研究者紹介

【その他】 (2017/03/27公開)

能村 貴宏 准教授 大学院工学研究院附属エネルギー・マテリアル融合領域研究センター

エネルギー問題の解決に情熱をそそいで


プロ野球選手 ⇒ 研究者へ


私には様々な「将来の夢、目標」がありました。
小学生の時、私はプロ野球選手になりたかった。
中学生の時、宇宙飛行士になりたかった。(あと、彼女が欲しかった。これは将来の夢ではないかもしれませんが、男子校に通っていた私にとってはまさに将来の夢でした。)
高校生の時、宇宙物理学者になりたかった。誰も知らないことを知りたかった。物理の点数はそれほど良くなかった。さらによくよく考えてみたところ、宇宙よりも自分の生きている地球を知りたいと思うようになりました。

大学に入りたての時、歴史学者になりたかった。すでに材料工学科に進んでいましたが、本気で歴史書を読みました。しかし、誰かが到達したことを明らかにするより、何か新しい発見、開発をし、世界を変えたいと改めて志すようになりました。
大学4年生のとき、研究室に配属されました。「博士課程に進学し、研究者になる」と、指導教授(秋山友宏教授)に真っ先に宣言しました。

改めて・・・私には人生の様々な時点で、様々な「将来の夢、目標」があったようです。その夢、目標を更新するたびに自分に向き合い、考え、ビジョンを構築することを積み重ねてきたような気がします。つまり自分の可能性を研究してきた・・これが研究者を志すことに繋がったのかな、と今は思います。
「工学 = 考学」ですね!


蓄熱技術の革新を目指して


熱を貯める「蓄熱技術」を革新することが、私のメインテーマです。

エネルギー問題の解決は人類にとって重大な課題です。特に純国産エネルギーに乏しい日本では、省エネルギー化促進による化石燃料消費量の削減、及び新エネルギー利用技術の導入促進が、逼迫の課題であることは明らかです。これらのエネルギー利用技術の効率向上の鍵となるのが、エネルギーの需要と供給の時間的、空間的ミスマッチを解消する、エネルギー貯蔵技術です。

エネルギー貯蔵技術として、化学エネルギーとして貯める電池や水素、及び位置エネルギーとして貯めるダムなどがありますが、膨大に発生し、かつ各種エネルギーシステムの入力のプラットフォームである「熱」として貯める「蓄熱技術」は特に注目されています。

身近な蓄熱技術として、物質の比熱と温度差を利用する顕熱蓄熱技術があります。例えば、家庭用の温水器(水の液体顕熱として蓄熱)や、産業用の熱風炉(レンガの固体顕熱として蓄熱)などが有名です。特に、産業における高温プロセスで利用可能な蓄熱技術は現状、固体顕熱蓄熱技術しかなく、現代産業の根幹技術の一つと言っても過言ではありません。一方、顕熱蓄熱技術は蓄熱容量が低いことが、次世代のエネルギー利用技術において大きな問題となっています。


そこで我々の研究グループは、新たな蓄熱技術として「潜熱蓄熱技術」に着目した研究を進めています。潜熱蓄熱技術とは物質の固液相変化潜熱を利用する蓄熱法です。この蓄熱に使う物質のことを潜熱蓄熱材料又は、相変化物質(PCM: Phase Change Material)などと呼びます。図1は潜熱蓄熱における蓄放熱原理です。PCMの融解潜熱で蓄熱し(固体から液体への相変化)、凝固潜熱(液体から固体への相変化)で放熱します。

この極めてシンプルな蓄放熱原理から、潜熱蓄熱には2つの重要な特徴が生まれます。一つ目は顕熱蓄熱と比べてはるかに高密度に蓄熱ができることです。図1では顕熱蓄熱材として水と、代表的なPCMである酢酸ナトリウム酸水和物(融点58˚C、潜熱量264 J g-1)の蓄熱容量を比較しています。比熱を一定としたとき、水の蓄熱容量は温度対して比例して増加しますが、PCMの蓄熱容量は融点において潜熱の効果で急激に増加します。この潜熱のおかげで、PCMは顕熱蓄熱に対して、数倍の蓄熱容量をもつことができます。

第二の特徴は、融点(凝固点)一定温度での熱源となりうる点です。例えば、産業廃熱や太陽熱を回収することを考えたとき、これらは変動する不安定な熱源なので、利用が困難です。これらの変動熱源をPCMに蓄熱すると、融点(凝固点)一定温度の極めて使いやすい熱源に変換することができます。さらに、出力側の用途に応じた作動温度を持つPCMを選定することで、様々な分野への応用が可能となります。

100˚C以下の比較的低温の熱利用分野では、潜熱蓄熱技術の実用化が進んでいますが、次世代のエネルギーシステムに求められているのは500˚C超の高温蓄熱・熱輸送技術です。従来、高温用PCMとして硝酸塩、炭酸塩、及び塩化物などの溶融塩が検討されてきました。一方、これらの溶融塩PCMは熱伝導率が低く蓄放熱速度の向上が難しいことや、融解時に10%以上も体積膨張するため、蓄熱槽の設計が困難などの問題がありました。

そこで、我々の研究グループでは、従来とは大胆に発想を転換して、金属及び合金そのものをPCMとして利用する新しい高温潜熱蓄熱技術の開発に着手しています。

金属や合金は熱伝導率が溶融塩と比べて数十倍から数百倍高いので、超高速熱交換の可能性があります。また、融解時の体積膨張もおおむね5%以下に制御可能なため、蓄熱槽の設計が容易です。さらに、金属・合金PCMは溶融塩と同等以上の蓄熱容量を持ちます。つまり、金属は高温PCMとしてまさに理想的な材料です。

先述したように、高温プロセスではすでにレンガやセラミックスを用いた顕熱蓄熱技術が重要な技術として長年居座っています。よって、技術革新を加速するには、そのもの全てを変えるのではなく、顕熱蓄熱技術の完成された利用形態(粒子、ハニカム、チェッカーレンガ等)をある程度継承した上でゆるやかに革新することが肝要だと、認識しています。
そのキーテクノロジーとして、我々の研究グループではセラミックスシェルでコーティングされた合金PCMマイクロカプセル(図2)を開発しました。このマイクロカプセルはセラミックスシェルでコーティングされているため、あたかも「セラミックス粒子」としてハンドリングすることができ、顕熱蓄熱の利用形態のごとく、様々な形にビルドアップ可能です。このPCMマイクロカプセル技術を基盤に、新たな蓄熱・熱輸送技術基盤を確立し、エネルギー問題の解決に邁進していきます(図3)。

産学連携・社会貢献に対する思い


産学連携は大学での研究成果が社会に還元されるための最も有効なプロセスの一つだと認識しています。このプロセスを有効に利用し、成果を最大限に社会へ還元するための「戦略」を、個々の研究者単位で真摯に考えていくべきだと強く感じています。
また、「ニーズ」に従って実用化に向けた産学連携を進めていく過程からでさえも、常に「シーズ」を見つけ求めて続けていこうと、考えております。

研究室紹介


大学院工学研究院附属エネルギー・マテリアル融合領域研究センター
エネルギーメディア変換材料部門
http://anergy.caret.hokudai.ac.jp/

研究室には教員2名(秋山教授、能村)、スタッフ3名と、約15名の大学院生と学部生が所属しています。留学生、海外からのインターン生など積極的に受入れております(タイ、インドネシア、マレーシア、中国など)。今回紹介した蓄熱関連の研究以外にも、製鉄技術の研究や、燃焼合成技術を基盤とした新材料の探求など幅広いトピックを研究しております。


(執筆者:後列左から三人目)

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