◇対談◇「オープンエデュケーションセンターで培った技術を活かし新たな船出」

※インタビューは取材日時点の情報ですので、内容やリンク先が変わっていることがあります


左から西井機構長、佐多代表取締役、重田副センター長


株式会社オープンコンテンツサービス


  • 代表取締役 佐多 正至


北海道大学高等教育推進機構オープンエデュケーションセンター


  • 副センター長/情報基盤センター 准教授 重田 勝介


北海道大学産学・地域協働推進機構




オープンコンテンツサービスは、2017年5月23日に創業したベンチャー企業です。高等教育推進機構オープンエデュケーションセンター(以下OEセンター)で技術職員をしていた佐多正至さんが代表取締役を務め、教育コンテンツやデジタル教材の制作、開発などの研修・講義に伴う支援業務を行っています。

情報基盤センター准教授・OEセンター副センター長の重田勝介先生が顧問を務め、OEセンターと共同研究をしながら、学習効果の高い教材設計や教育コンテンツの新たな手法を開発した事業展開を図っています。
今回は今後の展望を中心にお話をお伺いしました。
(2017年10月23日)

研究ノウハウを活用した事業展開


(代表取締役 佐多正至さん)


牧内:ベンチャー立ち上げの経緯をお伺いしたいと思います。

佐多:私は約5年間、OEセンターで研究・開発をしていました。その間に教材製作の技術やeラーニングの講座全体の企画を考えるノウハウを身に着けてきました。OEセンターは北大の先生向けのサービスになっています。その同じ技術を北大以外にも提供できないかと考えて、重田先生にも相談した上で、ベンチャーを設立しました。

重田: OEセンターの行っているオンライン教育活動は学外にニーズが結構あります。それを上手く北海道で普及していくことには学内組織であるOEセンターには限界があるため、ベンチャーの形をとりながらOEセンターと連携しつつ、様々な取り組みを推進していく方がいいのではないかという話をしていました。

牧内:OEセンターの全体構造を教えてください。

重田:OEセンターは2014年に設立された高等教育推進機構の組織です。学内でeラーニング向けのデジタル教材を作っています。また、実際にデジタル教材を取り入れた授業開発や、オンライン教育を使った教育改善を目的としています。

オープンコースウエア(以下OCW)と言って、大学が提供する正規講義の教材をインターネット上に無料で公開する世界的な取り組みがあります。北大は2006年から参加しています。佐多さんはそのOCWオフィスで特定専門職員として活動されていました。

OEセンターの設立時はサービス対象が学内に限定していることもあり、OCWのような学外向けのサービス提供は議論の対象になりました。しかし、大学教育の成果情報を学外へ向けて発信することは社会的意義も大きいことから、OCWの活動はいまも継続されています。

最近では、反転授業や予習を行う際に、ビデオで知識を習得し、授業中はアクティブラーニングをするといった授業形態が学内でも徐々に広がってきています。その場合、具体的にどういった内容のアクティブラーニングをしたらよいかといった、デジタル教材の使い方に関する手法の提案や、授業実施の支援も行っています。

牧内:eラーニングを作る会社は他にもありますよね。
大学発のeラーニングサービスというところがポイントですか?

佐多:北大と連携して、共同研究をさせていただいているところが強みです。
OEセンターでの研究成果や豊富にある事例を活用しつつ、弊社で各分野に沿った講義手法やeラーニングの構成をカスタマイズしてお客様に提供できることは非常に意義があります。


(OEセンター内部の様子)


西井:マーケットは道内ですか?

佐多:まずは、道内を中心に弊社の3つのコアサービスを展開していきたいと思っています。1つ目は、環境デザインです。これは、教材やeラーニング全体の構成をデザインしていく機能です。より学習効果が高まるように設計していきます。

2つ目は、著作権処理です。教材内に含まれている資料は第三者の著作物かもしれません。それを一般に公開すると、権利処理が必要になります。その部分を調査して、必要なら利用申請をします。3つ目は、映像の収録と作成です。
   
重田:すべての授業や研修をeラーニングで行うより対面授業と組み合わせた方が効果的なケースがあります。その場合、オンライン学習と対面学習をセットにした全体のデザイン設計を提案します。この教育方法はブレンド型学習という手法です。

著作権処理の代行はOEセンターでもやっています。それを他大学や法人向けに行います。難しい部分は弁護士と相談しながら行う。収録業務は、共同研究の一環としてOEセンターの収録スタジオを共用することも検討しているため、価格競争力が見込めます。オンライン教育に関わるあらゆる支援をワンストップでサービス展開できることが強みだと思います。

効率よく学ぶために重要なeラーニング設計


牧内:企業では、なかなか勤務時間内に研修を行うために人を集めることが難しいかと思います。そういったときに御社のサービスは魅力的なんじゃないでしょうか?

佐多:そこは一番入る余地があるところだと思っています。基礎的な部分はオンライン教育に置き換えて、細かいノウハウやスキルの部分を対面で行うやり方は、企業のコスト削減に繋がると思います。

重田:佐多さんはインストラクショナルデザインという、学習教材を教育全体でどう設計すれば、高い学習効果が得られ、かつ効率良く意慾的に学べるかといった、教育心理学に関係する理論をこれまでの業務を通して学んできました。オープンコンテンツサービスはその部分を取り入れて、研修内容のエッセンスだけを上手く抜き取り、オンライン教材を作ることができます。例えば、10分のビデオを4本作り、クイズの様な出口評価をセットにして学ぶようにする。このような教材をeラーニングで用いることで、これまで集合研修で費やしていた時間を短縮し、より効率的に学ぶことができます。

牧内:すでに提供されている会社のeラーニングを作り直すとコストや時間が半分になるといったことですか?

佐多:はい。私は毎年繰り返し受けなければならない研修は、時間がもったいないと感じます。最初に知識の習熟度の確認テストをやってそれに合格すれば、その部分は受講しなくていい。その仕組みを提案できればと思います。

重田:既存のeラーニングで提供されているコンテンツを評価し直し改善することは考えられます。教育担当者へのヒアリングや研修は、これまで受講した学習者からのアンケート結果などを元に、学習者がより効率的かつ効果的に学べるエッセンスを抽出したデジタル教材が提案できるかと思います。

オープン教材の可能性


牧内:ちょっと話が変わりますが、大学のコースを全てeラーニングにしようといった動きがあり、それはどんどん拡大しているように感じています。マーケットは拡大しているけれど、投資力はないような気がします。投資した分だけリターンがある構図作りですよね。そのあたりはどうですか?

重田: 米国など、教育コストの高い地域では、教材をインターネット上でオープンにして自由に翻訳して使用することや、その国の状況に合わせて改変していいという形での公開が一般的になりつつあります。オープンになっているコンテンツを上手く活用して、日本語に翻訳した後、一部をカスタマイズして作り変えることで、初期コストを下げることができます。一から作るよりコストを下げた状態で企業に商品提案ができます。

牧内:オープンになっている教材を活用した結果というものはありますか?

重田:その例だと、特に米国の2年生大学では、市販の教科書ではなく、それに準じたオープンな教科書やテキストを使っています。実際の授業で使い、卒業できるように全体のカリキュラムを組んでいます。コスト効果と学習効果の研究はかなり進んでいます。

コスト効果では最初のオープンな教科書を作る初期段階のコストはかかりますが、教科書自体は無料になるため学生の費用負担を下げることができます。学習効果についても出口評価により、今までの教科書と同等の学習効果はあるといった結果も出ています。一方で、教科書の置き換えは苦労する部分があり、置き換えを支援する教育サービスもいくつか出始めています。

牧内:北大発ベンチャーとしての広報戦略はありますか?

佐多:わが社はOEセンターと共同研究をしています。その知見をベースに事業展開をしています。それと今回の北大発ベンチャーに認定されたことが信頼性に繋がると思います。研究で扱ってきた内容を事例紹介といった形で利用モデルと一緒に提供できます。

学びたい気持ちから広がるオンライン教育

牧内:世界的にたくさん供給されているeラーニングの中でお勧めはありますか?

重田:大学レベルだと、MOOC(ムーク:Massive Open Online Courses)があります。これは、大規模公開オンライン授業という意味です。その中には、edX(エデックス)という世界トップレベルの大学が作成したeラーニング講座もあり、かなりレベルの高いものもあります。
オンラインで学ぶだけで、修士号やそれに近い学位を取得できるサービスも始まっています。

牧内:その評価基準は何ですか?

重田:評価はネット上のテストです。知識確認のテストだけではなく、レポートを提出します。きちんとした基準に従って総合評価をする。単に○×クイズだけではなく、きちんと学んだ知識を文章にする機会を設けて、能力認定をします。
北大でもMOOCを日本国内や海外へ向けて発信しています。オープンコンテンツサービスでは同じようなことを企業や他大学でも行う場合にサポートができます。

西井:これから、リーディング大学院や卓越大学院プログラムが出来てきます。企業の方が大学院に通って学位を取得する。その逆もあり、学生が民間企業に入って学んだことを単位化していく。新しい大学院ができれば、新しいマーケットもできると思います。


牧内:大学の資源を使って成長してもらうというのが大学発ベンチャーの考え方です。資源を使うにあたってリクエストはありますか?

重田:OEセンターは北大の授業で使うコンテンツは作れますがそれ以外の、研究費を頂いた成果発表や、セミナーのサポートは業務範囲外となりますので、支援することがなかなか困難です。その仕事をオープンコンテンツサービスに依頼していただければと思います。

広報や成果発表など、教育コンテンツを活用した情報発信が今後ますます増えてくると思います。オープンコンテンツサービスを利用していただけると、いい循環ができると思います。

佐多:よろしくお願いします





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