研究者紹介

【ライフサイエンス】 (2017/04/25公開)

中川 雅夫 助教 大学院医学研究院 内科系部門 内科学分野 血液内科学教室

T細胞リンパ腫細胞の根絶を探る

医師から研究者の世界へ


私は元々研究者を志望していたわけではありません。北海道大学医学部医学科を卒業して、5年間北海道内の病院を医師として勤務していた私にとっては、むしろ研究というものはとても遠い存在でした。

当時の北大第3内科教授の浅香正博先生より日本の悪性リンパ腫研究の第一人者であった愛知県がんセンター研究所瀬戸加大先生の元に国内留学を勧められた時には、名古屋という新しい土地へ一度行ってみるか、というぐらいの気持ちでした。

いざ瀬戸研に参画してみると、すぐに「研究するってことは、とても面白いことなんだ!」と気づきました。臨床医時代は、何か本を読んでも、たとえ「論文」としてpublishされているものであっても、それが本当に正しいことなのかな?と、何か腑に落ちない気持ちでした。しかし、研究室では、疑問があれば、実際に自分で実験をやってみればいいわけです。

瀬戸先生は自分のデータこそが真実なんだ、と教えてくれました。疑問は、本を読んで人の受け売りを学ぶのではなく、自分自身で確かめて納得することができ、そういう中で、「あれ?これってどうなってるんだ?」ということに出会えれば、まだ他の人が知らないことを自分が発見できるかもしれない。研究者は魅力あふれる仕事だ、と思いました。

悪性リンパ腫研究 -実医療への貢献を目指して


血液がんの中でも特に診断及び治療が難しい病気の一つが、T細胞性リンパ腫です。治療標的分子の同定、分子標的薬の開発が望まれていますが、その基盤となるべき分子病態の理解は遅れています。

近年は次世代シークエンサーの登場により網羅的な体細胞遺伝子変異解析が可能になりました。T細胞性リンパ腫の分野でも腫瘍形成に重要と考えられる遺伝子変異が多数報告されてきています(Nakagawa et al. JEM 211:2497-505, 2014.)。

それらの遺伝子変異の発見が新しい治療法開発につながると良いのですが、これがなかなか、そう簡単ではありません。その遺伝子変異はリンパ腫ができ始めた時には腫瘍形成に必要不可欠だったかもしれませんが、病気が発見された頃には不必要になっているかもしれません。また、がんは一つの遺伝子異常ではなく、たくさんの遺伝子群によるnet effectで腫瘍形質を維持しています。一つの遺伝子を標的としても、不十分な効果しか得られないこともあります。では、どの遺伝子を標的にすれば本当に治療効果をあげられるのか?

この重要課題に正面から取り組むために、私の研究グループではCRISPR/Cas9網羅的遺伝子ノックアウトスクリーニングを基盤とした仕事を進めています。CRISPR/Cas9は近年開発されたばかりの革新的ゲノム編集技術であり、これを用いることで従来法より飛躍的に高い効率・特異性で標的遺伝子をノックアウトすることが可能になってきました。

我々はこのシステムをヒトT細胞性リンパ腫細胞株に導入、約 20000遺伝子を網羅的に解析し、どの遺伝子を標的とすることでT細胞リンパ腫細胞を根絶できるのかを探っています(図1)。我々の研究成果が、創薬へのシーズ、治療反応性バイオマーカの発見や薬剤耐性機序解明などに発展し、実医療へ貢献できることを目指しています。


図1 : CRISPR/Cas9網羅的遺伝子ノックアウトスクリーニング

産と学の距離、理想


最近は競争的研究費の獲得が厳しく、「どのように役に立つのか」が問われることが多いです。しかし私は、本来「学」はこのような発想に縛られることなく、純粋に何かを「調べること」「分かること」を夢中で楽しむ、が基本で良いのではないかと思います。

その中には日の目を見ないものもあるでしょうが、「産」の視点を通すことで、社会貢献に発展するシーズが幾つか抽出されていく、というのが理想だと思います。ただ、こういうことも、「産」の視界に入らないことには起こりえないことですので、我々はそういう努力が必要だと思います。また近年、多くの関係機関の方々の努力を通して、この「産」と「学」の距離が縮まっていると思います。

悪性リンパ腫グループについて


我々は豊嶋崇徳教授の主宰する血液内科学教室の元、悪性リンパ腫グループとして研究を進めています。2016年8月に小生が着任、本年4月には大学院4年目の下埜城嗣先生、大学院2年目の石尾崇先生がグループに参画してくれました。

研究の楽しさを伝えつつ、深い洞察力でデータを解釈するトレーニングを提供し、かつ、悪性リンパ腫研究界に貢献できるデータを出す。今後も我々のグループに参画してくれる人を募集しています。


悪性リンパ腫グループ。前列:著者。後列右:下埜。後列左:石尾。

大学院医学研究院 内科系部門 内科学分野 血液内科学教室
http://www.hokudai-hematology.jp/

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