◇対談◇「大企業→特任教授→起業~健康情報通帳TM“miParuTM”が目指すもの~」

※インタビューは取材日時点の情報ですので、内容やリンク先が変わっていることがあります


左から川端機構長、南代表取締役、牧内副機構長


株式会社ミルウス


  • 代表取締役 南 重信


北海道大学産学・地域協働推進機構


昨年11月に起業したての北大発ベンチャー「ミルウス」は、東芝でウェアラブルセンサーを研究していた南 重信 氏が北大の特任教授を経て創業しました。大企業という環境では難しかった経験が、大学という環境では可能となり、それが起業に至った大きな動機であると語ります。大企業の研究、大学の研究、国家プロジェクトの役割などからそれぞれのメリットを十分に活用し、技術を産業化する、という大学発ベンチャーの一つのモデルパターンとも考えられます。(2017年3月1日)

ウェアラブルセンサーの応用分析を模索


川端:起業に至った経緯や、ミルウス社の技術などお聞かせいただけますか?

:北大に勤務する前に、私は東芝でウェアラブルセンサー、眠りの深さなどを測ることに取り組んでいました。私たちの会社では、このセンサとIoTを組み合わせるのが目的です。これまで測定データはセンサ毎の各サービス会社のクラウドサーバーに入れていましたが、先ず、自分のスマホに入れることで個人主導の収集・蓄積を可能にするものです。

日用品など身の回りのもの全てに搭載されたセンサから、健康にかかわる情報(健康データ:生体・行動・環境・機器データ)を収集し、マイクロSDのようなメモリカードに蓄積します。情報が手元にありますから、例えば車の運転の場合には、アクセルを踏み込んだタイミングやハンドル操作の情報と脈拍・心電等の生体情報、さらには昨夜の睡眠状況などを統合的に解析することが可能になります。

また、高齢者施設では、昼間の活動量とともに、睡眠の状況を絆創膏型やマットに組み込んだセンサで測定すると、生活や服薬の指導に有効なことが確認されています。


高齢で認知症の症状がある方の場合、実際は十分な睡眠がとれているのに「寝ていないから睡眠薬が欲しい」という要望が多くあるというのです。しかし、データを取っていると実際の睡眠時間、そして睡眠中の様子がわかりますので、過剰な睡眠薬の投与を防ぐことができるようになります。

最終的には、バイタル等の健康情報を取ることを日常化したいと考えています。一番のポイントは取得したデータを個人が所有し、個人が率先して活用したいと思うような社会を実現することが理想です。

赤ん坊が誕生すると、その時点から健康情報を、あたかもアルバムに写真を記録するように、メモリカードに蓄積してゆき、最終的には生涯の健康情報をAIを用いて解析することにより、成人し、高齢者になったときに、生涯のデータを蓄積していて良かったと両親に感謝する時代が来ると信じています。

株式会社ミルウスも生まれたばかりの赤ん坊のような企業です。以上のような個人健康情報流通社会の実現は到底一つの新生ベンチャーだけではできるものではありません。大手メモリ企業、大手半導体企業、中堅セキュリティ企業、最先端センサを研究開発製品化している国内のベンチャー企業など10社以上と連携し、ハブ的な役割も担っています。

健康情報通帳TM"miParuTM(ミパル)"は、My Information Passbook & Archive for Reliable Utilization の略で、この、核となる技術が北海道大学 情報科学科 長谷山研究室在籍中に、長谷山先生のご指導やNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を受けて開発した、仮想センサ"miruWs® (ミルウス)" です。

この名前は社名の由来でもあり、Multifunction Integrated Reliable Unconscious Virtual Vital Signs-sensor から来ていますが、日常生活で使用する多様な機器・設備・ウェアラブルセンサといった物理センサからの情報を高信頼かつシームレスに統合し、インターネットやスマホ等のサイバー空間の仮想的な統合センサとして扱う技術です。

この技術によりアプリケーションは性能や機能の異なる多様な物理センサの個々に煩わされることなく、解析等の処理を効率的に行うことができます。

健康情報通帳TM"miParuTM"は、この仮想センサの出力である健康データを、見守りなどのリアルタイムデータとして“健康異常時に送信する”とともに、改竄困難な日付付き情報として手元のメモリカードにマスタデータとして蓄積し、そのコピーである必要な情報を、必要な配付先に“有効期限やコピー制限付きで送る技術”です。これにより健康情報の銀行のような機能が中央集権ではなく分散で実現できます。

川端:情報を取得したあと、そのデータをどのように分析しているのですか?

:介護施設や乳幼児施設等では、例えばベッドのマットで測定した脈波や圧力などを解析して睡眠状態や離床などを検出します。 

体動や自律神経のバランスに起因する心拍・脈拍揺らぎ等が広く使われている手法です。真夏の屋外など過酷な環境下で働く場合、「熱中症の予防のために、必要な休憩をとっているかどうか」などを把握するために利用できます。

これも脈、心電、体温、体動などをヘルメット等に装着したセンサで作業者に負担をかけることなく測定します。

それからバスの運転手、これも同様に“労働環境が適切であるか”などを把握するために活用され始めています。

牧内:このシステムをどういったところで活用したいとお考えですか?

:前述の介護施設、乳幼児施設、建築現場、従事者の健康が重要視される業務、ストレスの高い職場等、幅広い分野に適用できます。また、保険のディスカウント等のデータ活用等の新たな活用分野も開けつつあります。 

このような用途では個人情報を扱うためデータの信頼性とともに情報の保護も大変重要です。本年5月には個人情報保護法が強化され、個人情報の扱いに、これまで以上の配慮が必要とされます。健康情報通帳TM"miParuTM"は、幅広い応用における、高信頼・高セキュリティセンサシステムの共通プラットフォームとして育てていきたいと思っています。


また、このようなデータ解析結果の可視化には、長谷山研究室が推進している、AIを用いたビックデータの解析・可視化が有効だと思っています。 

川端:会社は現在、どのような運営になっているのでしょうか?

:私が専任で代表取締役社長CEO、広島市立大学教授の田中宏和教授が兼務の最高技術取締役 CTO、多摩大フェローの宮本 勤 氏が兼務で最高マーケティング・財務責任者の3人体制で推進しています。実際の開発は、先ほど述べましたパートナー企業に依頼したり協業しながら推進しています。

川端:取得したデータの解析は、誰が行うのですか?

:基本的には解析を業務とするパートナー企業と連携することになると思いますが、データが揃えば、北海道大学大学院 情報科学研究科 長谷山先生の技術、ビックデータ可視化等のAI処理と連携させていただきたく思っています。

国のプロジェクトをきっかけに大学に移籍

牧内:企業に勤務していた時と大学勤務時代での違いはどういった事がありますか?
また、企業勤務時代に国のプロジェクトに採択されていたのでしょうか。

:東芝を辞めたのですが、ウェアラブルセンサーにまだまだ取り組みたい、ということで国プロもあったため、北大の長谷山研究室でご指導いただくことになりました。

そして国プロが完了した62歳の時「あと人生の残りに、退職金を基にしてできる事はなにか?」と考えた時にベンチャーを起こしました。東芝では半導体に携わっていましたし、大学在職中には様々な分野に取り組んでいたことも、大きな後押しとなっています。


川端:ベンチャーを起こすきっかけは、何かあったのでしょうか。東芝から北大に来られたときには既に、ベンチャーで、というお考えがあり、そのステップとして北大にいらっしゃったということでしょうか?

:いえ、ベンチャーをやりたいから北大に来たのではなくて、長谷山先生のビッグデータ可視化の技術と、仮想センサ技術を組み合わせると新しい世界が開けるのではと思い始まったのです。

それとやはり、会社を辞めてフリーになった事ですね。ですが、大学に来て思った事は大学で研究をしても出口が少ない事です。起業するということは、非常に大変なことで、ベンチャーはデメリットも言われるのですが、このベンチャーの「弱小さや中立性」を逆にメリットにすることが、今は良いのかもしれないと思っています。

この弱小な会社を「何とかしよう」、と思ってくれる企業があるということが、とてもありがたいことだと思っています。

川端:いま投資力は大きくなっているのではないでしょうか?投資先を探しているところが多くあるように思いますね。

:お金を入れたらリターンが欲しい、それは皆が思うことです。その様な事も含めてお金をあまりかけずにリターンを、と考えた時に特許とコンセプトがカギを握ると思いますね。

川端:コンサルティングにお金を払うということは、はなかなか馴染まないのだと思いますが、やはり知財などがないとさらに難しいのかもしれませんね。

:コンサルタントなどの依頼はいくつか来ているので、まず初めはその収入を会社継続の為にと考えています。ですが、それだけになってしまうと本来の目的とは異なってしまいますので、業務援助と会社の方針の両立に腐心する必要があると思います。


牧内:冒頭でおっしゃっていた、介護施設というのは、いわゆるコンサルティング業務、システムインテグレーター的に関わっているということになるのでしょうか。中口、大口のユーザーをつないでいくというイメージになるのですね。

:そうですね。何社かの大手の会社と取り組もうと思っているところですが、自分達のところはIP(知的財産)でしかないのです。

牧内:メインの業務としてはIP、開発自体はパートナー企業からの投資ということになり、その開発業者とユーザーのコーディネーションがコアになっているのですね。

:そうですね、いまはNDA(秘密保持契約)だけで十数社結んでいます。今後2~30社に増やしていき、ユーザーからの要望を取り入れて運営して行くことを目的としています。ソリューションのハブのような役割ともいえますね。

牧内:投資額の単位としては、どのくらいの規模と考えたらよいのでしょうか?

:億単位かもしれませんし、今後の事になりますが提携企業が開発した製品を活用しながら、数千万の投資があるソフト会社との共同もあります。しかしそこでどの程度、私たちの権利を存在させるか、ということが重要なところになるのです。

川端:知財か、またはノウハウとして残していくことを考えていくことになるのでしょうね。

:知財、特に商標、ブランドも重要ですね。例えば他社が健康情報通帳を商品開発したとしても「miParu(ミパル)」という名前を付けたいとみんなが思うようにしたいものです。

仮想センサ「miruWs®」、これは多様なセンサデータを統合しシームレスに接続する仮想センサです。そして健康情報通帳「miParu」は、個人主導型健康情報流通というセンサで無意識取得した健康情報を手元に蓄積し、自分の管理する情報通帳のもと、自分の意思で配信することができるものです。

私たちは、この健康情報通帳TM"miParuTM"をブランド化していこうと思っています。投資は知財と、それを具現化するプロトタイプにかけていこうと思っています。

ベンチャーが大学に期待するもの


牧内:今回の北大発ベンチャーの称号は「会社」に対してつくもので、製品の機能を表すものではありません。一方でブランド戦略をやっていくなかで、北大の成果を評価するものはマークを付けられる、ということになっています。

ベンチャー企業を経営する中で、北大発ベンチャーの称号が、知財を主体とする御社の経営上どのような役割を果たしているとお考えでしょうか?

:たとえば企業に対して「miruWs®で商標を取りました」といっても、それは「零細企業のミルウス社のIP」となり、説明しても検討してもらえない恐れもあります。

しかし、それが今回の称号によって「北大発ベンチャー認定企業」という説明ができることによって、信用していただけますし普及の場が広がるのです。そういう意味では、今回いただいた北大発認定ベンチャーの称号はとてもありがたいと思っています。

川端:これからの出発に役立つのであれば、ぜひこの称号で活用の場を広げていただきたいと思っています。


最後になりますが、今後大学に期待する事や、ベンチャーが生まれるため、育つために大学の機能として、いまこれが有効だと考えられるようなものなどがありましたらお聞かせください。

:大学の中にベンチャーを、と考えた場合、私の場合は、大学の外に出なくてはなりませんでした。私は、米国の大学にいたことがあるのですが、米国の場合は、大学が収入を得ることに非常に熱心です。教授=社長ですね。 

大学として貴重なIP資源があるのですから、これからは北大も「大学」がもっとIPを商品、売り物としていけるようになれば良いのではないか、そうすることで自律的に回るのではないか?とは思うことがあります。

牧内:大学の中にそういった機能を持った人材がいないというのが現状なのです。しかし、特許庁はこれから取り組んでいきたい施策としていますが、コーディネーターの方に来ていただいていても、その機能がなかなか働いていない、というように思えます。ということは人材がいないという事を解消する、育成するということになり、いわば「パテントとパテントを組み合わせる人」の発掘が必要ともいえますね。

川端:アメリカではそうした機能や投資権限まで持っている大学があります。しかしながら日本の大学はそういうスタイルになっておらず「リスクは犯さない」ということを守っている状況にあると思います。これからは、大学が様子を見て、何社か「ピックアップして次の種にする」ということも必要なのかもしれません。


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