イメージング質量分析は既存のイメージング手法と異なり分子標識を必要としないため、一度の測定でイオン化したすべての分子が解析対象となることが利点として挙げられます。
また多段階質量分析という分析手法を適用することによって、そのイオンの分子構造も明らかにすることが可能です。

この手法は浜松医科大学へ研究拠点を移してから大きく発展し、脂質、ペプチド、タンパク質などの検出が可能になりました。また学内の各講座から様々な種類の病理組織が持ち込まれ、大学院生と分析を進めました。

それらの分析結果は次から次へと論文化され、イメージング質量分析の名が国内でも浸透し、他の大学や企業からの共同研究の依頼をたくさんいただきました。
自分が担当していただけでも年間20件ほどはあったと思います。また開発していた専用装置が某社から2013年に正式に製品化され研究として大きな成功を収めることができました。

充実した研究の日々を過ごしていましたが、また新しいことを始めたいという考えがありました。そんな時、現在所属する大学院保健科学研究院の研究室がスタッフを探しているという情報が入りました。

話を聞いたところ、北大にイメージング質量分析をするための最新の装置が導入されることになっており、食と健康をテーマとした研究を進めたいというのです。

食品中の機能性成分をイメージングする研究はほとんど進められてないこともあり、新たなチャレンジとして北海道の地へ移ることを決意しました。

食品中の機能性成分の分析(北海道産食品の分析)


2014年5月に北大へ着任してから現在までに道産食品の分析に取り組んでいます。ハスカップ、米、大豆、かぼちゃの種などに含まれる機能性成分が分析対象です。

これまではヒトや実験動物から摘出した臓器を中心として分析していましたので、イメージング質量分析に必要となる凍結組織切片の作製にも工夫を凝らしています。

試料を特殊な溶液に包埋する方法、断面にテープを貼り付けて構造を壊すことなく切片化させる方法など、浜松医科大学での様々な共同研究を通じて培ってきた経験が役に立っています。

こういった研究を通じて、道内の食産業に貢献できたらと考えています。

人との交流が研究を進める原動力に!


2015年6月からは、研究の拠点をフード&メディカルイノベーション国際拠点に移しています。
この研究室にはイメージング質量分析装置だけでなく、次世代シーケンサー、高分解能LC-MS、高速原子間緑顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡など研究に必要となる高性能な装置が多数揃っている最先端の研究施設です。
新しく建った建物ですので、研究室の立ち上げもゼロからのスタートでした。

今では一通りの研究を行えるくらいまで設備が充実しています。この研究室にはイメージング質量分析に興味を持った3名の学生が研究に参加してくれています。いずれも所属は異なり大学院医学研究科、大学院保健科学院、医学部保健学科から各1名です。

日頃は得られた実験データの解釈や研究の進め方について真剣に議論していますが、研究だけでなく個人としても付き合えるよう定期的に飲み会も開催しています。

これまでを振り返っても人との交流があってこそ研究を進めることができました。これからも学生や他の研究者の方々との交流を深め、さらに研究を発展させることで健康維持に関わる食品中の機能性成分の情報を北海道の地から発信していきたいと考えております。

研究室ホームページ


北海道大学 健康イノベーションセンター
http://www.hs.hokudai.ac.jp/innovation/
北海道大学 TLO通信 創業デスク 北海道大学研究シーズ集 vol.4
食科学プラットフォーム 北海道大学URAステーション 北海道大学 研究者総覧 onちゃん北大事務局