◇インタビュー◇「美しい腸内フローラを目指して」

※インタビューは取材日時点の情報ですので、内容やリンク先が変わっていることがあります


左から西井機構長、三輪代表取締役社長


アテリオ・バイオ株式会社


  • 代表取締役社長 三輪 一典
  • 専務取締役 南田 公子


北海道大学大学院農学研究院




北海道大学産学・地域協働推進機構


  • 理事・副学長 機構長 西井 準治
北海道の初夏の訪れを告げる花として有名なのが「ライラック」です。その「ライラック」の花から乳酸菌を分離したのが、アテリオ・バイオ株式会社のDr.リラ子こと南田公子さんです。同社は2012年1月に代表取締役社長三輪一典さんと南田さんが共同で設立した、バイオ分野の研究開発を基盤とするベンチャー企業です。人の体を内側から健康にしたいと願う南田さんと、食品廃棄物をバイオの力で再生したいと願う三輪さんが出会い、新たな化学反応を起こして産声を上げたアテリオ・バイオ株式会社。同社の誕生から、乳酸菌の不思議な力まで、じっくりとお話をお伺いました。(2017年11月6日)

ライラックの花から熱に強い乳酸菌の発見


「ライラちゃんはすごくいい子です」と南田さん


「私、腸内フローラの研究をしていますが、一般の人にはウンチ研究家って言っています」と、笑顔を見せる南田さんは、酸や熱に強い乳酸菌であるライラック乳酸菌(学名:Bacillus coagulans lilac-01)を発見しました。きっかけは2008年10月からスタートした経済産業省の委託研究プロジェクトである、オカラの付加価値を高めるための研究です。そこで三輪さんと出会い、「熱に強い乳酸菌はいないのだろうか」といった彼の一言から、ライラック乳酸菌が誕生しました。
「この乳酸菌は納豆菌の一種です。だから、土から分離することは可能です。ただ、菌の起源がsoilよりも花の方がいいと思って、社長の家に咲いていたライラックの花から採取しました。私、菌取り名人なんです」と南田さん。
彼女は、北大農学部で応用菌学(当時はオールドバイオ)を学び卒業しました。その後、39歳の時に北大職員に転職して、遺伝子解析などのニューバイオの技術を習得しました。5年半の研究生活は、明け方近くまで実験をして家に帰るといった、職場と家の往復生活でした。その頃出会ったのが、農学研究院准教授の石塚敏先生です。石塚先生はライラック乳酸菌を使って胆汁酸の研究を一緒に行うなど、同社を支える存在です。


「オカラの力を侮ってはいけません」と話す三輪さん


一方三輪さんは、自動車メーカーの研究所で研究プロジェクトに関わった後、父親の跡を継ぎ、新聞配送会社の社長になります。会社を継いだ後も、産業技術総合研究所の客員研究員として研究に関わっていました。「食品廃棄物であるオカラをバイオの力で再生しようと考えていましたが、乳酸菌のサプリメントに行き着いてしまいました」と、笑顔で話します。
同社の看板商品はライラック乳酸菌を使ったサプリメントです。この乳酸菌は「有胞子性乳酸菌」に属し、芽胞という耐久性の高い特殊な細胞構造をしているため、熱や乾燥、酸に強いといった特徴があります。


本名はバチルス・コアグランス ライラック-01という
ライラちゃん


「泳いでいる姿は納豆菌より少し長めで、頭がピカピカ光っています。女の子みたいなので、イラストでは頭にリボンをつけて、ライラちゃんと呼んでいます」と南田さん。
この菌は大豆成分で培養しています。また、培養した菌は熱に強い特性を活かし、オカラと一緒に乾燥し、オカラの微粒子で菌を包むことにより、菌と菌の栄養を大腸の奥まで届けることができます。その結果、トラブルの多い遠位大腸で腸内細菌の活動が活発になります。

ギネス級の人数で行ったヒト介入試験

「会社を作ることは簡単でしたが、商品を売ることは大変です」とお二人は口を揃えて話します。そこで考えたのが、エビデンスの取得です。そのためにはヒト介入試験の必要があります。

北海道情報大学の協力を得て行った試験は、297人の便秘傾向を自覚する20歳以上から80歳未満の男女を対象に1日2グラムのライラック乳酸菌を2週間継続摂取して、チャートを用いて便の色や形の評価、におい、すっきり感、残便感、排便回数などのアンケート調査を論文にまとめました。

この試験結果でヘルシーDo(北海道食品機能性表示制度)を取得し、さらに、消費者庁に提出した機能性表示食品制度の届出が受理されたため、パッケージに機能性表示食品として便通改善などの機能を明記できるようになりました。現在、同社が販売するサプリメントでは、3商品がこの機能性表示食品として消費者庁に届出がされています。

また、試験で用いたチャートは、南田さんが考案した「南田式便性評価法」です。これは、理想の便の状態を色と形で表し、視覚的に判断できるようになっています。しおり型になったチャートは便の色を5段階で評価し、形状は6タイプで判断するようになっています。
便の色の素となるのは、胆汁に含まれる色素のビリルビンです。その色素はpHによって変化し、酸性だと黄色にアルカリ性だと黒色になるという性質があります。

南田さんは「一番いい便の状態は、黄褐色でバナナ型。においはほぼなく、pHだと6.5前後です」と話します。
ヒトの健康には胆汁酸と短鎖脂肪酸が深くかかわっています。石塚先生によると、脂溶性のコレステロールは水に溶けず、輪の形状で硬いため、体内で壊すことができません。それを水に溶ける形にして体の外に出せるようにしたものが胆汁酸です。界面活性剤としての機能があり、多量に腸内に分泌されると腸内細菌叢を変えてしまい、胆汁酸の種類によっては、大腸がんの促進に関わるそうです。


同社と共同で研究を行う石塚先生


また、腸内細菌が出す代謝産物である短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸、プロピオン酸)は、腸内が弱酸性の時に作られます。腸は栄養の吸収と排泄を行う器官で、小腸は栄養素を吸収し、大腸は水分やミネラルの吸収、便を作る役割を担うと考えられてきました。しかし大腸でつくられる短鎖脂肪酸が大腸自体や全身の栄養源になるため、短鎖脂肪酸が不足すると正常な腸の形を保つことができなくなり、ぜんどう運動が停滞し便秘や下痢の原因になることや様々なトラブルの原因になることがわかっています。

食品で人の体を健康にしたい


ライラック乳酸菌は、
2012年に特許を取得しています


三輪さんはライラック乳酸菌を摂取し始めて、その変化を実感していると話します。「若いころから過敏性腸症候群でした。今は健康になりましたが、以前は非常に大変な状態でした。僕自身が腸の問題を経験していますし、腸内環境に関してはすごく需要があると思います。内科の先生は腸の中は体の外になるため、分野の対象外になってしまいます。そういった先生方と一緒に活動を行わなければならないと感じています」。

薬ではなく、食品で多くの人の健康を支えたいと考える南田さんは、「今は便秘傾向の方の便の状態を改善すると表記しています。社長自身は下痢傾向でそれが改善しているため、もう一度ヒト介入試験を行いたいと思っています」と話します。

現在、消費者庁の機能性表示食品の乳酸菌はライラック乳酸菌しかありません(ビフィズス菌を除く)。そのため、国内外の企業から自社ブランドの開発依頼があります。しかし、製造が間に合わずお断りすることが多いといいます。
「今後は設備投資をして増産していきたいと考えています。研究開発にはコストが掛かっていますが、材料費がとても安く、スケールメリットが大きいです」と話す三輪さんの横で、「錬金術です。菌が違うけど」と南田さんは笑います。この南田さんの明るさとパワーが同社の魅力の一つかもしれません。







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