◇インタビュー◇ポーラスター・スペース「宇宙事業に挑む日本の侍」

※インタビューは取材日時点の情報ですので、内容やリンク先が変わっていることがあります


左から西井機構長、中村代表取締役社長、髙橋教授


株式会社ポーラスター・スペース


  • 代表取締役社長 中村 隆洋


北海道大学大学院理学研究院/創成研究機構・宇宙ミッションセンター


  • 教授 髙橋 幸弘


北海道大学産学・地域協働推進機構


  • 理事・副学長 機構長 西井 準治
宇宙から見る地球は、いったいどのような色に見えるのでしょうか。
1961年世界初の有人宇宙飛行士として、ボストーク1号に搭乗したソ連(当時)の宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンは、「地球は青かった」と、有名な言葉を残しています。

この言葉を聞いて育った方は、地球は青いと認識しているかもしれません。
では、科学技術が発展し、衛星やロケットの開発が民間レベルで行えるようになってきた現代社会においても、地球の色は青いのでしょうか。

この疑問に答えを出す会社が、2017年9月22日に産声を上げました。
社名は、株式会社ポーラスター・スペース。
北極星のように、北の大地を中心に大きく世界へと羽ばたく企業を目指し、高性能なスペクトルカメラのリモートセンシング技術と、それによって得られたデータを武器に、未開拓の宇宙事業へ一石を投じるベンチャー企業です。

今回は、事業パートナーとなった髙橋先生と、アイディアと技術力を武器に勝負する中村さんの取組みについてご紹介します。
(2018年1月18日)

一点突破、農業分野に新風を


事業概要を説明する中村さん


「弊社の事業は課題解決型事業です。リモートセンシングは農業や資源開発、防災、都市活動あらゆる分野に応用できます。まずは、現代農業が直面する課題にフォーカスして事業を行っていきます」と、中村さんは説明しました。

リモートセンシングとは、主に電磁波を利用して遠隔点(remote)から、対象物を非接触で計測(sensing)して、対象物の形状や特徴の分析、識別をする技術です。人間の目で見ることのできる可視光線の波長領域以外も使い、植物の生育状態を表す植生指数(NDVI)や地上の熱環境、土壌や作物の性質などの様々なデータが取得できます。

具体的に髙橋先生は、「例えば農地や作物の状態です。水や肥料が足りないとか、病害虫が発生しているといった情報などをいち早く見つけることができます」と、話します。

リモートセンシングは用いる技術によって得られるデータに差があります。特に、光のスペクトルを観測する分光撮像装置の種類によっても、データに違いが生じます。


技術の説明を嬉しそうにする髙橋先生


そのことについて、髙橋先生は「世界中でリモートセンシングを農業の現場で使う傾向があります。しかし、多くの企業で用いる撮影画像は4バンド(波長)か5バンドほどです。それではスペクトル情報が粗すぎます。実際に事業を開始すると、なかなか思うようなデータが取得できません」と説明し、「我々が使う装置は光を590バンドの中から最適なバンドを選んで撮影することができ、欲しい情報をより正確に引き出すことができます。メリットは、ずば抜けて高い精度でスペクトル計測ができることです」と言葉に力を込めました。

同社は、スペクトルの撮影に利用する分光方法に、液晶波長可変フィルタ(LCTF)を使用します。
従来の複数のフィルタをターレットに載せてそれを回転してバンドを選択する方式は、波長を切り替える際に時間を要し、また装置が大型化して故障を招きやすいなどの問題がありました。しかし、LCTF方式は、液晶にかける電圧を変えるだけで、撮影したい波長を瞬時に選ぶことができ、さらにトラブルの心配が大幅に軽減されます

コアとなるデータライブラリー

では、同社が行う「課題解決型事業」に向けた秘策とは、いったいどのようなことでしょうか?
中村さんは、「データのライブラリー作成です」と強調します。「現代農業は、これから爆発的な人口増加によって食糧危機を迎えることが考えられます。また、農薬や化学肥料の大量投入によって引き起こされる土壌汚染や病害虫の大発生、日本の就農人口の減少など、多くの問題を抱えています。それを私達は、様々な方法を用いて、計測条件や作物の種類、その状態についてのスペクトルライブラリーの構築を目指しています。さらにリモートセンシングから引き出す情報の信頼性や、計測頻度を飛躍的に向上させようと考えています」と、事業の方向性を語りました。


いもち病のスペクトル画像


「例えば稲です」と続け、中村さんは、スペクトルでいもち病を同定した画像を見せてくれました。稲にはカビの一種のいもち菌によって引き起こされる病気があります。発病すると、稲の養分を奪い、葉や穂を枯らす被害をもたらします。「他にも収穫量の予測やたんぱく質含有量の推定、肥料の過不足などを観測することができます」と話しました。

一方、髙橋先生は、「スペクトルは、撮影物の光源の向きによってデータが変わります。そこで垂直な真下だけを観測すると、観測幅がとても狭くなり、一定の面積を観測するためには、計測に膨大な時間がかかります。我々は、斜めからの撮影であっても、スペクトルデータを補正して高精度なデータに戻そうと考えています。そのためには、作物ごとの様々な状態と、あらゆる角度からのスペクトル計測によって得られたデータライブラリーが必要になります」と言います。

地上・上空・宇宙からの情報


スマホ一体型分光器のイメージ図


同社の強みには、スマホ一体型分光器とLCTFカメラ搭載ドローン、LCTFカメラ搭載超小型衛星の3つのアイテムがあります。では、この3つにはどのような技術が備わっているのでしょうか?

まず、スマホ一体型分光器とは、多波長のスペクトル計測ができる安価な分光器をスマートフォンに取り付けたものです。利用者は計測位置や太陽光の向きを気にすることなく、スマートフォンのアプリでシャッターを押すとスペクトルデータが、GPSの位置や分光器の向きといった情報と共にネットワークサーバーに送信されます。そのデータを蓄積したものがライブラリーとなります。


LCTFカメラ搭載ドローンのイメージ図


中村さんは近い将来、撮影した作物の状態を瞬時にユーザーへフィードバックするサービスを提供していこうと考えています。

次にLCTFカメラ搭載ドローンです。
一般的に用いられるプッシュブルーム方式は、コピー機が書類をスキャンするように、ドローンが対象物の上を移動しながら撮影するため、画像がブレやすく、また、違う角度から撮影したデータを取得するためには、たくさんのフライトを繰り返す必要があり、時間と費用がかさみます。

髙橋先生は使用技術の優位性について「我々はドローンにLCTFカメラを搭載してスペクトル撮影を行う手法を開発しました。この手法は、ホバリングするドローンから1度に広範囲のブレないスペクトル撮影を可能にしました。


LCTFカメラ搭載超小型衛星のイメージ図


例えばこの方法を用いると、高度150メートルの高さから20センチ程度の解像度で自在にスペクトル撮影ができます」と、強調しました。

最後のアイテムはLCTFカメラ搭載超小型衛星です。

人工衛星を利用したリモートセンシングは、観測対象を正確に把握するために、衛星の直下しか観測できず、観測範囲の狭さや、観測頻度の低さが弱点です。そのため、収量予測や病害虫による被害発生の監視など、継続的にデータを取得する必要のある農業分野での活用には限界があります。

しかしながら、髙橋先生は東北大学と協力して、1日に1度以上の割合で継続的に観測データを取得できる超小型衛星を開発した実績があります。
その技術を利用して、同社が独自衛星を1~3機ほど保有すると、毎日のように顧客に情報提供を行うことが可能になります。

機動力のあるスマホ一体型分光器は作物の近接データの蓄積を行い、ドローンは上空から地上の広範囲なデータを集め、人工衛星は宇宙から連続したデータの観測を行います。この3つが融合することで、ユーザーの欲しい情報の提供が可能になり、同社の目指す課題解決型事業に繋がります。


近い将来地球規模の衛星オンデマンド観測が
実現するかもしれない


中村さんは最後に「宇宙開発に携わると、ロケットや衛星を打ち上げることばかりに気持ちが向いてしまいます。しかし私達は、得られるデータの分析や解析をして、ユーザーが抱える問題解決策の提案をしたいと思います。それが私達の考える宇宙事業です」と、言葉に力を込めました。

世界中で宇宙開発が活発化する中、精確なデータに基づいた「課題解決型事業」を行う中村さんたちからは、今後も目が離せません。






北海道大学 TLO通信 創業デスク 北海道大学研究シーズ集 vol.5
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