◇インタビュー◇「函館の町から起こる物語それがイノベーション」

※インタビューは取材日時点の情報ですので、内容やリンク先が変わっていることがあります


左から宮下教授、安井教授、布村代表取締役、西井機構長、末富部門長


北海道マリンイノベーション株式会社


  • 代表取締役 布村 重樹


北海道大学大学院水産科学研究院




北海道大学産学・地域協働推進機構


北海道の海には手付かずの豊富な海洋資源があります。その中でも、昆布は北海道の沿岸を中心に分布しています。また、食用に流通している約90%は道内産です。
昆布の種類で代表的な物として、真昆布、利尻昆布、羅臼昆布などの高級昆布の他、とろろ昆布や松前漬けに加工されているガゴメコンブが挙げられます。

2017年6月に設立した北海道マリンイノベーション株式会社は、ガゴメコンブや未利用の海藻に注目し、その機能性成分を抽出する1次加工や、原料である海藻の安定供給などを事業目的とした企業です。同社には、大学院水産科学研究院教授の安井肇先生と宮下和夫先生が顧問として加わっています。

今回は、代表取締役の布村重樹さんが描く、新たな物語についてお話をお伺いしました。
(2017年12月20日)

未利用資源のガゴメコンブ

「函館出身の私でも、ガゴメコンブという昆布があることを知りませんでした」と話す布村さん。彼は、函館地区で2003年から行われてきた、文部科学省の都市エリア産学官連携促進事業に参加して、ガゴメコンブを原料とした製品の販売や、商品開発などに関わり地域の産業を盛り立ててきました。

しかし、2013年には大型プロジェクトの地域イノベーション戦略支援プログラムが終わり、海藻を活用した地域活性の取り組みが徐々に減少してきました。
「地域で長い期間かけて養ってきた研究シーズを活用して、函館地域の漁業者や産業を盛り上げたい」。その思いが、北海道マリンイノベーション株式会社の誕生の起爆剤となりました。


「都市エリアに参加して大学が近くなりました」と話す布村さん


布村さんと両先生との出会いは、函館地域で行われた都市エリア産学官連携促進事業(一般型)の15年前までに遡ります。この事業は、函館地域の魚やイカの高度加工技術の開発や、ガゴメコンブの生態解明と利用方法を研究テーマに関係機関が集まって始まりました。

当時を振り返り先生方は「建設業界の人が入ってきて、原料としてコンクリートにでも入れるのかと思った」と笑います。実は、布村さんは株式会社ノース技研という1967年から続く建設や土木建築に関する会社の社長を務めています。時代とともに事業の形態も変わり、従業員の雇用を守るため、新たな事業開拓の必要性を感じていた時期に都市エリアが始まりました。

布村さんは、この事業の産学官での取り組みを新鮮に感じ、情報収集をしながら今後の事業展開のヒントを模索するために参加します。そこで、研究成果を活用してブランド化に繋げたいと思うようになり、自ら全国各地へ視察に出かけます。その中で分かったことは、都市部の大消費地頼みで、地元に地場産品を消費できる場所が少ないということ。自ら価値を上げて、地域のブランドを作りだしているところはごく僅か…。

布村さんは、素材に高付加価値をつけて、地元の産業に育てていくことが必要かもしれないと感じました。

地域で起こる小さな変化

ブランド化を行うため、まず、地域ぐるみで行ったことが、ガゴメコンブの商品開発でした。さらに、PR活動や観光産業との連携、アンテナショップのオープンなどです。

2009年にはガゴメコンブのブランド化を目指し、28社の企業とともに「函館がごめ連合」が誕生しました。着実に地域に受け入れられていくガゴメコンブですが、一方で生産量の減少といった問題が出てきました。その背景には、昆布漁業が抱える問題があります。


まず、生産者の高齢化。昆布漁は長い柄のついた棹を使い、水中にある昆布を箱眼鏡で覗きながら昆布を絡めとり腕の力で引き揚げます。水分を含んだ昆布は大変重く重労働です。

次に、気候条件の影響。天然資源を収穫するため、その年の天候に大きく左右されてしまいます。この問題を解決するため、安井先生はガゴメコンブの安定生産に繋げる研究を行い、養殖栽培技術を確立しました。北大海洋栽培と呼ばれるこの技術は、ガゴメコンブのライフサイクルを解明し、製品になるまでの期間を天然のガゴメコンブと比較して、3分の1まで短縮しました。また、ガゴメコンブに多く含まれる水溶性粘性多糖類のフコイダン量を2倍以上含有することに成功しました。種苗から一貫した生産体制を確立し、この方法で栽培したガゴメコンブを北大ガゴメと名付けました。

しかし、北大ガゴメにも課題があります。それは、通常の2年物のガゴメコンブと比較して厚みが薄く、同じ2メートルのものとでは、重さが軽く、重量取引では不利になることです。この問題を何とか解決するため、布村さんは「自分たちでフコイダンを抽出して、加工原料として出荷すれば、生産者の収入が安定したものになるかもしれない」と考えました。

まず、先生たちと協力して任意団体の海藻活用研究会を立ち上げました。しかし、研究会はあくまでも任意団体であるため、きちんとした契約ができない。生産者の収入を安定するためには、きちんと契約して昆布を購入する仕組みを作る必要がありました。それは、函館の企業であり、地元に応援してもらえる企業。布村社長が目指す、北海道マリンイノベーション株式会社の姿です。

地域密着型の産学官連携

地元企業と大学が一緒になり、たくさんの新たな製品を生み出してきました。そのことについて宮下先生は「水産学や農学はその地域に原料があって、初めて価値が生まれます。地域の人たちと連携しなければ、絵に描いた餅になってしまいます」と話します。


函館にある同社の製造施設


東京や大消費地にメーカーがあるのではなく、原料の近くにメーカーがあることの意味は非常に重要です。

一方、安井先生は「人が居て、技術があって、それを工夫したい心がイノベーションの素だと思います。小さな町工場が大学と一緒になって取り組むことで、いろいろな物語が生まれて、どんどん大きくなっていく。長年続けていくことでイノベーションを起こしてくれる。物語が好きなんです」と笑います。

産声を上げた会社の象徴


連携から生み出される新たな商品


2018年12月に同社から発売を開始した商品に、「北大石鹸」があります。この石鹸は3種類あり、保湿や免疫力の強化に効果のあるフコイダンや美肌や脂肪燃焼に効果のある脂溶性のフコキサンチンを石鹸の原料に豊富に含ませています。

布村さんは「この石鹸は、海藻から機能性成分を抽出して、メーカーさんの使いやすい形で提供できることをお見せしたくて作りました。抽出した機能性成分を使い、原料としての海藻に高い付加価値をつけることができます。実際に当社ができることは何かを説明したのが石鹸です。さらに消費者の方がよく使う石鹸という形で提供することで、皆さんに喜んでいただきたいという気持ちを込めました」。最後に新たな海藻産業のバリューチェーンの構築による役割を果たし、地域に貢献できるようなベンチャー企業に発展させていきたいと、布村さんは意気込みを語りました。


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