◇対談◇ 「水なしで飲めるフィルム製剤~体内に埋植できる素材の活用、服用を容易なものに~」

※インタビューは取材日時点の情報ですので、内容やリンク先が変わっていることがあります


左から川端機構長、西村代表取締役、牧内副機構長


フェノム研究所


  • 代表取締役 西村美佐夫

北海道大学産学・地域協働推進機構



歯学研究科 吉田靖弘教授の生体材料工学の研究をベースに、人体への負担の少ない体内埋植可能な高機能医療機器及び製剤を開発している株式会社フェノム研究所の西村社長に、起業のきっかけや技術、今後の展開についてお話をうかがいました。(2017年1月26日)

人に優しい製剤


西村:一般的な状態のお薬、皮下吸収もありますが、主に内服用として『フィルム状』の製剤を作っています。鼻炎用の内服薬ですが、特徴としては水なしで飲めるものです。
「人にやさしい製剤」を私たちの会社のコンセプトとしています。元々の開発の目的は嚥下困難、飲み込む力の無い方にこれを適用させ、その方面で展開できるのではないかということを約20年研究してきました。

増粘剤を基材としたフィルム状の製剤で、嚥下困難な方が飲みこみやすいようなお薬になっていて「溶かして飲む」ことで服用できるのです。

以前から歯学研究科 吉田教授のリン酸化プルラン1 が体内に埋植できる素材だということから、それを使うことによって手術への適用「癒着防止膜」や、薬剤を入れて抗菌効果を持たせたりするなどの展開が可能ではないかということで発足した会社です。

今はまだまだ普及しきれていない状況ですが、たとえば痴ほう症の方にお薬の服用をさせようとしても困難なのですが、この製品を皮膚に貼り付けることにより皮膚からの吸収ができるのです。そして、フィルム状なので持ち運びもしやすいのです。

まだまだ限られた領域ですが、これから展開する事によっていろいろな製剤に適用できるものなので、さらに拡大していきたいと思っています。

川端:現在の主な収入源となっているものと、今後の展開をお聞かせいただけますか?


西村:現状としては、この薬を製造する上場企業と組んだ製造基盤を持っています。自社の製造所が立ち上がるまで、主にコンサル業で収入を得ています。ビジネスモデルとしては、まず基盤固めをして、製造所が立ち上がった段階で製剤を設計して作っていきたいと考えています。

川端:粉末の薬は苦みがありますが、フィルム状の場合はどうなのでしょうか?

西村:味の苦みは溶解しますので粉末の薬と同じです。いまは処理の前に、薬剤コーティングをする事で成立していますが、苦みを感じなくなるような手法も研究しています。
膜部分経皮吸収、液晶乳化、皮膚への浸透性を高める研究をしています。お薬が半分の量で同等の効果を占めるような浸透性です。

服用すること自体、リスクが伴うものですが、浸透性が高まることはコストが安くなるだけではなく、薬剤の量が半分になることでそのリスクも半分になるかもしれない、ということを目指しています。これからも「人に優しい製剤を目指している会社」として経営していきたいと思っております。
川端:現在は、この製剤を作る拠点をコアに置いているのですか?

西村:その拠点を置くために、共同企業の人達と組んで製造基盤をつくっています。

牧内:フェノム研究所からの切り出し方を教えてもらえますか?

西村:私は、フェノム研究所の前職として製剤事業で投資の経験がありました。そこでは経営者が変わり、その分野が縮小されたのですが、どうしても「製剤をやっていきたい」という思いは変わりませんでした。そしてその時に共同研究の関係で歯学部研究員 吉田先生と知り合う機会があり、そこから北大へと繋がりました。


先生の研究しているリン酸化プルランは、フィルム適性に非常に向いているという事もあり、製剤との関連性も非常に高いのです。プルランは日本で開発され、増粘剤としての安全性も非常に高い材料です。

岡山の会社が素材として研究していたのですが、それを結びつけて研究していたのが吉田先生でした。リン酸化プルランは体内埋植素材としても研究されているもので、薬品素材としての展開がしやすいのです。

フィルム、リン酸化プルランそして液晶乳化コーティング、この三つを組み合わせることによって新しい製剤を開発していこうと思っています。いまは受託製造してもらい、それらを製薬会社に販売しています。

牧内:埋設のイメージは、どの様な感じになるのでしょう。例えば心臓を手術する場合には、心臓そのものを切らずに貼り付けて埋設するのでしょうか?

西村:現在は穴が空いたところなどに適用しています。通常は心臓を縫うのですが、これは貼り付けることで防ぐことができます。欠損した肝臓の一部や臓器を補うことも研究次第ではできると思います。

基本的に物理的な概念ですが、将来的には再生医療バイオ新技術の展開としてさまざまな研究を続け、新技術が出てきたときにすぐ対応できるようにしたいと思っています。今も製薬会社ではないところですが、参入したいという企業があります。

特許の独占を目指す

牧内:フェノム研究所における北大は、知的財産、研究成果の関係ではどのような関わりになっていますか?

西村:吉田先生とは「リン酸化プルランをフィルム化する事で展開する特許」の取得、そしてその特許を取得したあとは、コマーシャルをして共同先などを開拓し、実際に応用できる企業を探して進めていくことになります。製剤基盤を続けていき、同じようなタイミングで製品化になればと思っています。

牧内:機械自体は、他の製造する企業に作ってもらうようになっているとのことですが、リン酸化プルランを製品化するとなった場合、特許上はフェノム研究所の独占ということになるのでしょうか。

西村:製品化する場合には、フェノムとしての使用権をいただいたうえで運営していきたいと考えています。


川端:ビジネス的には「売りたい」という製薬会社、これは「何が出来たら売りたいのか」ですね。そして「何が」というのがハッキリしたら「どう」作るか。これらがすべて連携しない限り、それぞれ出資するところがないように思いますね。連携しない限り出資しないということになると思いますので、三者が話し合い、それらの合意点が決まったらどう売りたいのか、という点についてお聞かせいただけますか?

また、コンセプトがあって、試作となると思うのですが、今の段階は試作のためのラインを作っているということになるのでしょうか。

西村:現在は試作のためのラインを作っています。ラインをつくりながら、人員教育、そして試作品も作りつつエビデンスのデータ取りも確実に行う、という段階です。

川端:データ取りに関しては、病院とのタイアップになるのでしょうか? 

西村:大学の分析施設などですね。薬学部の先生にもお願いしたりしています。患者さんに、というレベルではなく、処方薬に関する研究などですね。

川端:苦みをどの様に感じるか、などの情報はやはり一度患者さんなどに使っていただくなど試すのでしょうか?その他の試しなどはどこで行われるのですか?

西村:SMOでもある企業に、臨床や出資をしていただいています。その会社は我々のコンセプトを理解してくれています。

川端:皆さんのコンセプトを一番理解している会社ということになりますね。そういう企業を見つけられたということは、すごい事ですね。

西村:製剤ですので人間に適用できるということは、動物にも適用可能なので将来的には展開したいと思っています。

川端:いま、病院と実験動物・動物病院との連携、獣医と医学の連動というステージにあると思います。いろいろな試しを動物側で行い、それを人間用に還元するというのが一般的な流れですね。

西村:そういったことが本来の姿だと思いますが、現在は人間の薬を開発することで動物にも、という流れになっています。何かあれば、ぜひこのフィルムを活用してもらえたらと思っています。

今後の展開

牧内:今後は東証一部になり、世界中の製薬会社との展開をしていく、というような成長イメージを目指しているのでしょうか?


西村:できればそのようになることを願っています。私たちの研究しているフィルム状製剤は、一般的な錠剤やカプセル製剤よりは展開することが非常に近道だと思っています。

人にやさしい製剤ということで、今後の高齢化社会に向けて必要とされるものだと思っています。嚥下困難な方、または嚥下障害と認められない予備軍の方も多くいると思うのです。「ごくん」とスムーズに飲めない、健常者でもなかなか呑み込めない、引っかかる感じがする、といった方がいらっしゃると思います。そういった方にも幅広く展開できる製剤なのです。

牧内:錠剤粉末、薬機能を運ぶものというところがコンベティターになるのですね。
薬機能があるもの、それを運ぶものについて、医療規制上のネックはありますか?

西村:ジェネリック医薬品の場合、先発品と生物学的に同等でなければなりません。
つまり、体循環血中に入る薬物の速度と量が同等である(体循環血中に入る薬物の速度と量が同等)ことが条件になり、そうでない場合はジェネリック医薬品として申請ができません。

しかしながら安全性の高い有効成分であればその限りではないと考えます。先発品とは、投与経路が変わることによって、体循環血中に入る薬物の速度が早くなる、などの利点も多くあるのです。

アメリカでは505(b)(2)制度2 というものがあり、特殊なものについては投与経路が変わってもジェネリック医薬品として申請できるのですが、日本ではまだまだ、こういった仕組みにしていないのが現状です。

アメリカの状況で事故が少ないと判断されたのなら、導入されると思います。そこからが、このフィルム製剤の本領発揮の場となるのではないかと思うのです。

川端:そうならないと利幅が狭いということになりますね。創薬は量や金額も大幅にありますが。製剤を飲みやすくする、というだけでは利幅が狭いような気がしています。
今伺ったお話のように粘膜吸収という機能が加わると大きな市場への展開が可能になるのだと思います。

西村:おっしゃるとおり、次のステージはその部分ですね。

牧内:これまでにないステージに挑む、ということになるのですね。そういったストラテジーは立っているのですか?


西村:ジェネリックが現在のような売り上げを伸ばしている状況も、いまだからこそだと思うのですが、そうではなく今度のステップとしては薬剤をどう生かして吸収性を高めていかに飲みやすくできるか、ということになると思うのです。こういった概念で製剤移行していくべきではないかと思うのです。

自分としては、当然ながら利益を考えつつ、世の中にそういった製剤を出していきたいという思いがあります。必要としている患者さんに届ける、ということが大切だと思っています。

大学機能の活用

牧内:製剤を、体の中のターゲットに届けるということはDDS【薬物送達システム(drug delivery system)】などの関係で非常に話題になっていると思いますが、規制の緩和や技術開発もその方向にいくという感じがしますね。

西村さんは、このフィルム化の技術で内閣総理大臣賞を受け取られていて、その分野の第一人者です。フィルム化の技術だけではないのですが、そちらの方にも乗り出しているということになりますね。それらを含めて産業政策表彰ということでもあります。

川端:西村さんにとって必要な大学の機能を使うことや、今後大学や病院をこんな風に使えたら便利だと思うことなど、「ベンチャーが元気になる」あるいは「効果がある」と思われるような事などがありましたらお聞かせください。

西村:大学の先生が何をしているのか、というのは「シーズ集」を見るとだいたいはわかると思うのですが、知る機会として言いますと「大学の先生が研究していることを発表する機会」というのはあると思うのです。例えばJST等の説明会などに出ることもありますね。ですがそれは、実は「よく聞かなければわからない」または「その場ですぐにはなかなか理解できないもの」が数多くあると思っています。

逆に私たちが「こういうことをやっています。みなさまの研究されていることに私たちの研究内容を応用できませんか?」と、提案できるような場を設けてもらえたら逆に展開ができるのではないかと思います。


牧内:ということは、たとえばそういった説明会以外にも「企業が作っている製品があるけれど、これは実は先生の研究に使える」と思えるような機会。あるいは、他の先生が聞いて「自分の研究している分野に、この研究が応用できそうだ」と思えるような機会、いわば逆マーケティングの場の提供となりますね。

川端:期待されていることが「研究者が、自分の研究に役立ちそうだ」となった場合に基礎的な話になりそうに思うのですが。

西村:いいえ、むしろそこから発展していくことが理想的なのだと思っています。やはり双方が納得し、理解した上で進めていくことが重要なのだと考えています。

牧内:川端先生は、この研究にこれを結びつけたいと思うことはありますか?

川端:色々な切り口がありますね。先ほどのコーティング、そしてフィルム化のお話でいいますと、別に製剤である必要は無く、もっと違う展開もあると思っています。ただ、その先にいったい何があるかというのはわかりませんが。

牧内:例えばご自分で使うとした場合どのように使ってみたいと思われますか?
川端:さまざまな形態をとらせることができるように思います。例えば口の中のだ液と混ざった時にどのような溶け方をするのか、また、どういった機能でパラパラとほぐれていくのだろうか、といった数理的な事を考えたり、もっと大きなゲルがあった場合、どうなのだろうか、など面白いことにつながるような事を思ったりもします。事業化や製品化ということにそのまま繋がっているのではないかとも思います。

ただそれが、「事業として収益につながるか」となった場合は、また視点が異なってくると思います。

皮下製剤についていうと、北大が提携している企業にも似たような事を研究しているところがありますが、それらの融合から新たな研究開発の要素があるのではないか、新しいビジネスの種があるのではないか、とも思います。そこに大学の人間が入ることによって次世代の新しい製剤が生まれる可能性もありますね。

西村:まずは「そのきっかけをどの様に作り出すか」ということですね。

牧内:今回の対談のように「一度お会いして話す機会を持つことによって、たくさんの人に理解してもらい、次のステップが思いつく」といったような機会はなかなか難しいかもしれません。


川端:北キャンパスや学内で企業と話し合う機会や、研究者などと話すこと、少人数で顔を合わせる機会を持つことにより充実させていくことが、その展開に繋がることになっていくのかもしれません。

道の機関が北海道内の中小企業と顔を合わせる機会はあるのですが、大学発ベンチャーの場合、それとはまた違う機会が必要なのだと思います。大手の企業と、新しいベンチャー企業が顔を合わせる機会などが、より北大らしいものでもあると思います。そういった機会をもっと創出し、多くの方に理解してもらう必要性がある、という事なのかもしれませんね。


1注 JSTとAMED、北大、岡山大学の共同発表
リン酸化プルラン天然多糖類プルランのリン酸化物。本材の主要な原料で、歯や骨に対して強固に接着し、生体内で吸収されることから、接着性を持つ骨補填材としての実用化が期待されている。また、薬剤の担体にもなりうるため、リン酸化プルランを含有した口腔ケア製品の実用化も進められている。
2 ※505(b)(2)制度
参考文献 Guidance for Industry Applications Covered by Section 505(b)(2)  https://www.fda.gov/downloads/Drugs/Guidances/ucm079345.pdf



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