◇対談◇「アカデミア創薬ベンチャー~大学に勤務しながら独立起業~」

※インタビューは取材日時点の情報ですので、内容やリンク先が変わっていることがあります


左から牧内副機構長、須佐太樹社長、川端機構長


ライラックファーマ株式会社


  • 代表取締役社長 須佐太樹


北海道大学産学・地域協働推進機構



今年6月ライラックファーマ株式会社を立ち上げ代表取締役となった須佐社長に、大学勤務から独立起業する事となった経緯や決め手、アカデミア創薬ベンチャーとしての展開をお話いただきました。(2016年12月8日)

起業までの経緯


須佐:私が北大とのご縁をいただいたのは2005年に当時の知的財産本部に就職してからです。大学院博士課程在籍時から将来研究者ではなくビジネスの道を進むことを決めておりましたので、北大では日頃の業務をこなしながら知財を軸にしたビジネスの勉強をしようと考えていました。また赴任当初、北大での任期は3年と言われていたので、任期中に良さそうな大学の研究シーズを見つけて起業することも将来の選択肢に入れていました。

実際のところは、仕事を続けていくうちに技術移転の仕事の奥深さにはまり、また研究成果有体物の売買など大学にいながら商売に近いことなども手掛けるようになり、さらに任期も当初3年という話から終身雇用に切り替わったので、トータルで約11年職員としてお世話になりました。

一方でその11年間に起業の選択肢も捨てておらず、北大で知財管理や技術移転の仕事をする中で何度か起業の場面に遭遇し、その都度、自らもそちらの道へ進むことを真剣に考えました。しかし実際には北大に残る選択をしてきました。

私が過去に様々なケースを見て、また実際に経験して、起業にあたり大切と感じていたことは「メンバー構成(チームビルディング)」でした。また学生生活が終わって雇われの身で仕事を始めてからずっと「雇われる側(サラリーマン)より雇う側(経営者)の方が、夢がある」と感じており、従って起業するからには私自身が代表となることを前提として考えていました。これまでのケースでは、残念ながらこれらを満たしていませんでした。

そのような状況の中で、今回の会社設立に関わったメンバーと知り合い、このメンバーならば、と考えて現在に至っています。

今回設立した新薬開発の会社はアカデミア創薬(大学の研究成果を元にした創薬)の促進を目標にしています。従って、創薬シーズの源である北大の協力を継続して得ながら会社を運営していきたいと考えています。完全にスピンアウトして大学と無関係になることは現時点で想定していません。現在の形態をアカデミア創薬ベンチャーのロールモデルにしたいと思っています。

起業の決め手

川端:現在はコンサルティングが主なのですか?創薬の開発はとても時間とお金がかかりますし、経費はどのように確保されているのでしょう。


須佐: 目先の現金収入、いわゆる日銭稼ぎという観点ではコンサルティング業務の方がメインになりますが、本業としては新薬開発になります。我々のビジネスは新薬開発の初期段階である医薬候補化合物の創製と非臨床試験を大学の協力を得ながら自社で行い、その医薬候補化合物の製品化権利(特許権)を大手製薬企業等に売却することで収入を得るモデルですが、開発着手〜売却まで通常は数億円の研究開発費と3〜5年程度の研究開発期間が必要になりますので、その間は公的資金やベンチャーキャピタル(VC)からその資金を調達します。

VCから資金調達した場合、VCは投資先の株式を高値で売却することをビジネスとしていますので、ベンチャーとしてはVC保有株が高値で他者に売れるように株式上場や他社への会社売却を次に目指すことになります。一方で株式上場等を行えば自社株で新たな資金調達が可能になりますので、そこで得た資金で次の新薬開発をする、というのが王道です。

川端:資金調達の面ではNEDOの支援があると思うのですがどの様な状況でしょうか。


須佐:NEDOについてはスタートアップイノベーターという創業支援事業に採択されまして、現在パーキンソン病治療薬の非臨床試験(動物実験)を実施しています。

薬効の確認は最初マウスやラットで行い、問題が無ければヒトに近い大動物での試験へと移行します。大動物での試験は費用がとてもかかるのですが、将来的に大手製薬会社と共同研究できるようになれば製薬会社の設備で試験ができる場合もあるので費用負担軽減になります。

非臨床試験の費用は総額で数億円の単位となるので、大手製薬会社との共同研究で賄えない分はVCから資金調達する計画を立てています。

川端:そのスキームで進めた場合の資金的な部分について、感覚的にはどうでしょうか?起業したばかりの時期は順風満帆とは行かないことが数多くあると思うのですが、それらを乗り越えながら進んでいくように思います。どの様な形の障害があるのか、または大学を使うことで回避できることがあるのでしょうか?

須佐:新薬開発ビジネスは特許が命なのですが、目先の障害はその特許費用の捻出です。医薬の場合、40カ国くらいに特許を出すのですが、特許制度として、初めに特許出願した日から2年半くらいでそのタイミングがやってきます。

特許費用は一千万円くらいかかりますがNEDO 等の国の補助金からは特許費用の捻出が難しい場合があります。しかし。いま特許にお金をかけて取らないと、将来良い物が出来た時にマーケットを特許で独占できないため、開発品の価値が無くなります。そのお金を創業初期の今どうやって集めるのか、ということになりますが、大学で当面の費用負担をしていただけると助かります。




川端:成功したその段階から製薬会社と組むことはできないのですか?

須佐:それを意図してアライアンスを組み、それを根拠にしてVCのところへ話を持って行く計画になります。幸いにも私は北大で産学連携業務に従事し、ライセンス業務に取り組んできていましたのでその経験を活かせます。

牧内:経営、起業する決め手となったのは「人」がそろった、という事になるのでしょうか?

須佐:そうですね、他にも要因はありますが一番の決め手は人がそろったということです。

川端:なるほど、それが大学を辞めるタイミングとなったのですね。

須佐:人以外の要件では、例えば起業に必要な権利関係のクリアランスができていないケースや、会社として必要な売り上げを見込むのが難しいと思われたケースもありました。元々自分の会社を持っていて、その上で更に社会貢献的にということであれば可能かもしれないのですが、自分で一から会社を立ち上げるには厳しい条件ではあります。

万が一この会社が続けられなくなったとしても、大きな財産として、メンバーとの関係がある、残っていくと思います。大学のシーズを世の中に出していく、このことは自分にとってのひとつのライフワークとして、取り組もうと思っています。私個人に至らないところは多くあると思うのですが、それらを恐れずにやっていきたい、そう思っています。

ベンチャーという開発手法を選んだ理由

牧内:たとえばパーキンソンの治療薬の開発をし、販売するとした場合、その最善策が「会社をつくるのが良い選択」かどうか、というエバリューションについてですが、それについては?


須佐:ベンチャーでの新薬開発はこの業界における王道と思います。大学だけで研究開発して、大手の製薬会社にその研究開発成果を買ってもらうことは一般に難しいと思います。

牧内:資金面での質問になるのですが、大学で開発していく方がNEDOやJSTなどを利用した資金を得やすいように思うのです。たとえば、他のベンチャーに属しながら治療薬の開発、ステップアップをして資金を調達するということを選択しなかった理由は何でしょうか?

須佐:自分自身が進めたい研究開発を他のベンチャーに所属して進めるという考えはありませんでした。基礎研究としてステージアップしていくとしても、やはり私は信頼関係が大切だと考えています。ある日突然その関係が途切れたりしないような関係を築くことが重要だと思っています。そういったことからこの場合の最善策は自分が起業することと考えています。


アメリカでは研究した結果、良いものができたとすると多くの研究者がスピンアウトして会社を設立していますね。スピンアウトすることは、自分の研究と信頼している仲間、そしてその条件のもとに立ち上げたチームがベストだからこそ、だと思うのです。

大学のシーズを薬につなげようと思った場合、大学と大手企業との間にベンチャーがあります。アメリカではそれが完成しており、投資する仕組みもできている、いわゆる創薬エコシステムのようなものが完成しているのです。

牧内:パイプラインのラインナップを揃えようとしているベンチャーもありますので、資金獲得のためにも、大学がそのパイプラインに乗った方が良いように思うのです。

NEDOやJSTの資金のなかには、大学であってもベンチャーに絡めなければ獲得できないものもあるからベンチャーをつくる、ここ二年間はそういった流れも散見しました。その部分をターゲットにするのであれば自分でベンチャーを作らずに、社長としてふさわしい、適切な人を置いたベンチャーに参加する形も選択には無かったのでしょうか。

須佐:適切な人を、と思うのですが、なかなかいないのではないでしょうか。また、それを進めてきた研究者が、その研究については一番強いのです。自分が取り組んできた研究テーマであるからこそ、それを育てたい、そう思うのではないでしょうか。

その次にあるのは人柄を含めて研究成果や信じられる人かどうか、ということですね。その部分を他から輸入して担ってもらうということ、外部から経営者を調達するということなどは会社のステージがある程度進んできた場合、可能だと思うのですが、シーズから芽吹き始めた時期にはとても慎重に進めなければならないと考えています。

大学に期待すること

牧内:会社を作るときに成功するために必要な、大学の関わり方やその秘訣、大学に期待することなど、何かありますか?


須佐:さまざまな条件があると思いますが、大学でしかできないこととして、研究の質を上げていただきたいです。特に新薬の開発では研究の質が高いこと、これが条件的に必須だと思います。根本的な問題として、企業は大学に良質なシーズ、研究成果を求めていると思うのです。

川端:シーズが良質であるということ、これには二つありますね。

ひとつはレベルの高さ「できたときにどこまでインパクトがあるか」というレベルですね。少し変えただけではないものです。これは上げれば上げるほど遠くなり、低ければ低いほど類似品となる。だからといって上げ続けると「いつ、ものになるのだろう」ということになってしまいますね。

もう一つは、磨いて良質にする、ということですね。そのもの自体はそうでもなかったとしても、違う方向で磨き上げて研究に結果を出し、別の方向に持って行くことで他の活用につなげられることなどもあります。それぞれの会社のターゲットはどこか、などの議論も大切ですね。

須佐:医薬はレベルの高さが重要視されます。横軸の磨くことは企業が取り組みますので、企業が大学に求めるシーズ、研究成果はレベルの高さだと思います。Wowと感じるようなデータを求めています。具体的には「創薬ターゲット(標的)」ですね。新しい標的が見つかればあとはそれに対してどの様な薬を作るのかはそれぞれの会社の戦略となります。

川端:ターゲットの解析を自分で解析しようとした場合は無限に近くなると思いますので、そこは大学の研究を利用し、その中から見つけるイメージですね。

須佐:先生の中には創薬に必要なスキルやノウハウを持っている方がいます。私たちベンチャーにとって必要なことをそろえている先生とともに研究することは、効率よく研究を進められる方法のひとつだと思います。


自分たちベンチャーが「物」を作り、評価は大学にやってもらい、知財は一緒に、というのが一番理想的なのではないかと思います。大学との関係を密にすることが、ベンチャーにとって、自分たちの研究がどこにどう繋がっているのかわからない、そういった物事に対して進めるためのサポートになるのだと思います。

川端:本日はありがとうございました。



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