◇対談◇大学発ベンチャーが株式上場するために

※インタビューは取材日時点の情報ですので、内容やリンク先が変わっていることがあります


左から川端機構長、河南代表取締役社長、牧内副機構長


株式会社ジーンテクノサイエンス


  • 代表取締役社長 河南雅成氏


北海道大学産学・地域協働推進機構



「0から新しい薬を生み出す」バイオ新薬と、「先発品と同等又はそれを上回る品質を目指す」バイオシミラーの2事業を柱として医薬品開発に取り組んでいる、株式会社ジーンテクノサイエンス河南社長に、企業再生のノウハウを生かして大学発ベンチャーを上場企業へと引き上げたいきさつをお話いただきました。(2016年10月25日)

北大の施設・技術を活用


川端:ジーンテクノサイエンスと北大との関係はどのようなものか、聞かせていただけますか?

河南:始まりは北大遺制研(遺伝子病制御研究所)の上出教授、小野江教授(現在は、両教授とも退官されています。)の研究を事業化することがキッカケとなり、両教授にも役員として参加して頂き事業をスタートしました。

牧内:北大との関係でいうと、特許の関係と北大ラボの使用を継続していただいているというのがありますね。北大発ベンチャーの中には創業後、北大との関係がなかなかない、という企業もあるのですが、その点についてどのように思われますか?

河南:創薬ベンチャーにとって研究所が必須となります。特にウェットラボ(動物が使える研究所)が必要です。この点において北大発という大学との接点を生かし、現在、動物施設を備える北キャンパスのレンタルラボに入居しています。

創業当初から数年は、自社研究所では動物施設の利用が不便であったことから、上出教授の研究所と連携し遺制研にてウエットな動物試験をこなしていましたので、スムーズな研究を進めるには効率の悪い状況でした。

川端:それはベンチャーにとっては困りますね。


河南:創薬ベンチャーにとって、ある程度使い勝手がいい施設となると、北海道のなかでもなかなか無いですし、自社ですべてを持つにはコストが厳しいです。ですから北大ラボのように「民間の会社が使える施設」というのは非常に珍しく、また、有難いと思います。

川端:ご存じのように大学も変わってきており、いまは国を挙げて「アカデミアのための大学から、社会のための大学へ」となってきています。大学側としては、研究者が持っているノウハウだけではなく、施設設備などを全面的に公開して使ってもらい何かを生み出してもらう。それを大学にうまくフィードバックがかかると新しい研究が生まれたり、遺制研との関係で新しい共同研究へつなげたりする。

そんなことを目指しながらもっと活用してもらいたいと思っています。そういう意味でベンチャーの方で動物施設を使っていただいているのはありがたいです。

動物実験のプラットフォームもまだまだ隙間が空いています。FMI(北海道大学 フード&メディカルイノベーション国際拠点)の上に大きな動物実験施設を作っていますが、若干供給過剰の状態かもしれません。

条件はいろいろあると思うのですが、一般的な問題としてそういう施設を使いたいという企業は多いと思われますか?

河南:そうですね。利用したい企業はあると思いますが、このような企業がどんどん生まれてくる状況にないと、供給過多になるかもしれません。

ベンチャーの経営


河南:私の印象ですが、本当の意味での創薬ベンチャーは減っているような気がします。

かつて2000年前後に多くのバイオベンチャーが創業しましたが、会社を存続できた会社が非常に少ない。結果として、そんなに大変なところに大学の先生が踏み込みたくないという思いがあるのかもしれません。

牧内:いまベンチャーをビジネスサポートする人や、金融ベンチャーキャピタリストなどが熱い視線を送っているという背景があるのですが、経営を担う人材が不足していて平たく言うと「社長がいない」という状態になっていると思います。

河南:そうですね。いい人材は安定した企業に滞留し、リスクのある事をやる人はそれほどいないというのが現状かと思います。さらに、バイオの世界を見ているとわかると思うのですが、一から薬を作るというよりは、世の中の風潮や流行を観ながら受けのいいもの、お金の集めやすいものに流れる傾向が見受けられます。

一時期はiPS細胞への注目から「再生医療をやります」などというのは掴みがいいので、起業したところがありました。
しかし、資金調達に苦労するような創薬分野で、生活をかけてまでやるというのはなかなかできないと思います。

牧内:もう一つ、創薬をやるようなプラットフォーム会社には、勝ち残ってきた会社があり「まだまだこれから」という会社に対して資本提携や買収などをしている。いわゆる勝ち組企業が小さな企業を取り込んでいるような状態に思うのですが。

河南:それもまだ少ないですね。生き残ったバイオベンチャーでは取り込む力はまだ弱いですし、日本の製薬会社では自分たちの研究開発を切り詰めて縮小させ、事業開発部の人達が主に海外へ開発ステージが進んだものを買いに行っています。

結果、早期ステージの研究をしている日本の大学に目を向ける機会は少なくなっています。基礎になればなるほど来ないと思います。

それは、ノーベル賞を受賞された先生方が基礎研究への注目や研究資金の提供を提言されていることからも、大学の基礎研究の現場においても厳しく、決して良い状態ではないということが推察されます。

この流れは、産業構造を薄っぺらにしていくように思うのです。皆が話題の方向へと流れていっている、一種のポピュリズムですね。上場会社の株価もそうです。人気投票のようないわゆる掴みのいい話題のところは、その株価が上がる。

本当に「社会に対して存在が活かされている」「意味がある」という企業に対する評価が低くなるようでは、先々困りますね。金融システムと事業会社との課題なのでしょうね。

牧内:企業価値と、その企業の製品の販売額との差が拡大している感じがしますね。

河南:話題があればいい、という感じですね。それが私は怖いと思います。創薬ベンチャーは、薬を世に出すために起業しているのですから。私どもの会社はバイオシミラーですが、なんとか薬を世の中に出しています。薬価を通じて患者さんにとっての医療費の問題や、国に対する医療費など一部貢献していると思っています。


川端:大手も含めて空洞化が進んでいて、創薬だけではなく、文科省、内閣府のいろいろな会議や経団連などから「何か企画を作って持ってきてほしい」と言われることがあるのですが、マーケットを知らない大学に企画を、というのはおかしいと思うのです。

企業は企画と販売があってはじめてマーケットがわかり、物を作るという世界なので、その心臓部を外に出すとはどういうことだろう、と。

実際大きな企業がそういったことを言っているということは、本当に空洞になっているのです。大半はどこかがなんとなく作ったもののような気がしますが、創薬はさらにひどい状態だと思います。

リスクをとらない、出てきたら食われる感じです。そのわりに基礎研究所は多くの人を抱えていると思うのですがやっていないですね。

河南:公表されているところとそうでないところがありますが、大手の製薬会社も含めて、多くの企業は基礎研究をどんどん削っていると聞いています。

大学の問題点


川端:御社のような会社が、どんどん大学とベンチャー型の会社を連携して日本を変えていくのでないかと思っているのです。そういう方がいたら、つながりやわれわれの体制をどう変えていくか、そういったところも考えたいと思っています。

河南:大学も経営だと思っています。ところが経営という面での「人材」がいない。そこをどうするか、ですね。

その点、ベンチャーも大学も似たようなところがあると思っています。特に地方大学は人の流動性が少ないので、そこを厚くしていかないといけないと思います。

北大はまさにそのど真ん中にいると思います。研究者とそれを支援する人、そして経営をする人を育てないといけない。

研究をやってきたけど経営に関心がある人がいたら、次の世代として育てていく。新しくベンチャーを作らせることも経験としてできる機会を設けるなど、大学の中に新しいシステムをつくる。

経営には、元々の資質が必要だとは思うのですが、それだけでは済まないことで、これは経験を重ねる以外に方法がないのです。修羅場をくぐるという事もそうですが、そういったことは本を読んだだけでは身に着くものではありません。ですから、経営者を育てるということは、取り組ませる側もリスクを覚悟しなければならないのだと思います。

企業再生の経験をベンチャー立ち上げへ活用

河南:私の場合は「企業再生」から入っています。一番初めに勤務した商事会社が、製造会社を買ったのですが、負債も抱えていました。この製造会社に出向したことがすべての始まりで、その後一年間、銀行と丁々発止のやりとりをしながら「再建計画」を作って、債権を圧縮し、返済した、というところからスタートしたのです。


私がよく言うのは「事業計画と再建計画は一緒だ」ということです。何をやるにしても、まっさらからやる場合は事業計画でいいのですが、大学のように既に動いているものの場合は「立て直す」という前提でどうやって行くかを考えることになると思うのです。いま既にある状態をほんの少し変えたとしても、どうにもならないのです。
私がジーンテクノサイエンスに来た時に、受託研究なども受けていたのですが、全部やめてしまいました。創薬も、やらないものはやらない、残すものは残すというように、最小限のものに絞ったのです。

その後、2007年に導出したものが一つできましたが、あともう一つは企業として存続して行くために安定した収益につながると信じてバイオシミラーに取り組みました。ライセンス一本だけでは食べていけない。そうかといって創薬ベンチャーがいきなり化粧品や健康食品に取り組むのではなく、薬の領域で踏ん張るとの思いからできたビジネスの形なわけです。


最近ではバイオシミラーという言葉も良く聞くようになりましたが、当時はまだなじみのない時代です。薬のジャンルの中で何ができるかと考えた時、いわゆる開発リスクは低いが開発費はそれなりにかかる、けれども安定した収益につながるということで着手しました。創薬とバイオシミラーを両輪にし、成長性と安定性を両立させながらやってきたということです。
牧内:集中化、重点化はどういった事に着目したのですか。

河南:マーケティングですね。私がこれまでに製薬会社と付き合ってきた経験から「これなら売れるかな」という肌感覚です。それから私は会社の皆によく「メールだけで終わってはいけない」ということを言っています。

メールを送り「返信がありました」または「返事が来ませんでした」ではなく、少なくとも「電話をかける」そして、できれば「会ってほしい」と伝えます。そこで得られる肌感覚が必ずあるのです。「これならいける」という確信に至ったのはそうした経験の蓄積があるからなのではと思っています。

それは「営業をやってきた時の経験」「製造会社を立て直したという経験」、先ほど副学長がおっしゃっていた「修羅場をくぐってきている」、そういう事だと思います。

メガバンクができる前の事でしたので、銀行との交渉では困難なこともありましたから。


川端:ファンディングなどについてはいかがでしょうか?当時、VCなどが「ファンディングしましょう」という感じではなかったと思うのですが。

河南:2000~2004年ころまでは良かったように思うのですが、リーマンショックに向かって段々と冷えていったような気がします。そのあたりは本当にきつかったですね。

牧内:リーマンショック直前は何が起こるかわからない、という時代でしたね。

河南:まずは、「ここまで進めるためのお金を集める」そして次は「ここまで進むためのお金を集める」・・・というようなファイナンスの進め方でした。今は上場したことと、あとは珍しいことかもしれませんが上場会社のノーリツ鋼機さんと資本業務提携をすることで約30億円の調達ができたので、現時点では、お金の面で一息ついた感じです。

牧内:バイオシミラーとしては現在2つで、これからはラインナップがどんどん増えていくという発展の仕方になるのでしょうか。

河南:2020年まではそれで行こうと思っています。私どもの会社がやっているバイオ医薬品は抗体医薬や生理活性蛋白なので、ターゲットを考えると、今後どんどん品目が増えるかというと、限りがあると思うのです。そうするとジェネリックの薬と同じで大型の数が少なくなる、というのが2020年以降見えてきてしまうのです。

私どもとしてはそこまでは着々とやりますが、次の物の仕込みをしようと思い、第一弾としてノーリツ鋼機さんとの関係で、細胞治療で乳幼児の心臓病の治療を事業化する会社に資本業務提携しました。

そして2020年以降を見据えて、新薬があって、次がバイオシミラー、そして次はこれ、その次はこれ・・・と階段を作っていくように発展させたいと思っています。

北大発ベンチャーとして、大学へのメッセージ


牧内:技術的な事としては、北大にこだわらず世界中にサーチしている状態ではあると思うのですが「北海道発」「産総研発」「北大発」、こういったことが、どこかに残るような気がしますか?

河南:これは今までにも何度かお話したことがあるのですが、大学の情報が入ってこないのです。いま北大で行われている創薬系のネタの話が入ってこなくなっています。創業当時は学内に先生がおられたのですが、先生が退官されたので、そういう面では北大との接点が薄くなってきているかと思っています。

最近では、創薬ベンチャーとしてライラックファーマさんやスカイシーファーマさんがいますが、私たちには、創薬研究の話は聞こえてきません。先ほどあったように余力のあるところが種を拾っているのでは、というお話があるのですが、私たちが知りたいのは、特許にする前の研究段階であり、そこが見えないのです。


牧内:我々の方で特許審査を行っているのですが、秘密にしようという意識が強く、その前にどうしようというところもあり、その間のふるまいが定まっていないのです。先生の判断にお任せしている、そんな状態です。それをストラクチャー的に何かできる事は無いか、と。


河南:難しいとは思いますが、そこをどうにかしないと、共同研究が出来ている先生はいいのですが、それ以外の先生方の話が入ってこなくなってしまいます。

川端:いまお話を聞いて思ったのですが、大学に拠点を置いてもらうという一つのやり方があります。共同研究、産業創出部門などで実施しているものです。

企業の方に客員教授などの称号を付与し、学内の情報が流れ込むようにします。学内の研究室、研究所などを拠点として学内をトローリングしながら探索的な活動をしていただきます。

共同研究については今までは一品もののようになっていて、その人がいなくなったら終わりになることがみられました。そうならないよう裾を広げるための制度です。

ウエットラボを借りていただいていますし、カウンターの先生を明確にするなどして、これからもポジティブフィードバックがかかるように進められればと思っています。

河南:例えば、札幌医科大学は単科大学なので各先生が何をしているのかが、すごくわかりやすいのです。という事は、私たちに関心があればアプローチしやすい環境にあるということになります。


川端:私たちの産業創出部門制度というのは、コーディネーターのような人間が、色々なキーワードをもとに紹介していく。北大の特徴は病院です。北大病院をパートナーに入れ、病院の中のマーケティングの部分にも、と考えています。

わりと北大は敷居が低く産連が関わりやすいと思うのです。他大学では産連が関わるのが難しいようですが、北大病院だけは、ここ3~4年で大きく変わったところなので活用の仕方があると思っています。

河南:私どもの会社に関わられたお二人の先生も医師でした。患者さんを診ている医師、医師の感じる「患者さんの現象をつかまえる力」というのは、もしかしたら薬につながりやすいのではないか、と。

川端:我々もそう思い、病院と創薬を繋いだのです。最近はパイプラインというのですが、トランスレーショナルリサーチなど、病院長がわれわれと同じ目線で動いてくれますので非常にいい関係で進んでいると思います。

河南:例えば、最近ではリポジショニングと言いますが、既にある薬を違う効能に転用できないかという考え方で、発想はシンプルなのですが、医療現場で起きている患者さんの反応を感じ取る意味で非常に大事なことです。

新薬においても、何か現象が起きた場合に「それは何か因果関係があるよね」というような肌感覚でつかんだ先生の情報を研究してみる。それが実は本来の創薬の種なのではないか、と思っています。


大学へのメッセージというか、難しいことかと思うのですが、大学から起業するときに「会社」をつくることはできると思うのです。その後も「会社を存続させていく」、「継続的に社員も含めて雇っていく」という責任を持ちつづけることに腹をくくってやってほしいと思います。

勢いだけで作って「先どうするの?」というのは、ちょっとどうでしょうか。
人によってはそれでもいいのかもしれませんが、創業しようと思っている人たちには、その辺の気概を持ってやっていただければと思っています。

牧内:今まで北大は、ベンチャーに対して連絡手段すら持っていなかったのです。しかし今回は認定した人達と共に何かをするツールとしてこの対談を続けたいと思っています。

産総研や遺制研の先生などともこういった事をしていると思いますが、これからも接触する機会をつくり続けられたら、と思っています。


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