研究者紹介

【その他】 (2017/10/25公開)

石田 晃彦 助教 大学院工学研究院 応用化学部門

現場検査の精度向上に尽くす


絵画の色彩から化学の色彩へ


子供のころのわたしは,科学に興味がありましたが,絵を描くことが好きで画家になることを夢見ていました。小学2年生のときから絵画教室に通い,中学3年生のときには写生大会で最高賞をとるまでになりました。しかし,高校2年生のときその夢にブレーキがかかります。

美術の課題であった写生画を提出したとき,受け取った先生は無言のまま絵を見続けたあと,「芸大に行くって言うなよ。もう遅いからな。」と指摘されました。そのとき,提出した課題は高く評価していただけたのですが,その進路は狭き門でそのための準備はすでに相当おくれていることを知らされたのでした。

そのできごとからしばらくたって読んだ一冊の本が,研究者への道に舵をきるきっかけになりました。著者の専門であるシステム工学とその実践を例に科学や研究者とはどのようなものかが力強く語られており,研究者への志を芽生えさせるものでした。さらに,高校の化学で学んだ金属錯体が心をつかみました。鉄イオンとシアン化物イオンが結合してできる錯体(プルシアンブルー)の鮮やかな色彩と分子構造の興味深さに魅了されたのでした。

その後,わたしは工学部に入学し,化学系学科の分析化学の研究室に入りました。そこでは金属錯体の色調をはじめとする特性を利用する化学分析法の開発をテーマにしていたのです。学部4年生で配属されたばかりのとき,すでに金属錯体をベースに何かを追求したいという思いが強く,博士課程に進むことを教授に宣言したのを覚えています。

さらに,その研究室では,既存の分子(金属錯体を含む)と反応場のそれまでにない組み合わせ(分子システム)によって新たな機能を生み出すという手法により分析法を開発していました。金属錯体を中心とするこのユニークな研究の面白さに惹かれるうちに研究者になることを決意しました。

ところで,幼いころからの画家への夢は,今では研究テーマの概念図や説明図をかくところで生きています。

現場検査の簡便化を原理と装置の両面から迫る


現代の社会は検査で成り立っています。身の回りのほとんどを占める工業製品は品質を保証するため製造過程で様々な検査が行われています。製品の安全性も検査によって守られ,私たち自身の健康や働いたり暮したりする環境も検査されています。通常,このような検査は,検体を検査室あるいは検査機関に送って行われるため,検査結果が得られるまでに時間や日数がかかっています。

万一安全性に問題がある製品が出荷されてから検査結果がわかったのでは人命にかかわりうる大問題になります。病気の診断においても,検査に時間を要すると的確な診断と治療ができません。ところが,これまでの検査装置は大型であるため,検査結果を求めている現場に持ち込むことはできません。それにくわえ,検査するには専門の技術も必要になります。そのため現場で簡便に検査できる方法が切実に求められています。

私が行っている研究は,検査の専門家ではない現場のスタッフがその場で簡便に検査を行うことができる方法の原理と装置の開発です。この課題に二つの方向から取り組んでいます。その一つは,検体に試薬を加える数ステップの操作のあと目視で測定する方法です。

検体の濃度を目視で測定するとき,一般的には目的成分を発色させて色の濃淡で表示しますが,私が取り組んでいるのは,色の違いで表示して一目見ただけで陽性・陰性の判定が直ちにできる方式です。この発色に金属錯体を利用します。

その一例として,井戸掘削現場において鉄分が少なく良質な地下水を含む地層を見つけるため掘削土壌の鉄分含量を目視測定する方法があります。今は,血液中のアデノシン三リン酸値を指標とする重症度診断のための検査法の実用化に取り組んでいます。これも患者の重症度が一目で判断できる方法です。色を読み取るセンサーと組み合わせれば重症度を数値化して治療効果を把握することも可能です。この検査法は,これまで医師がさまざまなデータから判定してきた経験的方法に代わるものとして期待されています。
もう一つは,汎用性が高く,多くの分野で利用されているものの,これまでは実験室のみで利用されてきた装置を大幅に小型・軽量化して現場で利用できるようにしようという試みです。精度が低い簡易分析に頼ってきた現場でも精度よい分析が可能になります。汎用性が高い分析法の一つである液体クロマトグラフィーは,混合試料を液体の流れに乗せて,吸着剤を詰めた長い管(カラム)に通過させることにより,混合物を成分ごとに分けて検出する方法です。実際に,化学工業,医薬品・食品の製造,臨床検査,環境調査,法医学,基礎研究の分野で利用されています。この分析法には,目的成分が複数あったり,目的成分以外のものが混在したりするときにそれぞれが検出の妨害にならないよう分けてから測定するところに強みがあります。

わたしたちは,これまでにこの装置をB5サイズ,4 kgという小型・軽量化することに成功しました。従来にくらべて設置面が1/3以下で,重量が1/8以下です。バッテリーでも稼働するため,電源がとれないところでも利用できます。この装置には液体を流すためのポンプ,カラム,検出器が必要になりますが,われわれはカラムと検出器をキャッシュカードほどの大きさの基板に集積しました。また,ポンプの駆動力には,従来のようなモーターや歯車のような機械的機構ではなく電気浸透という電気化学的現象を利用しました。現在,この小型分析装置はさまざまな分野から期待されており,できるだけ早い時期の実用化に取り組んでいます。

研究シーズ

ポータブルな液体クロマトグラフ

ところで,このような研究は単なる応用研究と思われがちですが,既存の装置のスケールを変えるだけでは対応できません。構成要素それぞれに対して根本的な検討が必要になります。基板に集積したカラムも検出器も十分な性能をもつよう独自に開発しました。また,目視で測定する分析法についても,操作は簡単でもそこに埋め込まれている原理は単純なものではありません。以前成果発表したさいに専門家から「聞けば納得できるが,物質の特性を相当知り尽くしていないとできないこと」との評をいただいたことがあります。

産学連携・社会貢献に対する思い


これまで行ってきた研究テーマは現実の問題を解決するところに主眼をおいてきました。分析法の研究は利用されて初めて意義があると考えているからです。そのため,これまでに多くの企業や大学と連携してきました。連携なしには開発した検査法を世の中に提供し,社会貢献することは困難です。また,実際のニーズと出会うためには,研究者個人のアンテナだけでは足りないため,つねに企業や社会との連携が必要と考えています。

すでに紹介した土壌中の鉄分量を目視で測定する方法も原理自体はすでにアイデアとしてありましたが応用例がまったく見当たりませんでした。偶然井戸掘削でのニーズを聞かされて初めてその原理が役に立つと着想しました。

さらに,社会に向けて成果を発信することの重要性も強く感じています。これまでもこちらの情報を受け取った相手と新たな研究を行ってきました。今後もこれまでのような産学連携や社会貢献を続けていきたいと考えています。

生物計測化学研究室のご紹介


わたしが所属する生物計測化学研究室(渡慶次 学 教授)では,今回紹介した以外に,ろ紙などの紙を基材とする安価な分析デバイスや半導体微細加工技術を利用した高性能なマイクロ分析デバイスの開発も行っています。研究室のWebサイトで研究内容や研究成果を紹介しておりますので、ぜひいらしてください。

北海道大学大学院工学研究院 応用化学部門
生物計測化学研究室
http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/tokeshi_lab/


Update 2018-10-29
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