◇対談◇ 「高性能なクリーン環境を形成  ~新しい閉鎖系清浄環境を住環境にも導入~」

※インタビューは取材日時点の情報ですので、内容やリンク先が変わっていることがあります


左から川端機構長、石橋取締役、松田代表取締役、牧内副機構長


シーズテック株式会社


  • 取締役 電子科学研究所 教授 石橋 晃


飛栄建設株式会社


  • 代表取締役 松田 順治


北海道大学産学・地域協働推進機構


新型閉鎖系清浄環境/クリーンユニットシステムプラットフォーム(CUSP:カスプ)を通じて 、「Clean space for all of us」の理念の下、高清浄環境を研究機関、福祉施設・病院、マンション・一般住宅へ提供する端緒を拓いた北海道大学 電子科学研究所 石橋 晃教授と、システムの実証実験や様々な技術の開発・発展に取り組んでいる飛栄建設株式会社 松田順治社長にお話しを伺いました。(2017年1月12日)

技術と創業


石橋:2003年1月13日に着任して以来13年強、北大で研究しています。以前はSONYの中央研究所で青色半導体レーザーの研究開発にたずさわっていました。その後、北大に着任し、現在に至っています。

半導体レーザーの劣化を解析する中からヒントを得て、「トップダウンとボトムアップをつなぐ」ということをドライビングフォースとして、半導体物理をベースに電子科学研究所にて研究を推進しています。

トップダウン系とボトムアップ系をつなぐことを目指すと、現時点両系ではプロセシングにおける要求清浄度が異なっているので、自前による高性能でクリーンな環境形成が必須条件となり、必要な清浄環境をコンパクトにかつ廉価に作るということも進めてきました。

その方向性の中で、Clean Unit System Platform (CUSP)を開発するに至ったのですが、通常のクリーンルームやクリーンブースではファンフィルターユニット(FFU)によって外気をろ過して、清浄な空気をクリーンにしたい空間の中に導入していますが、実はこのFFUは、当該空間中の塵埃、ゴミは一切取っていません。濾過した外気で内部の空気を薄め、それを外界に排気することで内部をクリーンにしているのです。その場合、外界は無限の空間なのでFFUは常に目詰まりし続け、1~2年で交換が必要になります。

もう一つの再来系の欠点は、塵埃・ごみを含む空気を外に排出しますので、周囲に迷惑がかかってしまうことです。中はきれいでも、排気を被る周りの人には迷惑ですね。さらにバイオ系の場合は、微生物や菌も周りに排出されてしまうと問題が出る事にもなります。ということで考えたのが、排気を全部戻すシステムです。

このシステムの良いところとしては、FFUに取り込む空気は「外気」ではなく「内気」であり、取り込み先の空間(=部屋内部)は有限体積であり、すぐに塵埃粒子数密度が低減し、落ち着いてきます。数分~10分の内に内部の清浄度は外界の千分の一、万分の一になりますので、これを取りこむFFUのフィルターは、殆ど目詰まりせず、在来システムのFFUに比べ1000年1万倍、年数にすると千年、万年持つ計算になります。また、内気を外界に排出しないので、周りに迷惑をかけないという大きなメリットを有するシステムなのです。

トップダウンとボトムアップをつなぐためのプラットフォームとして開発したCUSPの初期タイプであるグローブボックス型は、もともと人が入る事を想定していなかったのですが、このシステムを展示していたところ「人が入りたい」、「クリーンルームをこれで代替したい」という要望があったのです。

このシステムは孤立系であるので、内部に人が入り活動すると、そのままでは酸素が減り、二酸化炭素が増えます。


内部で活動するには、それを「どうするか」という事が出てきますね。在来型クリーンルームは、FFUを経て外気を導入し、その後、内部空気を排出する解放系であるので、酸素導入と二酸化炭素排出は自動的に解決します。ですが、FFUから出て来る空気を100%当該FFUのインプットとして戻す閉鎖系を形成するCUSPシステムでは、中にいる人へ如何にして酸素を供給し、また不要な二酸化炭素の排気をどうするかが重要になるのです。

既に飛栄建設 松田社長のご自宅に実証実験として作っているのですが、壁の一部として、日本古来の平安時代からある「障子紙」を利用することにしたのです。障子は平安時代の後期から、7~800年の歴史があるものですね。昔は「明かり取り」として適度に光を取り入れながら、湿気も適度に外界と交換するという高温多湿の日本でも快適な生活を送るための物です。効率的に水蒸気成分が障子紙を透過しうるわけです。

日本人の、その古来の生活様式で練炭、火鉢にあたっても人が死ななかったというのは、立てつけが悪かったという事もあると思うのですが、障子紙のもつ「気体分子透過性」の効果も非常に大きかったのだと思うのです。

吉田兼好の「夏をもって旨とすべし…」、障子紙は吸湿性水分の除去、水蒸気も酸素の供給状態が良好でなければ快適ではないという意味ですね。そこで、密閉した壁の一部を障子紙にすることで、ガス交換能力を持つもので置き換える。

そうすると、中で酸素が減れば、濃度勾配により拡散が生じて酸素を供給し、二酸化炭素が増えれば、同じく濃度勾配によって、内から外へ排出する。ガス分子のやり取りは、当該気体分子の拡散で行います。通常クリーンルームでは、上述の通り、正味の気流を入れ、部屋内気と混合して、外へ排出することで気体濃度を維持しています。献血に例えると、在来システムは「全血献血」であり、CUSPは必要な成分だけやりとりする「成分献血」と考えていただければ理解しやすいかと思います。体に負担のかからないのは、成分献血であることはよく知られていますね。CUSP系は従来系に比べ、長持ちさせやすいということにつながっています。

日本古来の技術「障子紙」を使用することで、酸素と二酸化炭素の濃度を各々ある一定値に維持することが可能になり、同時に内部の清浄度が良く、このシステムの中で生活する人にとっても快適なのです。フィルターの目詰まりもきわめて小さくできランニングコストを抑制することができます。


このシステムは「スーパークリーンルーム」の機能を凌駕する「パーソナルクリーンスペース」とすることも可能です。研究室で進めています新型太陽電池や次世代デバイス作製環境に用いて好適ですが、それにとどまらず、一般の生活環境にも導入できるので、その意義は大変大きいと思います。

安定したクリーン環境を以って、半導体デバイス作製のみならず、医療・介護環境や家庭住環境としても導入するための開発・展開をしていきたいと思っています。空気中の塵埃、ゴミが無いということは、浮遊する菌が無い、ということにもなるので、バイオ・医療系でもこのシステムを利用するとした場合、無菌室としての活用がありますね。

特許と普及

川端:特許については、どのようになっているのですか?

石橋:最初の特許を北大から出しています。中国でも成立しています。今後は低消費電力でモバイルに使えるようにした、「クリーン環境のモバイル化」を目指しています。パソコンが個人で使用することがあたりまえになってきたように、この空気清浄空間もパーソナルユースが出来るようになることは非常に有意義だと考えています。

「障子」の機能に学ぶことで、CUSPによるクリーン空間に人が滞在できるようになると述べましたが、先述のパーソナルユースCUSPは、テントのような形をしていますが、日本のもう一つの伝統としての蚊帳を発展させたものと理解することも可能です。平安時代からの障子と、古来の蚊帳のコンセプトをCUSPは、現代技術により、無菌・無塵空間としてよみがえらせています。

川端:ITのバイオ版と言った方がわかり易いかもしれませんね。

石橋:脳と相性の良いITに、現在、振れて行っている“振り子”を、引き戻すのではなく(振幅が小さくなってしまう)、むしろ、振り子がいきつくところまで行って、まさに戻らんとするその刹那に、体の復権というところからCUSP清浄環境をプッシュすることで、振り子は、更に勢いを増し、結果としてその振幅を大きくすることができて、トータルな人類への貢献が高まると考えています。

牧内:このシステムが現在あるものと置き換えられると良いように思うのですが、そうなってきていないのにはどういった事が考えられると思いますか?


松田:「このクリーンシステムがとても良いものだ」という事がまだ世間に知られていないという事ではないのかと思います。あまり告知されていないのかもしれないので、今後は重点的に取り組んでいこうと思っています。

牧内:情報発信はしていますね。クリーンルーム利用業界には学会発表や、論文発表をして知らせる機会があると思いますが。専門家が反応していないのはなぜか?ということになりますね。

石橋:青色レーザーの劣化というところから行っていますので、発表する学会の分野が異なっているのかもしれないですね。

川端:蚊帳の素材は何でもいいのでしょうか。

石橋:紙漉きのような手法で作った目の細かいものであれば基本的にOKです。当該膜は、固有のガス分子の拡散乗数を持ちますが、これと膜の面積と厚みから決まる、通常システムの喚気能力に相当する量を出すことができますので、ここから部屋の構造を設計できます。これがそのまま、特許の内容となっています。

川端:原理特許ですね。ということは素材、膜は何でもいい。とにかく膜からゴミが出ない、ということになりますね。普及させるための工夫も必要だと思います。

石橋:北大発ベンチャーの称号もいただけたことを、様々な面で活かしながら、さらに発展させていきたいと考えています。

牧内:その北大発ベンチャーの認定から数カ月たちましたが、その間、これが引き金になったピッチやベンチャーイベントに参加されたと思いますが、それが新しい切り口、ビジネスチャンス、新分野への開拓になっていますか?

石橋:展示会には出してはいましたが、それまでは機会が多くありませんでした。CUSPの最新版に関しては、露出の機会はまだそれほどありませんが、これから積極的に増やして行きたいと考えています。

活用分野の拡大


牧内:バイオと半導体の研究、産業を混在させなければいけない、となるとターゲットが変わった、ということになりますか?

石橋:ターゲットが変わったという事ではありませんが、産業応用・医療、民生分野への応用は今後も進めて行きたいと思っています。まずは、その中からできてきたものはもっとニッチな分野で、という考えも持っています。

今後、松田社長が学習塾への活用も考えているという事です。

これは非常に面白い取り組みで、生徒さんたちが、お昼ご飯を食べると午後の授業では眠くなりますね、それを軽減するかもしれない可能性を秘めています。

これには2つ理由があります。食事により頭より胃袋の方に血液が集中するから、ということの他に、二酸化炭素の量が関係しているようなのです。

学校の場合は人が多いため、二酸化炭素の量が通常数値よりも高くなりやすいのです。
これは実際に、ある高校で二酸化炭素濃度を測ったところかなり高かったという報告もあります。この、「二酸化炭素濃度が高い」ということは人体にとって好ましくない状況なので、脳から「あまり動かないようにしなさい、活動を控えましょう!」という非活性化の指令が出て、これが眠いと感覚を強める方向に働いている可能性があるようです。

そういったことから、CUSPを備えるガス交換膜を多数枚積層化して、ガス交換能力を向上させたガス交換ユニット(GEU)も開発していますので、これを例えば、学校の教室の天井に設置して、二酸化炭素上昇を抑えることで、昼食後の居眠り防止に効果があるか試みようと思っています。

川端:給気側の温度について制限はありますか?それと、道内の建築基準法では外気交換システムの設置が義務付けられていて、空気は必ず循環していることになりますが、その場合は?

石橋:温度に関しては、冬場寒い北海道では、戸外から直接とりいれるのではなく、廊下や天井裏など屋内のスペースから、部屋へ導入することで十分対応できると考えています。このシステムの吸気は同じ空間から吸気する事になります。ですから、ほぼ同じ温度の空気を取り入れることになります。24時間換気の方は、むしろこれを積極的に利用して、先述のGEUを、24時間換気用のダクトにとりつけることで、既存技術と親和性高くCUSP清浄環境を実現できると考えています。

松田:建物の見た目を変えることなく、既存の住宅に「クリーンルーム」を取り入れることが可能なのです。

石橋:特に、コンパクトな箱型の空気清浄システムもあり、通常の換気システムのフィルターを置き換えしつらえることで普通の部屋を「クリーンルーム」にグレードアップできます。GEU内部で部屋の内気と外界からの外気は、ガス交換膜に沿って流れ、膜の両側に濃度差があると拡散により気体分子がやり取りされるのみで、膜を横切る空気流はありません。ですからガス交換膜は基本的に目詰まりしないのです。


川端:拡散部分だけなのですね、なるほど濃度勾配による「詰まらないフィルター」ですね。

牧内:当初は半導体レベルのクリーンルームで何かをやるか、特殊環境における研究に向けて、そこに商機を見出していたけれどもこの10年くらいの間で「健康の方に商機があるのではないか」、「ターゲットが移った」ということになるのでしょうか?

石橋:そうですね。

牧内:今は研究装置の世界が無いと思われている、という事ですね。

石橋:新しい技術なので、レッドオーシャンではなく、ブルーオーシャンで伸びてゆきたいと考えています。私たちは、このCUSPシステムをウォシュレットの「クリーン版」に例えています。

先述のテント式のCUSPは、無菌・無塵で肺・呼吸器にも良いはずですので、その方面でも効果があるはずですが、そこを前面には出さず、「きれいな空間で気持ち良く過ごせますよ」と、いわゆる高級な寝具(蚊帳)として皆さんに使っていただければと思っています。

松田:今後は、介護などの方面にも進出していきたいと考えています。

牧内:この清浄環境の有効性、健康にいい、と言うのはどの分野のものになるのでしょうか?医療ではないですね、病気を治そう、ということとは別になると思います。
何かのレギュレーションのような、労働安全衛生法のようなもの、例えばその環境の中で元気に働く、動くため、などでしょうか。

松田:予防医学補助という意味合いになるのでしょうか、健康な体を維持する・つくる、というような活用の仕方になると思います。例えば、術後の養生など回復期の免疫力が弱っている時期などに活用されることを期待しています。

石橋:例えば、私がこの技術の開発のため、実際に使用継続している蚊帳の進化系「折り畳みCUSP」、このクリーンルームでは、1立方フィート当たりのダストが数十万からおよそ10分後には100レベルになります。バックグラウンドが低いので、そこでの体動が、塵の増加として観測できます。つまり、非接触・非侵襲にて、睡眠情報を得ることができるのです。これを遠隔モニタリングに活用できることが実証されつつあります。

Kinetosomnoguram(キネトソムノグラム:KSG)と名付け、日本医科大と共同研究を進めています。寝返りが多い場合は「熟睡していない」ことを示しており、レム睡眠、ノンレム睡眠をデータでみる事ができるので「睡眠クオリティの向上」を図れると考えています。更には、異常を検知した際に、人がきちんと駆けつけてくれるサービスにも応用できるのではないかと期待しています。

牧内:そういったサービスは多様化していて、その中からこのシステムを利用してもらうということは難しさがありますね。


石橋:ベースに清浄環境による肺・呼吸器のリフレッシュ効果がありますので、上記のサービスは、更にその上に提供されるという強みがあります。競合する技術は、清浄環境由来のメリットは備えて居ないと思います。この「CUSPクリーンシステム」が優れているのは、通常の1万分の一の塵埃密度なので、消化器系の週末プチ断食のように、毎晩、自宅で就寝時に呼吸器系の「クリーニング(断塵)」ができることにあります。

肺はデッドスペースの換気も含めても約2時間で内部空気が入れ替わるようです。ということは睡眠時間を約8時間とすると、CUSPの中で眠る間に、約4回肺の空気が入れ替わりますが、それを塵埃密度が通常の1万分の一の非常にきれいな空気の下で行えますので、時間を追うごとに肺や呼吸器がリフレッシュされると考えています。

牧内:最後になりますが、大学発ベンチャーとなった御社の発展に関して、大学は何ができるか、などがありましたらお聞かせ願えますか?

石橋:ITでできる事と、体のリフレッシュとをつなぎたいと思っています。先述の振り子の例えでいえば、振り子の振幅が大きくなり、発展・拡大していくイメージです。 IT情報とBODY情報をつなぎ、それらを活用したビジネスに展開させることが出来ればと思っています。

北海道大学は総合大学なので、さまざまな知の集約があります。それをインフラとして先端分野と連携し、人材やネットワークを拡げながらビジネスを展開していきたいですね。



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