研究者紹介

【ライフサイエンス】 (2017/12/22公開)

河合 正人 准教授 北方生物圏フィールド科学センター

持続可能な食料生産を目指して

大自然へのあこがれ


大阪府岸和田市の出身で、高校まで過ごしました。大自然の中で動物について学びたいとの想いから北海道大学を受験し、Ⅱ系に合格。当時流行っていた「動物のお医者さん」を目指しましたが、病気の動物を診るよりも、病気をさせない動物の飼い方が大事なのでは、との考えから農学部畜産学科に進みました。とくに自然草地を利用した家畜の放牧管理に興味をもち、大学院進学後は主に馬の林間放牧についての研究に携わりました。
博士後期課程を修了後、帯広畜産大学の助手として着任、17年間務めた後に、2015年より北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター 准教授として着任し、現在、静内研究牧場にて教育研究活動を行っています。


北海道和種“道産子”のルーツと可能性


日本在来の馬、いわゆる“和種馬”と呼ばれるものは、現在8種類います。“道産子(どさんこ)”の愛称で知られる北海道和種は、比較的小柄で、人の大人の背丈と変わらず、ずんぐりとした体型、温厚な性格です。ばんえい競馬で見かける大型の馬のことを“どさんこ”と呼ぶ人がいますが、これはヨーロッパ原産の重種もしくはその混血馬で、どさんこではありません。

実は、北海道には元々、馬はいませんでした。開拓の時代に本州より馬を船で運んできて、産業馬として使っていました。その頃は、春から秋にかけて農産物や水産物を収穫し、冬になる前に収穫物を船に乗せて本州に戻っていきました。しかし、船は収穫物と人だけでいっぱいになるため、馬はそのまま北海道の地に置き去りにしていったようです。
そして翌年はまた馬を連れて人がやってくるのですが、前年置き去りにされた馬の中には、北海道の厳しい冬を野山のササだけを食べて生き抜いた馬もいて、それらを捕まえて、また農作業などに使っていました。そして冬はまた置き去りにされるという事を繰り返していく中で、寒さに強く粗食にも耐え得る馬の子孫が生き残り、それが現在の“どさんこ“になったと考えられています。

現在、どさんこは千数百頭ほどが道内で飼われていますが、静内研究牧場では100頭ほどを飼育しています。寒さに強い馬であることから、脂肪をため込み易い体質で、肥育方法にもよりますが筋肉にもサシが入る馬種でもあります。北海道では馬肉を食べる習慣があまりないのですが、馬肉が比較的良く食べられる九州に仔馬を出荷しています。聞くところによると、サシの入った高級なさくら肉として流通しているそうです。

一方で、減少し続けるどさんこを保存するためには、馬肉以外の用途を考える必要があります。足腰の強いどさんこで山野をトレッキングする、小柄で温厚な性格は障害者乗馬にも向いている、単なる乗用馬ではなくスポーツ流鏑馬競技に利用する、災害時の孤立集落に救援物資を輸送し人命救助に用いる、など、北海道和種馬保存協会の顧問として様々な活動にも参加しています。さらに、大学院生の時から続けている林間放牧に関する研究を発展させ、どさんこの放牧によって野草地や森林の管理を行う方法を模索しています。馬の力を使って人が歩きやすい山、トレッキングしやすい森を作る、馬が放牧されている風景も含めた観光利用など、どさんこの可能性を広げていくことが保存につながると考えています。

土地に合った育て方と食文化


静内研究牧場では、肉用牛として日本短角種を約150頭飼育しています。和牛と言えば「黒毛和牛」が有名です。枝肉の格付けが厳格に決められており、筋肉への脂肪分の入り具合や、脂肪の色も審査対象となります。つまり、筋肉にも脂肪が付くくらい太らせる必要があるため、牛舎の中で肥育し、かつ穀物など高カロリーな餌を与え、真っ白な脂肪を蓄えさせるのです。
一方日本短角種は、自分で歩き回って草を食べてくれるので、牧草地での肥育に適した品種です。筋肉には殆ど脂肪が付かず、赤身の肉になります。また青い牧草を食べると皮下脂肪に草の色が付き、黄色っぽく着色します。これが健康に育てられた短角和牛の肉質です。
黒毛和牛とは品種が違うので肉質も違って当然なのですが、国内では黒毛和牛の基準に準じた評価をされてしまうのが現状なので、放牧によって育てられた短角和牛は、低い評価となってしまいます。
日本で牛肉が一般でも食べられるようになったのは明治以来ですので、百数十年の歴史しかありません。一方欧州など古くから肉が食べられている地域では、地域毎に品種があり、地域に合った飼い方をしているようです。放牧で育ち、黄色い脂肪であっても、それが評価を左右するものではありません。むしろ、地域に合った牛肉を美味しく食べる料理、すなわち食文化が、長い時間をかけて醸成されています。


帯広畜産大学に勤務していた時、アフリカ・マラウィでの3年間のJICA草の根技術協力プロジェクトに関わり、毎年3~4回現地を訪問、農家指導をしていました。アフリカで最貧国のひとつとされているマラウィは、他の開発途上国と同じく貧富の差が激しい国ですが、自分達が食べる食糧の確保も難しい農家において、いかに無駄なく効率よく家畜を飼うかがとても重要になります。牛の最大の特徴、利点は、人間が食べることのできない草を、人間が食べることのできる乳や肉に変えてくれることです。つまり、穀物は人間が直接食べ、人間が食べることのできない草や木の葉、穀物を収穫した後の残渣を牛に与えるという、いわば当たり前のことを追求することの意義と、その重要性をあらためて考える良い経験となりました。

時を同じくして、南米・パラグアイでのJICAプロジェクトが始まり、これにも参加して5年間で15回ほどパラグアイに通いました。パラグアイも開発途上国に分類され、南米でも貧しい国のひとつですが、大量に収穫できる穀物の輸出国でもあります。こうした国では、牛が食べることのできる草を利用しつつ、自国でたくさん収穫できる穀物をいかに有効活用するか、がポイントとなり、国や地域が異なれば、おのずと牛の飼い方も異なることを再認識できました。

牧草地に恵まれた北海道において、放牧もせず、海外から輸入した穀物を食べさせ、本州の黒毛和牛と同じものを目指すことは、果たして持続可能な世界なのでしょうか?その土地に合った牛を飼い、その牛に合った調理方法で美味しく牛肉を食べる。牛を作り、育て、食卓に並ぶまでの全てを網羅し、北海道から新たな食文化を発信するために、日々挑戦しています。

北方生物圏フィ-ルド科学センタ-


静内研究牧場 持続的生物生産領域
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