◇対談◇「クリーン水素社会の構築を目指す~安全に大量の水素を輸送・貯蔵・生成・リサイクル~」

※インタビューは取材日時点の情報ですので、内容やリンク先が変わっていることがあります


左から川端機構長、上杉代表取締役社長、牧内副機構長


バイオコーク技研株式会社


  • 代表取締役社長 上杉 浩之


北海道大学産学・地域協働推進機構



地球環境の負荷が少ない「クリーン水素社会の構築」を目指して活動し、再生可能エネルギーによる水電解水素を活用して、その水素を安全で経済的かつ大量に「輸送、貯蔵 、水素生成、リサイクル」が可能な技術の開発と実用化を目指している、バイオコーク技研株式会社 代表取締役社長 上杉浩之氏に、技術や今後の展開についてお話しいただきました。(2017年3月7日)

特許技術 ~安全に大量に輸送・貯蔵可能な固体水素~


牧内:本日ご同席はいただけませんでしたが、工学研究院 秋山教授との共同研究による製品で特許を取得された、その経緯や技術についてお聞かせいただけますか?

上杉:私たちの会社で製造しているのは、秋山教授と開発し特許を取得した固体水素です。これは高純度水素化マグネシウム(MgH2)で、試薬としてはすでに存在していますが、工業的規模の大量生産に世界で初めて成功しました。

製品としては各種サイズの粉状MgH2およびタブレット状MgH2があります。具体的には、例えば、タブレット(22.1ml)の中には固体の水素が原子として7.6mass%含有されており、水素ガス換算で水素が19.6L入っていることになります。この事実は19.6Lの水素を22.1ml まで圧縮することと同等であり、887分の1と大変コンパクトに水素を封入したことに成功したことになります。

さらに、タブレットのサイズは3.5㎝×3.5㎝×1.8㎝で、とても軽いのですが、水と反応させる事により、水中の水素もガス化して倍量の約40Lもの水素を発生させることが最大の特徴です。この水素貯蔵密度(15.2mass%)は圧縮水素ボンベや液化水素をはるかに超える値であることから、貯蔵や輸送に最適の媒体と考えています。

私たちの会社で製造しているのは、粉状とタブレットの水素化マグネシウムであり、これをアルミニウム製の袋に包装することにより、水素を大量に、安全に且つ経済的に持ち運びが可能な材料を、安定的に且つ、大量生産ができるというものです。

バイオコーク技研で製造している粉、タブレットの水素化マグネシウムはマグネシウムに水素のみを化合させて、粉状とタブレットにしております。この水素化反応は発熱反応で、これを巧妙に利用することにより、極めて省エネルギーで安価に製造することに成功しました。この「マグ水素(MgH2)製造プロセスフロー」というものがあり、このプロセスで日米欧中韓を始め各国で特許権を取得しています。

粉及びタブレットの権利化はその優れた新規性により、出願から査定迄の期間は、粉は僅か9カ月12日間、タブレットはさらに短く4カ月24日間と非常に短期間で権利化が認められました。


川端:タブレットの形としては、元々の形がそうなのでしょうか?

上杉:我々はマグネシウムインゴット(マグネシウム塊)を輸入しており、それを弊社が開発した装置で切削・プレス成型した多孔質の金属マグネシウムです。

川端:加圧水素で焼くのですね。インターカレーションしながら化合物にすると、ボソボソした組織になりそうに思いますが、このタブレットは焼結体のようでいて、堅いのですね。

上杉:はい。10気圧未満の圧力をかけて焼きますので、堅いのですが、Mgインゴットに直接水素化させるよりも反応速度がとても早いのです。

新たな活用法 ~美容関連商品へ~

川端:化粧品にしようと気がついたのはどのようなことからでしょうか?水素を取り出すときは、水と反応させると発熱して、一旦溶けるのですね。

上杉:一旦溶けて水酸化マグネシウムが生成する時に安定的に水素が生成する事が判明したのです。美容・理容分野の関係者に説明し、各種の美容・理容関係の商品に適用されだしました。製品としては入浴剤、クリーム、ジェル、パック製品などがあります。

川端:水と混ぜたときに発熱が起こるのですね。

上杉:水素化マグネシウムは水と反応して、一旦、水酸化マグネシウムとして溶けて、ぷくぷくと水素を発生し、弱い発熱反応なので、適度な熱を発生するため保温効果が高い。この反応はいわゆる加水分解反応で温度依存性があり、高温ほど反応速度が速くなります。

入浴時の湯温は40℃くらいであり、ゆっくりと水素を生成しながら溶けていきます。そのため3時間くらい水素を発生し続けるので、入浴剤としては非常に効果的です。

次のステップ ~「コンパクトカー」の開発を視野に~


川端:この小さなタブレットを燃料タンク、いわゆる移動型燃料タンクに投入すると燃料になる、ということですね。

上杉:水素エネルギー循環社会の構築を目指しています。ですから、このタブレットの活用方法は災害時の利用も想定しています。

災害が起きた際に、現地で利用できる燃料として使ってもらいたいと考えています。
また、エネルギーの地産地消をめざしており、最初は水素化マグネシウムを工場から購入し、使用後の水酸化マグネシウムはリサイクル率を70%としては有価で回収し、工場廃熱等を利用して酸化マグネシウムに煆焼します。

この酸化マグネシウムは高純度であり水素プラズマ炉でマグネシウムに還元して、更に水素化して高純度水素化マグネシウムに再生製造することが可能です。残り30%は新規の水素化マグネシウムを投入して運用するリサイクルシステムを検討しております。

川端:水素の生成方式は、一度に大量に発生させないように制御しながら生産していく、フロー型ということになりますね。

上杉:そうですね、圧力に依存せず、フロー型で使う分だけ補充していくようなものとしての製造を考えています。この方式であれば水素自動車にも適用できると思います。


川端:ということは今後の生産イメージは、水素をはき出させて燃料にする、ということですね。大量生産し、輸送して走る、チャージして走るという「エコランカー」ですね。

牧内:このタブレットを燃料にすることで、コンパクトカーが可能になるということですね。

上杉:次のステップとしてコンパクトカーの開発を進めたいと考えています。自動車の燃料としては、この小さなタブレット4つで「エコランカー(1人乗り)」の場合、26.5kmの走行が可能でした。

川端:コンパクトカーで利用する場合、エネルギーを発生させる時の制御をどのようにするか、ということが課題になりますね。

上杉:これから実現に向けて研究を進めていきたいと思っています。いまは日本での資金集めに苦戦していますが、これからはアジア圏へ展開することで資金の増加を見込んでいます。

大学との連携 ~新たな開発へ~

牧内:上杉さんがお考えになる、これからの大学との関係とはどのようなことになるのでしょうか?

上杉:私たちが大学に望むことは、成果はシーズだけでなく、商品化までのサポートも含め、どのように有体化したり、保持したりするか、といったノウハウについても共有していきたい、そう思っています。

川端:御社でいうと大学のシーズだけであり、なおかつ資金も限界があったので化粧品などで先に進めた、となりますね。

上杉:たとえば、研究室と連携をしながら商品化するという場合、大学には種々の学部があります。そこで、シーズ技術の商品化にあたっては、各専門分野の学部・研究室の先生と共同で開発できるのでは、と考えております。

川端:サポートでいうと、どのような面になるのでしょうか。たとえば知財、あるいはお金の面などがあると思うのですが。

上杉:技術的な組み合わせなどを、大学の研究者の方にしていただくなどもありますね。シーズを有体化する時のプロセスや、運用などの面もサポートしていけたら、助かると思います。

成果有体物を商品化するには知財など、さまざまなことを調べていかなければなりません。そのようなときに大学と協力しながら進められることができると、とてもスムーズに開発が進められるのでは、と思っています。


牧内:今回は秋山先生の開発した技術の他に、秋山先生以外の工学部研究室、有体力学の研究室が関わってサポートしているということでしたね。

上杉:開発に協力していただいた研究室の隣で、バイオマスの研究をされている先生からのアドバイスなどがとても有効でした。

牧内:化粧品等の売り上げは、これから伸びていくのでしょうか?

上杉:水素を活用する市場としては、化粧品分野のほかにスポーツ業界への適用等も見込まれていて、これからは市場をさらに広げられることを期待しています。

来年以降にはさらに医療の分野、海外への進出も視野に入れ、商品の大型化なども含めた技術展開をしていこうと思っています。


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